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第十二章:認められし者

201.エルフの森域・過信の行方 4:

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「さて、まずはこれでどうかな?」

 グルートは手の平に小さな炎を作り出し、間髪入れずに放って来る。
 炎はおれの体に当たったが、何てことも無くすぐに消えていた。

「……勇者の魔法力は、そんなものなのか?」
「そうかそうか、アックくんは耐火スキルがあるんだったね」
「だったらどうする? 他の属性で試してみるのか?」
「はははっ! そんな無駄なことはしないさ。耐火スキルがあるなら、君は炎属性をまともに受けてくれるんだろう?」
「炎魔法しか撃てないっていうなら、気の済むまで撃ってくれて構わないけどな!」
「……そうさせてもらうよ。それにしても、大した自信をつけたものだね。それも限りの無い魔力と上げまくった力のおかげなのかな?」
「さぁな」

 グルートは一体何を考えているのか。
 効きもしない炎魔法をたとえ連続で撃ってこようとも、ダメージを負うことは無いというのに。

 ここに留まってから保有魔力が減っている感じはあるものの、枯渇するほどじゃない。
 幻影のグルートが際限なく魔法を撃てたとしても、それでもおれにダメージは与えられないはずだ。

 それにしても、妙な感じがする。
 おれに耐火スキルが付いたのはルティのおかげでもあったが、それはグルートたちを滅してからかなり後のこと。

 幻影グルートがどうしてそのことを知っていたのか。
 こうして考えを巡らせている間にも、奴は懲りずに炎系魔法を放ち続けている。

「ハァハァハァ、驚いた。荷物持ちのアックくんが、これほど耐えられるとはね……そして、その強さのおかげで気付いてもいないようだけどね。ククッ、フハハハ!!」
「――何っ? どういう意味だ?」
「耐火スキルがあるから確かにダメージを与えられない。そう、体へのダメージはね……」

 息を切らせるくらいの魔法を放って来たようだが、やはり妙だ。
 魔力が減った感じを受けてはいるが、何か変な気がする。

「何が言いたい? 勇者らしく、はっきり言ったらどうなんだ?」
「フハハッ! そうするよ。アックくんは僕が放った魔法が、単なる炎系魔法だと判断して受け続けた。完全に僕を下に見て、全身に好きなだけ命中させた。それがどういうことか分かるかな?」

 魔力の減少、違和感、まさかとは思ったが試してみるのが手っ取り早いか。

「……それなら、その身で感じてみればいい!」
「いつでもいいさ、撃てるものならね……」
「いいだろう」

 グルートは余裕ぶった表情で、おれからの攻撃を待ち受けている。
 お望み通りに強力な炎系魔法を発動させ、奴に向けて放った。

 だが、

「おやおや、やはり君は荷物持ちがお似合いだよ。何度でも、ラクルに帰らせようか? アックくんは追い出されたい特異な人間だろうからね」
「……魔法発動は出来るが威力が無い、か」

 グルートに届きもしないくらい、弱体したようだ。
 ――ということは、奴が連続で放って来たのは弱体魔法もしくはアレか。

「アハハハハッ! 脆いものだね、人間は! そして、強さを過信しすぎて油断をする。もっとも、アックくんは全てにおいて弱すぎるんだけどね。まだ気づかないのかい?」
「炎系魔法には違い無かったようだがそれは見せかけで、お得意の弱体魔法……いや、デバフの重ねがけでもして来たってことだろう?」

 連続で受け続けていたが、さすがに途中で気付くことが出来た。
 奴が放ち続けた炎系魔法の正体は、おれの魔法攻撃のスキルを著しく下げることだった。

 だからこそあえて奴に向けて、威力と見た目が派手な炎攻撃を放ったのだが。
 これがエルフがおれに課した人間のごうだとすれば、大したものでは無い。

「クックック、その通りさ! 君が過信している魔法攻撃は、もはや通用しない! アーハッハッハ!! どうだい、悔しいだろう? 魔法が使えないんじゃ、君に勝ち目はない」
「……あぁ、そのようだな。魔法が全く使えなくなったおれに、あんたを倒すすべは失ったみたいだ」
「そう悲観しなくてもいいさ。僕にも慈悲はあるんだ。剣で良ければ、相手を……いや、戦わせてあげてもいいけど、どうかな? 剣で斬られたら、悔いも残らないだろう?」
「それもそうだな」
「一応聞くけど、剣は持っているかい? 無ければ貸してあげるよ」
「問題無い。これがあるからな」
「フハハッ! 何だいそれは。錆びた剣じゃないか!」

 おれの脆さを知ったグルートは、余裕の笑みで自らが手にしている剣を構えだす。
 対するおれは、今の今まで腰袋の中にしまったままだった錆びた剣を手にする。

 魔法が使えなくなったわけでは無いが、デバフの効果が薄まるまで待つ余裕は無いだろう。
 それなら、奴が最も油断している剣での戦いが相応しい。

 魔法対決ではなく剣と剣で戦うことを望んでいるのは、グルートの方だからだ。
 それに奴にも油断と過信がある。

 奴のデバフは、見事におれの魔法能力値を下げた。
 だが下がったのは、魔法だけで拳の力は全く落ちていない。

 どうやらルティのドリンク効果は、ほぼ永久的かつ消えないほど強力のようだ。
 それにソードスキルといった、潜在スキルもデバフの影響を受けていない。

 奴にはせいぜい、おれの過去の弱さを味わってもらうとしよう。
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