上 下
179 / 577
第十一章:滅亡公国

179.イデアベルク公国・廃墟住区 ①

しおりを挟む

 サンフィアとの誓約の結びの話は、今はどうこう言わないことにした。
 それはともかくとして、回復したルティたちを伴ってかつての中心部に足を踏み入れる。

 森林ゲートを先に進むと、そこには驚く光景が待っていた。
 おれたちは予想しつつも、廃墟と化した建物の姿に思わず息を呑んだ。

「ウニャ……」
「うぅ……これは何とも言えませんです」
「こ、これが、イスティさまの……」

 滅亡公国ということ自体、彼女たちには事前に知らせていた。

 だが、こけだらけの建物に加え、無惨に破壊された家々の姿を目の当たりにすると、何も言えなくなるらしい。

 人間が住んでいた面影は既に無く、魔物の庭と化している。
 廃墟ばかりに目が行くが、現時点で魔導兵の姿は見られない。

「アックさま、どう動かれます?」
「そうだな……ここのモンスターは強さのレベルが違うようだから、基本的にはまとまって動く」
「ところで、戦力になるといってもあの者を戦いに参加させるつもりは無いのでしょう?」
「サンフィアのことか……」

 森林ゲートにいた獣人たちを含め、サンフィアと数人のエルフもおれたちに付いて来た。
 しかしサンフィア以外、戦えそうな者がいない。

 そうなると守りながら進むことになるので、サンフィア説得によりゲートの所で留まってもらうしかなかった。

 もちろん、ミルシェの防御魔法は付与してある。
 そうすれば、力が強くなくてもある程度は凌げるはずだ。

 サンフィアと一緒にいた獣人たちは守備力が高い。
 それならこっちが手を貸さなくても、防ぐだけなら問題は無いだろう。

 そのことを確認した時も、サンフィアは強気だった。

 ◇◇

「ああ、そうだ! 幻影魔法は我だけのモノではない」
「あの獣人の子たちが使えるというのか?」
「フフ、外の人間よりも優秀だ。男のエルフよりもずっとな」
「それなら説得を頼む」
「いいだろう。だか我はキサマに付いていくからな?」
「……分かった」

 外の人間、つまり白狼騎士団のことを知っていて、彼らよりも獣人の子たちの方が使えるということのようだった。

 ◇◇

「アック、アック! エルフは何で付いて来ているのだ?」
「本当ですよ~! 戦いで勝ったのは分かりますけど、お役に立てるんですか~?」
「いや、前線で戦えるのはシーニャとルティだけだな」
「ウニャ? じゃあ何が出来るのだ? シーニャ、アックの足手まといは要らないと思うのだ」

 シーニャの言うことはもっともなことだ。
 特に途中で加わる者に対しては、シーニャは誰よりも厳しい。

「強いて言えば、時を稼げる戦い方が可能だ」
「時を何なのだ? ウニャニャ?」
「そのうち分かる。それより、廃墟は目に焼き付ける必要は無いぞ。魔物を一掃して国づくりをするんだからな! そしたらここに住めるし、シーニャやルティの部屋も好きなだけ作れる」
「そ、それって、私専用のお部屋ですかっ!?」
「もちろんだ。倉庫の時と違って、ここがおれたちの国となる。だから今は、サンフィアのことを気にしないことだ」

 そうは言いつつも、ただならぬ気配を出しているサンフィアを気にするなという方が難しそうだ。
 ルティの赤毛も目立っているが、サンフィアが身を包んでいる真紅のローブが圧倒的すぎる。

が夫イスティ! どこまで歩き進むつもりだ?』

 おれたちの会話は聞こえていなかったようだが、後ろのサンフィアが声を張り上げて来た。
 それもとんでもない発言を含めて。 

「――ウニャッ!?」
「お、夫!? え、えええ? ア、アック様……まさかそんな――そんなぁぁぁぁぁ!!」
「待て、落ち着けルティ! シーニャも!!」
「……ふぅ。小娘たちに隠し通せると思ったのが間違いですわ」
「そう言われてもな。ミルシェ、何とかならないか?」
「それはアックさま次第。でも誤解でも無いわけなのですから、全てが片付く前に説明をすべきではないかしら?」
「そ、そうだよな」

 一緒について来ている時点で、自然と口にすることくらい想定すべきだった。
 サンフィアとは確かに誓約という名の口づけをされてしまったが、それだけでそんなことになるとは思っていない。

 しかしサンフィアと接しつつ、ルティやシーニャにも上手く説明するしか無さそうだ。

『フィア! おれの所に来てくれないか?』
『いいだろう! それも妻たる我のつとめというもの』

 強い味方を得たと思ったが、実は新たな問題を抱えてしまったのだろうか。
 それでもまずは、魔物と魔導兵の一掃が重要だと思うが……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。 え?助けた女の子が神様? しかもその神様に俺が助けられたの? 助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって? これが話に聞く異世界転移ってやつなの? 異世界生活……なんとか、なるのかなあ……? なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン? 契約したらチート能力? 異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな? ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない? 平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。 基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。 女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。 9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。 1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~

ゆさま
ファンタジー
新作ゲームアプリをテストプレイしてみたら、突然ゲームの世界に転送されてしまった。チートも無くゲームの攻略をゆるく進めるつもりだったが、出会った二人の美少女にグイグイ迫られて… たまに見直して修正したり、挿絵を追加しています。 なろう、カクヨムにも投稿しています。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

追放の破戒僧は女難から逃げられない

はにわ
ファンタジー
世界最大の力を持つドレーク帝国。 その帝国にある冒険者パーティー中でも、破竹の快進撃を続け、今や魔王を倒すことに最も期待が寄せられると言われる勇者パーティー『光の戦士達』。 そこに属する神官シュウは、ある日リーダーであり勇者として認定されているライルによって、パーティーからの追放を言い渡される。 神官として、そして勇者パーティーとしてそぐわぬ素行不良、近年顕著になっていく実力不足、そしてそんなシュウの存在がパーティーの不和の原因になっているというのが理由だが、実のところは勇者ライルがパーティー内で自分以外の男性であるシュウを追い払い、ハーレム状態にしたいというのもあった。 同じパーティーメンバーである婚約内定者のレーナも既にライルに取られており、誰一人として擁護してくれず失意のままにシュウはパーティーを去る。 シュウは教団に戻り、再び神官として生きて行こうとするが、そこでもシュウはパーティー追放の失態を詰られ、追い出されてしまう。 彼の年齢は20代後半。普通の仕事になら就けるだろうが、一般的には冒険者としては下り坂に入り始める頃で伸びしろは期待できない。 またも冒険者になるか?それとも・・・ 拠り所が無く、愕然とするシュウはだったが、ここで一つのことに気が付いた。 「・・・あれ?これで私はもう自由の身ということでは!?」 いい感じにプラス思考のシュウは、あらゆる柵から解き放たれ、自由の身になった事に気付いた。 そして以前から憧れていた田舎で今までの柵が一切ない状態でスローライフをしようと考えたのである。 しかし、そんなシュウの思惑を、彼を見ていた女達が許すことはなかった。 ※カクヨムでも掲載しています。 ※R18は保険です。多分

処理中です...