上 下
209 / 577
第十三章:新たな地

209.道しるべと戦いの予感

しおりを挟む

「シーニャ! 上だっ」
「ウニャウッ!!」

 魔物の隠れ場所になるだけあって、天井や両側の壁には小さな魔物が棲みついていた。
 樹洞内部は、岩で出来た洞窟でもないので所々に日が差している。

 レベル的に大したことは無いが、戦うのには窮屈な所ということもあり、シーニャと連携して魔物を排除しまくっている最中だ。

 ルティは暗闇と狭い所では拳を存分に振るえないとかで、後方支援を望んで控えている。

「ウウウ……、すり傷がたまるのだ」
「痛むか?」
「痛くは無いのだ。どっちかというとかゆいのだ」

 ここでの戦いは魔法を一切使わず、森に強いシーニャ一人に任せている。
 ここにいる魔物のほとんどはコウモリが多いが、厄介なのは樹木に長く居着いている樹人じゅじん族だ。

 はっきりとした姿は確認出来ないものの、皮膚がかゆくなる樹液のような攻撃を仕掛けて来ている。
 これには強さがあるシーニャでも、完全に防ぐことが難しい。

「……ふむ。ルティ! シーニャに回復薬を投げてくれ!」
「は、はいっっ! 投げればいいんですね~!?」
「急げ!」

 シーニャ自身は回復魔法が使えるが、攻撃に集中している時は回復する意思を閉じているらしい。
 そんな時に有効なのは、ルティの料理と錬金術、それと薬師の知識だ。

 薬師くすしとしてのスキルはまだ基本でしか無いが、回復薬程度なら即作れる。
 そう思って任せていたら、

『シーニャ、行きますよぉ~!!』
『……ウニャ?』
『てぇい、てぇい、てぇぇぇぇい~!!』
『フギャッ!?』

 何事かと思っていたら、ルティは大量に作っていたらしい回復薬を次々と投げまくった。
 回復薬は瓶では無く改良された小さな麻袋に入っているようだが、いくら何でも投げすぎだ。

 予想もしていなかったシーニャが、大量の麻袋の重さで転倒。
 かえってダメージを負ったように見える。

「ルティ! あ、あんなに重たいもんを投げなくても……」
「いやいや、軽いものですから大丈夫ですよ~! 即効薬ですから、たちまち超回復! ついでに耐性も得ちゃいますよ~」
「どんな効果があるんだ……」
 
 意表を突かれたシーニャだったが、大量の麻袋効果で辺りの魔物もいなくなったようだ。
 回復薬の効果が効いたようで、シーニャはすぐに起き上がりおれの元に戻って来た。

「アック、アック! ドワーフが一番危険なのだ!!」
「かゆみとか痛みは消えた?」
「ウニャッ! それだけはドワーフのおかげと言うしか無いのだ……」
「そうだな……」

 シーニャへの支援を成功させたとはいえ、おれに怒られるのを予想してか、ルティが頭を抱えてうなだれている。
 元はと言えば回復薬を投げさせた原因がおれにあるし、ここはむしろ褒めるべきか。

「はぁぅぅ~……またやりすぎちゃった……」

 相当に落ち込んでいるようだが、ここは優しく声をかけてあげねば。

「あ~……え~と、ルティ!」
「ひ、ひぃ……は、はい~?」
「いや、怒ってないから顔を上げていいんだぞ?」
「で、ですけど~……」
「そ、それじゃあ、回復薬をおれにもおすそ分けしてくれないか?」
「アック様にですか!?」
「おれは自然治癒はあるけど即効薬は無いから。だからもらえると嬉しいぞ!」
「そっ、そういうことでしたら!」

