217 / 577
第十三章:新たな地
217.末裔の町・グライスエンド 外門攻防戦②
しおりを挟むフィーサの言葉通り、まずはシーニャを攻撃に向かわせた。
複数の魔術師らしき連中がどこからともなく呼び出し、従わせているのはウルフ族のようだ。
四つ足ではなく二足で立っているので、恐らく獣人タイプだと思われる。
ウルフ族は命令を待っているのか、こちらに向かって来ない。
奴らが動きを見せるよりも先に、シーニャはすでに標的を捉えている。
『ウルフなんかにやられるわけが無いのだ!! ウニャッ!』
離れた所から見た感じでは、連中が従えている獣は特性を持たないタイプのようだ。
単なる近接物理攻撃ならば、シーニャには傷一つ付けられないだろう。
『ウガウゥッ!』
温泉効果は不明だが、シーニャの爪による攻撃力が高まっているようだ。
俊敏な動きを見せつつも、複数の獣からの反撃に対し、軽やかなステップで余裕でかわし続けている。
命令の無い獣たちは、シーニャの動きに戸惑ってなすすべもない状態だ。
連中と同じ数の獣は、黙って彼女の攻撃を受けている。
次第に獣は一体、また一体と力なく倒れて行く。
『……こんなもんなのだ? 全く手強さを感じないのだ!』
強さのレベルがまるで違いすぎるうえ、奴らは獣に命令を出すどころか、倒されても何の動きも見せて来ない。
『シーニャ! 残り一体だぞ。全て倒すんだ!』
『ウニャッ!!』
連中が何を考えているかは分からないが、相手にもならない獣を出しても無駄だと分からせるため、全て倒させることにした。
だが、
「何か様子がおかしい……」
「……イスティさま。気付いたなの?」
「残り一体だったはずだよな?」
「はぇ? あの狼って、さっきまで倒れていませんでしたっけ」
「そうだよな……。ここから見ていても気付くよな」
「シーニャが気付いているかなの。もしくは一度、呼び戻した方がいいなの!」
シーニャが戦っているウルフ族は、魔術師と同様に五体ほどいた。
その内の四体はすでに倒し、残り一体にとどめを刺す寸前だった。
ところがどういうわけか、地面に倒れていたウルフ族が次々と起き上がり始めている。
全滅させる寸前だったにもかかわらず、何事もなかったかのように復活を遂げているようだ。
『ウゥ!? な、何なのだ!? 倒したのに、また起き上がって来るのだ?』
あの様子では、何が起きているのかシーニャには理解出来ていない。
ずっとウルフ族だけに注目していたが、奴らの動きに注視すると、やはり何かをしているように見える。
「イスティさま。わらわの知識が正しければ、あの者たちはネクロマンサーだと思うなの!」
「灰色の連中がか? 確か死した者を蘇らせる術者だったか?」
「で、でもでも……おかしいなの」
「何がおかしいんだ?」
フィーサの知識というのは、900年もの間に世界を知り尽くしたところから来ている。
その彼女が発したネクロマンサーは、確かに初めて聞いた。
自分が発した言葉に疑問を持っているようだが……。
「――アック様っ! シーニャが息を切らせています! 私、連れ戻して来ます」
そうこうしているうちに、シーニャが劣勢に変わっていたらしく、ルティが飛び出していた。
確かに、あれだけ余裕だった彼女の動きが、鈍くなって来ているのが見て取れる。
ルティの状況判断は意外なものだったが、あいつならシーニャを連れ戻せるはず。
「それで、フィーサ。どういう意味――」
鞘に収まっていたフィーサだったが、人化しているうえ、青ざめた顔があった。
まるであり得ないことが起きていると言わんばかりの、身震いを起こしている。
「ネクロマンサーはすでに存在しないはず……それなのに、灰色の連中がしていることは紛れもなく……」
「存在しないってのは、術をかける者がってことか?」
「……おかしい、おかしすぎるよ」
確かに聞いたことも無いが、それなら何故連中がそれを使っているのか。
そういうことなら、直接聞いてみるしか無いだろう。
シーニャを疲れさせるまで獣を蘇らせ続けたのも気に入らないし、おれが示すしか無い。
「ゼハーゼハー……、アック様っ! シーニャを連れ戻しましたっ!」
「ウゥゥニャ……わけが分からないのだ……」
「ルティ、よくやった! シーニャもな」
「はいっっ! 私もやる時はやれるんですよ~!」
「どうするのだ? アック」
「……みんなはここで休んでていいぞ。おれが近づいて、奴らの話を聞いて来る」
フィーサの怯えと震えは、恐怖によるものと不信によるもののようだ。
どうなっているか不明だが、まずはウルフ族の蘇らせをかき消すことにする。
0
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移
龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。
え?助けた女の子が神様?
しかもその神様に俺が助けられたの?
助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって?
これが話に聞く異世界転移ってやつなの?
異世界生活……なんとか、なるのかなあ……?
なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン?
契約したらチート能力?
異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな?
ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない?
平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。
基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。
女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。
9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。
1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~
ゆさま
ファンタジー
新作ゲームアプリをテストプレイしてみたら、突然ゲームの世界に転送されてしまった。チートも無くゲームの攻略をゆるく進めるつもりだったが、出会った二人の美少女にグイグイ迫られて…
たまに見直して修正したり、挿絵を追加しています。
なろう、カクヨムにも投稿しています。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
追放の破戒僧は女難から逃げられない
はにわ
ファンタジー
世界最大の力を持つドレーク帝国。
その帝国にある冒険者パーティー中でも、破竹の快進撃を続け、今や魔王を倒すことに最も期待が寄せられると言われる勇者パーティー『光の戦士達』。
そこに属する神官シュウは、ある日リーダーであり勇者として認定されているライルによって、パーティーからの追放を言い渡される。
神官として、そして勇者パーティーとしてそぐわぬ素行不良、近年顕著になっていく実力不足、そしてそんなシュウの存在がパーティーの不和の原因になっているというのが理由だが、実のところは勇者ライルがパーティー内で自分以外の男性であるシュウを追い払い、ハーレム状態にしたいというのもあった。
同じパーティーメンバーである婚約内定者のレーナも既にライルに取られており、誰一人として擁護してくれず失意のままにシュウはパーティーを去る。
シュウは教団に戻り、再び神官として生きて行こうとするが、そこでもシュウはパーティー追放の失態を詰られ、追い出されてしまう。
彼の年齢は20代後半。普通の仕事になら就けるだろうが、一般的には冒険者としては下り坂に入り始める頃で伸びしろは期待できない。
またも冒険者になるか?それとも・・・
拠り所が無く、愕然とするシュウはだったが、ここで一つのことに気が付いた。
「・・・あれ?これで私はもう自由の身ということでは!?」
いい感じにプラス思考のシュウは、あらゆる柵から解き放たれ、自由の身になった事に気付いた。
そして以前から憧れていた田舎で今までの柵が一切ない状態でスローライフをしようと考えたのである。
しかし、そんなシュウの思惑を、彼を見ていた女達が許すことはなかった。
※カクヨムでも掲載しています。
※R18は保険です。多分
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる