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第十一章:滅亡公国

176.イデアベルク公国 森林ゲート抵抗戦 3

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 現状では、エルフの敵対心がおれとシーニャの両方にあり、気を抜くことが出来ない。

 向けられている槍が当たったところでダメージを負うわけではないが、ここはシーニャの攻撃を見守ることにする。

「ウガウウッ!!」

 シーニャの爪による連続攻撃が、エルフに繰り出されている。
 攻撃の全てが命中し、エルフは防戦一方のようだ。

 しかし、

「おかしいのだ、おかしすぎるのだ! 全く手応えが感じられないのだ、ウウニャ」
「……フ、強力な爪の攻撃とは、ただの虎人族ではなかったわけか。しかし手数が多くても、我に当たることは無い」
「何なのだお前! 一体どうなっているのだ!?」

 確かにシーニャの攻撃は、全て命中している。
 しかしどうやら既に、エルフの術中にかかっていたようだ。

 おれが使える幻影魔法に似ているが、エルフの幻影はまやかしのようにも見える。

 エルフといえば、狩猟採集をしながらひっそりと暮らす者が多いと聞く。
 しかしサンフィアなるエルフは、魔法や幻術に長けていて好戦的だ。

 希少レアなエルフか、あるいは……。

「……フ、既に決した」

 エルフの女がそう言ったところでシーニャを見ると、幻影のエルフに何度も連続攻撃を当て続けていた。

 この女の実力は確かなもののようだ。

「わ、私は騙されませんからね~!! てええい! えいやぁ~えいやぁ、えいやぁ~!」

 ――などと、ルティも複数の幻影エルフに殴りかかっていた。
 二人をいとも簡単に騙せる強さであれば、魔物にやられずに長く守り抜けそうだ。

 そうなると、おれが出来ることは……。

「人間、キサマ! 獣人の子らを人質とするのか!?」
「――う?」
「おのれ、我をたばかったな!」

 余裕を見せていたエルフの女が、急に怒りを露わにしだした。
 何事かとエルフが目をやる所を見てみると、そこには人化したフィーサとミルシェの姿があった。

 人化フィーサの両手には炎の塊があって、間近で見る獣人の子たちからは身震いが起きている。
 ミルシェは防御魔法で見えない壁を作り、森から出られないような恐怖心を与えているようだ。

 もちろん手出しをするわけじゃない。
 しかしおれの動きを止めているエルフにとっては、屈辱的な光景に映っているはず。

「キサマ!! 小賢しくも卑劣な行為を取るというのか!」

 おれの作戦でも無いが、エルフ一人が突出すれば他の獣人は守れない。
 そのことに気付いた、彼女たちの作戦勝ちなのだろう。

「……おれは、お前と戦うつもりなど最初から無い。無論、他の獣人たちにもだ」
「無いだと? 人間ごときキサマが、森に侵入しといて何をほざく!」
「森だけじゃなく、ここイデアベルク公国そのものを取り戻す為に来た。お前たちと戦いに来たわけじゃない!」
「国を取り戻すだと……? 人間に何が出来る! 戦いに来たわけじゃなければ、子らへの炎を消せ!! そうでなければ、すぐに突き刺す!」
「こちらのことも聞いてもらう。お前が仲間にかけた幻影を今すぐ解くというのなら、手出しはしないことを約束する! 槍を捨て、おれに向けている刃を引け!!」

 人間に手ひどいことをされての抵抗か、それともエルフとしての誇りによるものなのか。
 話が通じない相手とも思えないが、どう出て来る。

「……フン、いいだろう。我はキサマへの刃を引く。だが幻影を解いて欲しくば、ゲートの奥から感じる仄暗い存在をキサマだけで消してみろ! キサマの力が信用に値するものならば、我はキサマにとって足り得る者となろう」

 エルフたちと交戦しているうちに、奥から魔物を呼んでしまったか。
 これは思いがけない機会。

 力を見せつけて認めさせれば、力強い味方を得られそうだ。

「――いいだろう。お前の幻影を使って、巻き添えを食わないようにしてもらうぞ!」
「……フ、生意気な奴め」
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