 決して嘘でもない言葉に、ルティはすぐに顔をぱぁっと輝かせた。
 これにはシーニャも安心した表情を見せている。

 おれに何袋か手渡すと、今度はルティが先頭に立ち始めた。
 どうやらシーニャの不安を消したい気持ちが芽生えたようだ。

『アック様! それとシーニャ! ここから先はわたしがご案内します~!! 樹人族だろうとコウモリだろうと、拳で追い払いますよぉぉ!』
『それはいいが、気を付けろよ!』
『アックの言う通りなのだ。ドワーフは慌てすぎなのだ! ウニャ』
『どうってことはありません! とおぉぉぉぉぉ!!』
『あ、こらっ! そんなに走らなくても――』

 おれとシーニャが言った傍から、何か強烈な衝撃音が響いた。
 もしや樹洞の壁にでも衝突したか。

『あいたぁぁぁぁ……!! あっ! アック様、アック様! こっちへ来てくださいっ!!』

 全く、騒がしい娘だ。
 どこかにぶつかったらしいが、何か見つけたのか気にもしていないようだ。
 
「何だ? 道しるべ?」
「そうですっ! きっともうすぐ出口なんですよっ! すぐです。すぐすぐ!」
「ウニャ? 何て書いてあるのだ?」
「……カウム樹洞。この先、外、危険……か。出口でいきなり襲われるとかじゃないよな?」
「襲われても問題無いのだ! ウニャッ!」
「大丈夫ですよ~! アック様なら!」
「それはそうだが……不意打ち攻撃があるかもしれないし、防御態勢で進むぞ」

 やはりというべきだろうか。
 エルフが長く守って来た森の先では、戦いは避けられないかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。 え?助けた女の子が神様? しかもその神様に俺が助けられたの? 助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって? これが話に聞く異世界転移ってやつなの? 異世界生活……なんとか、なるのかなあ……? なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン? 契約したらチート能力? 異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな? ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない? 平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。 基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。 女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。 9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。 1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~

ゆさま
ファンタジー
新作ゲームアプリをテストプレイしてみたら、突然ゲームの世界に転送されてしまった。チートも無くゲームの攻略をゆるく進めるつもりだったが、出会った二人の美少女にグイグイ迫られて… たまに見直して修正したり、挿絵を追加しています。 なろう、カクヨムにも投稿しています。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

追放の破戒僧は女難から逃げられない

はにわ
ファンタジー
世界最大の力を持つドレーク帝国。 その帝国にある冒険者パーティー中でも、破竹の快進撃を続け、今や魔王を倒すことに最も期待が寄せられると言われる勇者パーティー『光の戦士達』。 そこに属する神官シュウは、ある日リーダーであり勇者として認定されているライルによって、パーティーからの追放を言い渡される。 神官として、そして勇者パーティーとしてそぐわぬ素行不良、近年顕著になっていく実力不足、そしてそんなシュウの存在がパーティーの不和の原因になっているというのが理由だが、実のところは勇者ライルがパーティー内で自分以外の男性であるシュウを追い払い、ハーレム状態にしたいというのもあった。 同じパーティーメンバーである婚約内定者のレーナも既にライルに取られており、誰一人として擁護してくれず失意のままにシュウはパーティーを去る。 シュウは教団に戻り、再び神官として生きて行こうとするが、そこでもシュウはパーティー追放の失態を詰られ、追い出されてしまう。 彼の年齢は20代後半。普通の仕事になら就けるだろうが、一般的には冒険者としては下り坂に入り始める頃で伸びしろは期待できない。 またも冒険者になるか?それとも・・・ 拠り所が無く、愕然とするシュウはだったが、ここで一つのことに気が付いた。 「・・・あれ?これで私はもう自由の身ということでは!?」 いい感じにプラス思考のシュウは、あらゆる柵から解き放たれ、自由の身になった事に気付いた。 そして以前から憧れていた田舎で今までの柵が一切ない状態でスローライフをしようと考えたのである。 しかし、そんなシュウの思惑を、彼を見ていた女達が許すことはなかった。 ※カクヨムでも掲載しています。 ※R18は保険です。多分

処理中です...