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第十三章:新たな地
222.グライスエンド・リアンの庭 ②
しおりを挟む「アック、何も出ないのだ?」
「う、ん……彼女が敵と決まったわけじゃないしな」
グライスエンドに入ってすぐ、眼前に広がっているのは草原と泉だけ。
小屋も無ければ、人の気配も無い。
声をかけて来た女性は美少女いや、少女というと失礼かもしれないが、言葉遣いも相まって幼い感じを受けた。
敵意は感じられないが、肩下にまで伸びた黒い髪と黒い瞳からは何かを探るような雰囲気がある。
気配から察するに、普通の人間ではなく何か別の生き物のようだ。
冒険者のような黒茶色い装備一式をまとっているが、その正体は何かの末裔あるいは、村人。
何となく気になって、ついついリアンと名乗った女性を見つめてしまった。
すると、
「イスティさん。ぼくのことが気になるの?」
「あっ、いや……見たことが無い防具だなと」
「いいでしょ、これ。ぼくが大好きなブレストなんだ~! ここの子たちも気に入ってるんだよ」
リアンは両腕を目一杯広げながら、満面の笑顔を見せている。
しかし彼女が何を言っているのか分からないので、聞き直した。
「ここの子たち?」
「どうして分からないのかな……。じゃあ会わせてあげるよ。会いたいよね?」
ここの子たちと言われても、目の前にいるのはリアンだけだ。
何かヤバい気がする。いったんここから離れて、外へ出るか。
シーニャもルティたちのいる泉に行っているが、呼び戻さなければ。
『シーニャ、ルティ! フィーサ!! こっちへ戻れ!』
間に合えばいいが、カンが正しければこの気配は危ない気がする。
「イスティさん。みんなに会わせてあげるね!」
「……えっ? ――うっ、うわっ!?」
リアンの言葉の直後、視界が直下に変わっていた。
警戒し始めのほんの一瞬だったが、不意打ちのように立っていた地面が陥没。
みるみるうちに、地中深くにまで沈められてしまった。
◇◇
地中の底にたどり着いたのか、見回す限り真っ黒い土の壁しか見えない。
見上げると姿が確認出来ないくらい落とされたようだが、地上部分からはリアンの声が聞こえて来る。
『イスティさん~! 女の子たちはぼくが遊んでてあげる。イスティさんは、みんなと遊んでね!』
声だけ聞けば危ない感じは受けないが、どうやらおれの答えに対し、敵対心を高めたらしい。
リアンから感じた気配は、間違いなく敵意だ。
風魔法で地上に上がれるが、地下深くに落とされたのには何か意味があるのだろう。
シーニャたちのことが気になるが、まずは光魔法で辺りを照らして考えることにする。
そうして辺りを照らすと、ここが広い空間だということに気付く。
横穴から抜け道のようなものが見えた。
そこに進もうとしたが、横穴から複数の気配が近づいている。
どうやらこの気配が、リアンの言う子たちだろう。
「イスティ?」
「この子がイスティ?」
「イスティがいる」
「きっとイスティだよ」
にぎやかな声が地下に響き渡っている。
声の主たちはどう見ても、幼い少女たちにしか見えないが……。
「ねえねえ、きみがイスティで合ってる?」
嘘をついても仕方が無いし、恐らくリアンによってここに落とされたことも分かっているはず。
正直に返事をしてみるか。
「おれがイスティ、アック・イスティだよ。君たちがそうなのかな?」
「イスティ、イスティ……オマエが!」
「――むっ!?」
返事を返すと、突然少女たちの気配が変化。
そしてそのまま地下の地盤が激しく振動を始め、鳴り響きだす。
数にして六、七人の少女だった子たちが、細長く足の無いワーム族に姿を変える。
やはりモンスターだったようだ。
元が少女たちだっただけに、そこまで脅威は感じられないが……。
どう戦うべきか。
◇◇
『ウウゥゥ!! お前、アックをどうしたのだ!?』
『アック様、アック様は~!?』
『今頃あの子たちに溶かされているかも~? それより、ぼくと遊ぼうよ!』
『お前、気に入らない。アックのために、シーニャがお前倒す……!!』
おれが地下に落とされたその時、地上ではリアンと名乗った少女とシーニャ、ルティの戦いが始まろうとしていた。
『えぇ!? アック様が、もしかして~!?』
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