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第十二章:認められし者
204.エルフの森域・白の魔導士 7:
しおりを挟む姿無きエルフの声に従うのは癪なことだが、ここまで来た以上は言うことを聞くしかない。
シーニャがおれについて来ようとしていたものの、何とかなだめて落ち着かせた。
十歩進むと、そこにはサンフィアと他の女性たちの姿があった。彼女たちは揃って白い外套を着ている。
そして眼前には、大小様々な石を積み上げて作られた祭壇があった。
祭壇の前ではやはり白い外套を着ているエルフの男がいて、何かを呟きながら祈りを捧げている。
この男がおれを試し、ここへ招いたエルフに違いない。
近づこうとすると、男は呟きを止めてスッと立ち上がる。
そしてすぐさま、こちらを振り向き口を開いた。
「キミがアック・イスティか。イデアベルクを解き放ち、己の影も無事落として来たようだね」
全て見えていたと言わんばかりに、男の方から声をかけて来た。
それにしても見かけ以上に年若く見える。
「勇者の亡霊はおたくの仕業か? 祭壇での呟きってことは、司祭か殉教者ってことになりそうだが……」
「どちらでも無く、白の魔導士だよ。アック君の言う亡霊は、確かにぼくが仕向けたけど」
「……魔導士? 魔導士が亡霊を呼び出したり出来るとでも?」
「呼んではいない。魔封ゲートから先、森域へつながるトンネルは生と死の境界なんだ。そこで丁度良くあの国を取り戻した君が通るってなったものだから、試させてもらったんだ」
「それがここに来るための試練ってやつか」
白の魔導士ってことは、ラクルで戦ったあの連中とは種類が違うことになるのか。
その割には魔力の強さを感じられない。
サンフィアたちに視線を移すと、彼女らは何も言えないのか押し黙っている。
強さは無さそうだが、エルフたちの拠り所のような者のような感じか。
「それで、おたくの名は?」
「……エルフの墓守、そして白の魔導士ニーヴェア・エイシェンさ」
「墓守……なるほど」
「ぼくはここアルターリエで、君が来るのをずっと待っていた」
「――待っていた?」
「君はかつてここを潰したイデアベルク公国の人間の生き残り。その人間が、果たして信用足り得る者かどうか。それを直接確かめるためにね!」
――なるほど。貴族連中はやはりエルフの森を襲ったわけか。
どうりで集落は残っているのにほとんど気配を感じないのは、そういうことだった。
そして亡霊を使って、本質を試されたということらしい。
「……おれは合格ってわけだな?」
「妹が認めたから大丈夫だろうと思っていたけど、確信出来た。これでようやく、ここを消すことが出来るよ」
「妹ってまさか……」
「サンフィアはぼくの妹なんだ」
「そ、それはそうと、ここを消すっていうのは? おれがここに来ただけで、何故だ?」
ふとサンフィアの方を見ると、顔を赤らめて伏せている。
白い外套を身に着けているのは、そういうことだった。
「それについてはサンフィアから聞くといい。ここはもうじき無くなるし、ぼくは一足先に向かうとするよ」
「……えっ?」
「あぁ、そうだ。君のために、未開の地への道を開いておこう。国の再建のためにも役立てて欲しい。それじゃあ」
言うだけ言い残し、ニーヴェアは目の前から姿を消してしまう。
それどころか、目に見える景色ごと空間が歪んでいるように見える。
『な、何だ……!?』
ここを消すと言っていたが、空間ごとおれも消されるのか。
そう思っていたら、
『キサマ、いや我が夫イスティ! 落ち着け!! すぐに収まる』
『フィア? し、しかし……』
『ならば、我に飛び込め! そうすれば、落ち着けるはずだ!!』
『ウニャッ!』
歪みで周りがよく見えないが、声だけはよく聞こえる。
ここは声を信じて、声のする方に飛び込むことにした。
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