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第十二章:認められし者
203.エルフの森域・アルターリエ 6:
しおりを挟む「あ……ああぁぁ……!? くそぉぉぉぉぉ……!!」
グルートがバランスを崩し、まともに立つことが出来なくなってすぐのことだ。
うごめいていた影が奴を逃がすまいと、頭上から黒い霧のように覆いかぶさり始めた。
「――ア、アック・イスティ! 僕はエドラよりもしぶとく、しつこくお前の記憶にこびりついてやるからな! クッククク……あ、あぁぁ……楽しみ……だ――」
影に覆われたグルートは、そう言いながらそのまま影に連れ去られて行った。
それにしてもこびりつくとか、何て厄介な奴だ。
こっちは国の再建やら何やらがあって、正直グルートのことなんて思い出すこともしていなかったのに。
亡霊グルートとの戦いは、デバフを受けたことで魔法だけの勝負ならどうにもならなかった。
それでも勇者を剣で打ちのめすことが出来たのは、上出来と言っていいだろう。
これからどうなるのかとこの場で立ち尽くしていると、静寂が訪れる。
そして聞いたことの無い男の声が響いて来た。
『光が差し込む道を進め! われらは、アルターリエでキサマを待つ』
声が若いが、エルフの長老という奴だろうか。
どうやら認められたらしいし、言われた通りに進むしか無さそうだ。
◇◇
魔封のトンネルを抜けると、深い森の小路に出た。
さっきまで怒りや妬みが入り交じっていたトンネルとは、まるで違う雰囲気だ。
見ている風景が嘘なのか真実なのかは分からないが、ほのぼのとした森にも見える。
迷うことの無い一本道をひたすら進んでいると、何かが勢いよくおれの腰の辺りにぶつかって来た。
痛みは無いが、まるで気配を感じられなかったくらいの不意打ちだ。
「――うっ!? な、何だ……?」
「フニャウゥ~……アックなのだ、アックなのだ~」
「シーニャ!?」
よくよく見るとふわりとした虎耳が目の前にあって、柔らかな感触が全身に当たっている。
手元に感じられるのは、嬉しそうに動いているモフっとした尻尾だ。
「本物のアックで間違いないのだ?」
「もちろんだ。シーニャはサンフィアたちと一緒じゃなかったのか?」
「エルフは途中でいなくなったのだ! そしたら、アックがたくさん出て来たのだ。ウニャッ!」
「た、たくさんって……シーニャも幻影と出遭っていたのか」
「よく分からないのだ。エルフの声が偉そうに命令したから、シーニャ、ここで次のアックが現れるのを待っていたのだ!」
あいつらめ、獣人のシーニャには危険は無いと言っていたくせに。
森の中を迷わせておれの幻影を見せている時点で、おかしいだろ。
そんなことを思いながらシーニャと歩き進んでいると、森の集落が現れた。
入り口らしき所には、ロクシュと老齢な男エルフの姿がある。
どうやらサンフィアと他の女エルフたちは、出迎えてもくれないようだ。
シーニャと手をつなぎながら、彼らの元へ近づいた。
『おっ! 無事に抜け出せたんだな! さすが、国主のダンナだ』
真っ先に声を張り上げたのは、調子が良すぎるロクシュだ。
悪い男では無いが、はっきりと話さないところについては、後で注意しておかねば。
「ウゥゥ……!! オマエ、シーニャとアックを騙した! 今度騙したら、切り裂く!!」
ロクシュの言葉にシーニャはおれの手を離れ、鋭い爪を尖らせながら怒りを露わにした。
ここまで感情を出す彼女も珍しい。
「す、すまん。騙しじゃなくてこれは、試しを受けてもらっただけで……」
俺の下で穏やかにはなっていたとはいえ、元々シーニャはワータイガーだ。
エルフの森域がそうさせているのは不明だが、森に長くいたことで野性の勘が冴えて来たかもしれない。
「もういいぞ、シーニャ」
「ウニャ……。アック、甘すぎるのだ」
「そういうわけだから、ロクシュも頭を上げていい」
「悪かった。ここではそうせざるを得なくて……」
「……だろうな。それで、おれたちをどこへ向かわせる気だ?」
「それなら、彼らが案内する。ついて行くだけで、祭壇に着く」
「――祭壇か」
ロクシュの言葉を合図に、老齢のエルフ二人が無言で歩き出す。
その二人の後ろにつくと、ロクシュはおれたちの後方についた。
イデアベルクからエルフの森域に来られたが、どうやら祭壇が目的地だったようだ。
森の集落の中を進んでいるものの、住居と見られる小屋にはエルフの気配は感じられない。
ここにひっそりと残っていたのは、祭壇を守る老齢のエルフくらいだろうか。
後ろを振り向きロクシュに話しかけようとしたが、薄い霧で彼の姿が見えなくなっている。
そして、
『イデアベルクの人間、アック・イスティ!』
やっとお出ましか。
『キサマにまとわりついていた影は、ひとまず落とされた。そこから十歩進め! 獣人はそこに残し、キサマだけでアルターリエに近づけ!!』
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