201 / 577
第十二章:認められし者
201.エルフの森域・過信の行方 4:
しおりを挟む「さて、まずはこれでどうかな?」
グルートは手の平に小さな炎を作り出し、間髪入れずに放って来る。
炎はおれの体に当たったが、何てことも無くすぐに消えていた。
「……勇者の魔法力は、そんなものなのか?」
「そうかそうか、アックくんは耐火スキルがあるんだったね」
「だったらどうする? 他の属性で試してみるのか?」
「はははっ! そんな無駄なことはしないさ。耐火スキルがあるなら、君は炎属性をまともに受けてくれるんだろう?」
「炎魔法しか撃てないっていうなら、気の済むまで撃ってくれて構わないけどな!」
「……そうさせてもらうよ。それにしても、大した自信をつけたものだね。それも限りの無い魔力と上げまくった力のおかげなのかな?」
「さぁな」
グルートは一体何を考えているのか。
効きもしない炎魔法をたとえ連続で撃ってこようとも、ダメージを負うことは無いというのに。
ここに留まってから保有魔力が減っている感じはあるものの、枯渇するほどじゃない。
幻影のグルートが際限なく魔法を撃てたとしても、それでもおれにダメージは与えられないはずだ。
それにしても、妙な感じがする。
おれに耐火スキルが付いたのはルティのおかげでもあったが、それはグルートたちを滅してからかなり後のこと。
幻影グルートがどうしてそのことを知っていたのか。
こうして考えを巡らせている間にも、奴は懲りずに炎系魔法を放ち続けている。
「ハァハァハァ、驚いた。荷物持ちのアックくんが、これほど耐えられるとはね……そして、その強さのおかげで気付いてもいないようだけどね。ククッ、フハハハ!!」
「――何っ? どういう意味だ?」
「耐火スキルがあるから確かにダメージを与えられない。そう、体へのダメージはね……」
息を切らせるくらいの魔法を放って来たようだが、やはり妙だ。
魔力が減った感じを受けてはいるが、何か変な気がする。
「何が言いたい? 勇者らしく、はっきり言ったらどうなんだ?」
「フハハッ! そうするよ。アックくんは僕が放った魔法が、単なる炎系魔法だと判断して受け続けた。完全に僕を下に見て、全身に好きなだけ命中させた。それがどういうことか分かるかな?」
魔力の減少、違和感、まさかとは思ったが試してみるのが手っ取り早いか。
「……それなら、その身で感じてみればいい!」
「いつでもいいさ、撃てるものならね……」
「いいだろう」
グルートは余裕ぶった表情で、おれからの攻撃を待ち受けている。
お望み通りに強力な炎系魔法を発動させ、奴に向けて放った。
だが、
「おやおや、やはり君は荷物持ちがお似合いだよ。何度でも、ラクルに帰らせようか? アックくんは追い出されたい特異な人間だろうからね」
「……魔法発動は出来るが威力が無い、か」
グルートに届きもしないくらい、弱体したようだ。
――ということは、奴が連続で放って来たのは弱体魔法もしくはアレか。
「アハハハハッ! 脆いものだね、人間は! そして、強さを過信しすぎて油断をする。もっとも、アックくんは全てにおいて弱すぎるんだけどね。まだ気づかないのかい?」
「炎系魔法には違い無かったようだがそれは見せかけで、お得意の弱体魔法……いや、デバフの重ねがけでもして来たってことだろう?」
連続で受け続けていたが、さすがに途中で気付くことが出来た。
奴が放ち続けた炎系魔法の正体は、おれの魔法攻撃のスキルを著しく下げることだった。
だからこそあえて奴に向けて、威力と見た目が派手な炎攻撃を放ったのだが。
これがエルフがおれに課した人間の業だとすれば、大したものでは無い。
「クックック、その通りさ! 君が過信している魔法攻撃は、もはや通用しない! アーハッハッハ!! どうだい、悔しいだろう? 魔法が使えないんじゃ、君に勝ち目はない」
「……あぁ、そのようだな。魔法が全く使えなくなったおれに、あんたを倒すすべは失ったみたいだ」
「そう悲観しなくてもいいさ。僕にも慈悲はあるんだ。剣で良ければ、相手を……いや、戦わせてあげてもいいけど、どうかな? 剣で斬られたら、悔いも残らないだろう?」
「それもそうだな」
「一応聞くけど、剣は持っているかい? 無ければ貸してあげるよ」
「問題無い。これがあるからな」
「フハハッ! 何だいそれは。錆びた剣じゃないか!」
おれの脆さを知ったグルートは、余裕の笑みで自らが手にしている剣を構えだす。
対するおれは、今の今まで腰袋の中にしまったままだった錆びた剣を手にする。
魔法が使えなくなったわけでは無いが、デバフの効果が薄まるまで待つ余裕は無いだろう。
それなら、奴が最も油断している剣での戦いが相応しい。
魔法対決ではなく剣と剣で戦うことを望んでいるのは、グルートの方だからだ。
それに奴にも油断と過信がある。
奴のデバフは、見事におれの魔法能力値を下げた。
だが下がったのは、魔法だけで拳の力は全く落ちていない。
どうやらルティのドリンク効果は、ほぼ永久的かつ消えないほど強力のようだ。
それにソードスキルといった、潜在スキルもデバフの影響を受けていない。
奴にはせいぜい、おれの過去の弱さを味わってもらうとしよう。
0
お気に入りに追加
565
あなたにおすすめの小説
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜
橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。
もしかして……また俺かよ!!
人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!!
さいっっっっこうの人生送ってやるよ!!
──────
こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。
先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】
僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。
でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。
死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。
そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる