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第十三章:新たな地

210.間欠泉の村ファレワル

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「それではっ! 外に向けて出発しますよ~!」
「気を付けろよ、ルティ」
「お任せ下さいっ!!」

 ――などと張り切って先導しているが、外に出てすぐに何かが起きても不思議じゃない。

「アック。ドワーフは自由にさせるべきなのだ」

 シーニャがルティを認めるようなことを言うなんて、珍しいことがあるものだ。
 彼女が認めているなら心配しなくてもいいのか。

「……ん?」

 そう思っていたら、シーニャは首を左右に振っている。
 何か気になることがあるのかと思えば、その顔は諦めにも見えた。

「違うのだ。ドワーフはもうダメなのだ。ケンカするだけ無駄なのだ」
「そ、そうか」

 料理にもトラウマがあるし、ルティに対する感情についてシーニャは学習をしたようだ。
 おれはルティに対して何も苦になることが無いが、耐性の問題があるかもしれない。

 フィーサが目覚めないこともあってか、シーニャは随分大人しくなっている。
 こうなるとせめておれだけは、彼女を元気づけてやらなければ。

「ウニャ、そろそろ外なのだ。戦いに備えておくのだ?」
「どうなるのかは分からないからな。シーニャはおれの傍にいてくれ」
「ウニャッ!」

 先導するルティから何の返事も無いまま、おれとシーニャは一緒に外に出る。
 すると目の前には、簡単には登れそうにない段差状の崖が立ち塞がっていた。

「何だ、行き止まり?」
「ドワーフはどこに行ったのだ?」
「……まさかここを登って、先に進んでしまったんじゃないよな」
「ウニャ~、シーニャでも無理なのだ」

 風魔法を使えば空を飛ぶことが出来るが、ルティがいない所を見れば自力で上がったはず。
 樹洞側を振り向いても腐りかけの大木が穴をのぞかせているだけで、変わった様子は見られない。
  
 多少気になることといえば、心なしか地面が揺れていることと、どこからか音が漏れ聞こえていることだ。
 
「ウゥ、ウニャゥゥ……足がおかしいのだ」
「どうした?」
「分からないのだ。でも何だか変な気がするのだ」

 そしておれには感じられないが、シーニャが足元を気にしている。
 さて、どうするか。風を使えば崖上には行けそうだが。

 ここは思い切って声を張り上げてみるか。
 
『ルティシア・テクス!! どこにいる? 無事なら声を張り上げてくれ!』
「ウニャッ!? び、びっくりしたのだ」

 シーニャを驚かせてしまったが、声を張り上げて数秒後、崖上からルティの声が響いて来る。

『あ~!! アック様~! ルティは上にいますよ~!! もう降りられないので、アック様が上がってきて下さ~い!』
『何っ!? どうやって……それより、無事なのか?』
『はい~! そこの地面の窪みに立っていれば、自然に上がって来られますよぉ~!』

 どうやらルティは無事で、しかも崖上はかなり高い所にあるようだ。
 ルティの言う地面の窪みは、よく目を凝らすと所々に見られる。
 
 しかも音の出所は窪みのようで、シーニャがしきりに気にしていた正体が判明。

「ウニャァァァァ……!! あ、熱すぎるのだ! な、何なのだ……」
「――水蒸気か! そうか、どうりで目に見えないわけだ」
「ウニャ?」
「足元が熱いか? シーニャ」
「ウ、ウニャ……。ムズムズするのだ」
「――ということは、この辺は地熱が高い……か。風魔法でも上がれるが、水蒸気に身を任せてみるか」
「どうするのだ?」

 ルティは火山渓谷の生まれなので水蒸気にあてられても気にならなかったようだが、シーニャは熱さに耐えられないはず。
 
 それならこれしか方法は無いだろう。

「シーニャ、おれにしっかり掴まれ! 上に飛ぶぞ」
「フニャ……だ、大胆なのだ」

 いわゆるお姫様抱っこのようになってしまうが、シーニャを水蒸気にあてるわけには行かない。
 そして水蒸気が湧出するまでしばらく待っていると、

『ウギャニャァァ!? と、飛んでいるのだ~!?』
『大丈夫だ。しっかり掴まっているんだぞ!』

 地面の窪みの直下から、勢いよく水蒸気が噴き上がる。
 そのままおれを崖上に向けて、失速することなく運んでくれた。

 ◇◇

「アック様! シーニャ! お待ちしていまし――あ~!! ズルいです、ズルいですよぉ~」
「ルティか。ケガも何も無いようだな。そしてズルくないぞ? シーニャを見て気付かないのか?」

 抱っこはしていたが、それでも熱の影響を受けてぐったりしている。
 寒い所よりも、熱のある所は厳しいかもしれない。

「えぇ? あっ、そ、そうですよね!」
「……そういうことだ。ルティは熱とかに耐性があるだろうけどな」
「ごめんなさいです。そ、それじゃあ、ここでシーニャを休ませてから進みましょう!」
「この先に何があるんだ?」
「村です! ファレワル村って木板の道しるべがありました!」

 どうやらすぐに襲われるような危険な所では無さそうだ。

「そこまでは一本道か?」
「上がって来たけど、また下って行く道みたいです」
「それなら今のうちに、ルティも休んでいいぞ」
「ではではっ、そうさせて頂きますですっ!!」
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