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第十三章:新たな地

226.グライスエンドの町

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 聞こえて来た声のする所に向かうと、そこにはとてつもなく大きな穴が出来ていた。
 泉があった面影も無く、ただただ黒茶色の地面が強い衝撃でえぐれているだけだ。

 そして彼女の悲痛な叫び声は、穴の下から聞こえて来ている。

「フィーサの姿も見えないのだ」
「一緒に落ちて行ったか?」
「アック、どうするのだ?」

 地下に落ちてしまったルティは、自力では上がって来られない。
 フィーサだけであれば、どこにいても問題は無いのだが。

『ルティシア!! フィーサ! 聞こえるか?』
『あぁぁっ! アック様ぁぁぁ! ルティはここにいますです~』
『イスティさま、わらわもここにいるなの!』
『分かった。いま助けるから、大人しくしてろよ』

 ――とはいうものの、風を起こして浮かせるにしても、どこに立っているのかが不明だ。
 おれが地下に降りて行って抱きかかえるか、あるいは。

「ウニャッ! シーニャ、試してみたいのだ。やってもいいのだ?」
「……ん? 何を試したいって?」
「これなのだ」

 そういうとシーニャは、手元から木の根のようなものを顕現させて、地中に伸ばし始めた。

「――むっ!? 魔法か!」

 木の根が魔法なのか分からなかったが、彼女が着ているエレーヴクロークにある宝珠が、魔法発動と同時に光っていることに気付いた。

 魔石ガチャで引いた装備が性能を発揮しているということは、木属性攻撃を受けたということになる。

 そして、

「ゼ~ゼ~ハァァ~……あ、ありがとうございますです~」
「ウニャ。ドワーフを助けることが出来て良かったのだ!」

 どうやらおれが地下に落ちている間に、シーニャは木属性魔法を使えるようになったようだ。
 派手な男のことも気になるが、樹人族リアンがもたらした魔法はシーニャを成長させてくれたらしい。
 
「……それで、どうしてフィーサも一緒に落ちていたんだ?」
「ドワーフ小娘が泣きついたから、一緒にいてやるしかなかったなの。わらわはそこまでひどくないなの」
「そっか、ありがとうなフィーサ!」
「と、当然なの」

 神剣フィーサブロスは、人化に限らず自在に動くことが出来る。
 空に浮くことも可能だし、今みたいに地下に落ちても自力で戻ることが可能だ。

 そういう意味では、ルティと一緒にいてくれて良かったと言える。

 ◇◇

「地面を殴って自分が落ちるとか、自業自得というやつなのだ」
「はうぅ~……シーニャを助けようとしたのに~」
「でもこれでおあいこなのだ! 気にするな、なのだ。ウニャッ!」
「うんうん!」

 ケンカすることも多いが、シーニャのおかげでルティも落ち着きを取り戻した。
 ルティが落ち着いたことでおれたちはこの場を離れ、ようやくグライスエンドの町に足を進める。

 しばらくは土の地面が続き、何の建物も見当たらなかった。
 しかし小屋がいくつか見えるようになった辺りから、人の姿がちらほら見えるようになって来た。

 おれたちを見て驚いた様子を見せているが、特に睨んで来るといった感じは見えない。
 シーニャとルティの姿を見ても驚きはないようで、どちらかといえばおれだけに注意を払っているようだ。

 まだ町の中心ではなく町の人間もまばらだが、ようやく石で敷き詰められた道に変わった。
 その辺りでようやく、宿や雑貨屋といった建物が見えて来る。

 だが、年季の入った木造の建物の窓には木板が張り付けられていて、何の店なのかすら分からない。
 目に見える人たちが出入りしている様子は無さそうだ。

 末裔が多く住むグライスエンドは、長らく外との交流を避けて来ている。
 
 ここにはイデアベルクを再建しなければ来られなかったわけだが、ギルドらしき建物が無いところを見れば、ひっそりと暮らしていただけのようだ。

「退屈なのだ。アック、攻撃はまだなのだ?」
「ここはそういう場所じゃないな。もっと奥に進めば、いずれ向こうからやって来るはず」
「シーニャ、頑張るのだ!」
「その意気だぞ」

 新しい魔法を使えるようになったからなのか、シーニャは張り切っている。
 だからといって、むやみやたらに攻撃が展開されても困るが。

 ここが危険な町ということはよく分かったが、末裔の連中の狙いが分からない。
 それだけに、こちらから積極的に攻撃を仕掛けるというのは避けるつもりだ。

「イスティさま。わらわ、この液体をいつ使えばいいなの?」
「ん~……」
「アック様っ、アック様! あそこに料理屋さんがありますよ~!」
「そういや、腹が空いたかな」
「行きましょ、行きましょう~! さぁさぁさぁ!」
「……そうするか」
「むぅぅ……し、仕方ないなの。ルティについて行ってあげるなの」

 見るからに人も増えて来た所で、それらしき建物が目につく。
 この町の全てが危険と決めつけられないので、ここはルティに任せることにする。
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