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第十二章:認められし者

195.イデアベルクの支配者

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 ルティとシーニャが落ち着いたところで、おれたちはミルシェに声をかけた。
 彼女が案内したのは、廃墟の中でもほとんど崩れていない綺麗な建物だ。

 建物の中に入るとシーニャとルティは疲れ果てたのか、ほこりだらけのベッドに倒れて、そのまま眠ってしまった。

 フィーサの姿が見えないと思ったが、剣の姿に戻っていたらしく、剣立ての所にいるようだ。
 サンフィアや他の獣人たちは近くには無い。

 今は気にしなくていいのか、奥の方からミルシェがスープを運んで来る。
 建物の状態がいいようで、調理するのに問題は無かったようだ。

「豆のスープくらいしかありませんけれど、どうぞ」
「いや、十分だ。ありがとう」

 ◇◇

 塩気くらいしか無かったが、腹に入るだけで十分だった。
 スプーンなど食器類は綺麗な状態のようで、食べるのに支障は無いのが救いだ。

 一息ついたところで、ミルシェが話を始めた。

「あの光が致死性のあるものだったって?」
「そうですわ。それも、あなたさまだけ……つまり、この国の人間に対してですけれど」
「しかしあの魔導兵は、すでに停止していたはず。それが最後の切り札だったと?」
「あたくしたちは何とも無かったので、間違いないかと思いますわ」
「……そうか」

 ラーナに言われるがまま、魔導兵の胴に触れたまでは覚えている。
 それがまさか、あの光がそういうものだったとは。

「――ですけれど、光の中で何かを得られたのでは?」
「まぁ、そうだな」
「いまお召しになられている暗灰色《あんかいしょく》の防具一式が、戦利品……なのでしょう?」
「へっ? あ、あれっ!? 全部同じ色になっている!? な、何故……」

 ミルシェに言われるまで気付かず、気にもしていなかった。
 ずっと眠っていたというのもあるが、トラウザーとガントレットも同色になっているとは。

「あたしも驚きましたわ。アックさまの身に何かが起こったものとばかり。ですけれど、光が収まると同時に色が変化してすぐにお目覚めになられたので、体には影響がないと判断しましたわ」

 錆びた剣だけは別で、身に着ける装備が揃ったことによる変化だろうか。
 防具に触れると、名称が変化していることに気付く。

 【Aエンシェントレア レイヴンガントレット 連撃効果+ 従魔の力を高める】
 【Aエンシェントレア レイヴンコート 被物理攻撃無効 被魔法攻撃耐性 
 従者の力を高める】
 【Aエンシェントレア レイヴントラウザー 命中率+ 魔法命中率+ 
 従属の力を高める】

 水の守りとか、回復系が消えているようだ。
 装備のバフに加わっていないのは、フィーサだけか。

「……確かに変わっているな。エンシェントとか、レイヴンだとか」
「エンシェント? 確か忘れ去られた装備でしたかしら?」
「まぁな」
「――そうなると、アックさまは認められた者ということになると思いますわ! 滅亡した国に戻って来て、国を取り戻されました」
「認められた……?」
「そういう意味で、アックさまは支配者として相応しいと認められたのでは?」

 光の中で聞こえた声が母だったかどうかは、今となっては分からない。
 しかし魔導兵を全滅させ、故郷を取り戻すことが出来た。

 そのことで認められたということなら、ここに来て良かったと言える。
 落ち着ける国があれば良かっただけだが、これで再建出来そうだ。

「……ふぅ。久しぶりに何かを口にした気がする」
「良かったですわ。お強いとはいえ、アックさまは人間ですもの。ふふっ、そのお姿を見て安心しましたわ!」
「レア確定ガチャを引けるレアな人間らしいけどな」
「素晴らしいことですわ! これからもあなたさまに付き従いたく思います」
「ああ、おれからも頼む」
「――ところで」
「ん?」
「これから国づくり、再建など、やることはたくさんあると思いますけれど……アックさまには、もっと大変なことが待っていますわよ!」

 滅亡した国を取り戻すことが出来たのは良かったが、確かに大変になる。
 エルフたちの扱いもそうだし、国の在り方についてもだ。

「その為にも、ここの人口を増やすかどうかを……」
「いいえ、そういうのは難しくありませんわ。そうではなく、アックさまのご寵愛を受ける相手のことについてですわ!」
「寵愛……?」
「あのエルフ女もそうですけれど、小娘たちのお気持ちをどうされるおつもりです?」
「気持ちか……決めないと駄目なことか?」
「もちろんですわ! あの子たちからの好意は、身をもって感じていらっしゃいますわよね?」
「ま、まぁ」
「……別に妻にしろとか、子を作れとか言っているのではありませんわ。分け隔てなく相手にするにしても、無下にされるとなれば誰であれ悲しみますわよ?」
「あぁ、よく分かっているよ」
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