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第十一章:滅亡公国

174.イデアベルク公国 森林ゲート抵抗戦 1

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 魔導ゲートを抜けたおれたちは、次のゲートに差し掛かる。
 子供の頃はゲートを見たことは無く、外への道は常に開かれた状態にあった。

 魔導兵が反乱を起こすまでは、誰でも自由に行き来が出来た。
 それが今や、固く閉ざされた上に人間が住めないほど滅んでしまっている。

 国の中心の居住区を囲むように、緑豊かな森に守られた国でもあった。
 幼き記憶ではあるが、魔力で動く機械じかけの魔導兵はとても頼もしく思えていた。

 だからこそ今見えている光景は、信じがたいものがある。
 反乱したとはいえ公国の敵と共存して人間を排除するなど、正直考えられない。

 それもこの先に進んで行けば分かるとは思うが、

「アック、アック! 緑がたくさん見えて来たのだ~! ウニャ~」
「森の中のゲートか。森ということは、獣が多く出て来るかもしれないな」
「何だか似ているのだ」
「ん? 似ている?」
「ウニャ。シーニャがいた森に似てるのだ。居心地がいいのだ」
「……ふむ」

 シーニャと出会った森も、結構深い森だった。
 そこと似ているほど、年月が経ってしまったということか。

「それにしても不思議です~。さっきまでは雪の中に街があったのに、ここは自然の森の中に迷い込んで来たみたいです! ここがアック様の国なんですか?」
「まだおれの国でも無いが、故郷には違いないな」
「ヒューノストは完全に雪の中の環境下にありましたわ。でも、アックさまの故郷だけが全く違う場所にあるようで……これは興味深いですわね」

 寒さとは無縁の国だったのは覚えている。
 暮らしていた頃は、魔力の恩恵かとも思っていた。

 だが目の前に広がっている森林がこうも存在していると、生き残りがいると思いたくなる。
 ルーヴによれば、人間の生き残りは無いということらしい。

 それはあくまで、ゲートの手前しか近寄れなかったに過ぎない彼らの話によるものだ。
 ここまで森が広がっていて暖かささえ感じるとなれば、獣人が棲んでいても何ら不思議はない。

 そんな可能性を信じていると、
 
「イスティさま、複数の気配があるなの!」

 フィーサがどこからか感じる気配を察知する。
 荒れ果てたでもない道とゲートの周りは、ものの見事に深い森。

 空を見上げても、雪模様では無くもやがかった曇りの空だ。
 さっきまで魔物が押し寄せて来た光景と違うこともあり、気配を敏感に感じることは無かった。
 ただならぬ気配を感じられるのは、フィーサのスキルによるところのようだ。

「ウニャ? シーニャ、あんまり感じないのだ」
「気配が?」
「ウウニャ……怖くないのだ。何だかシーニャと気配が似てるのだ、ウニャ」

 森の中で生きていたシーニャが、敵の気配に感じないわけがない。
 しかしそうなると、可能性として考えられるのは魔物では無いということになるか。

「アックさま、火矢が降って来ますわ!!」
「火矢!? こんな森の中でか?」
「ひぃえぇぇぇぇ!? どうすればいいんですか~?」
「ルティ、落ち着けっ!」

 気配は感じられなかったが、ミルシェの言葉どおり八方から大量の火矢が飛んで来る。
 もちろんそんな程度で怖がる必要は無い。

 ミルシェの防御魔法が効いていることもあり、火矢は見えない壁で弾かれまくりだ。
 ただ火矢となると、自分たちが良くても森に飛び火する恐れがある。

「あわわわわ!! アック様、森が焼けちゃいますよ~! ほらほら、火が……あれれ?」
「――む? 本物の火じゃないのか……?」

 ルティの心配をよそに、防御壁で弾かれた火矢は木々に飛び火することなく消えた。
 これは一体どういうことなのか。

『キサマたち、人間か? 見せかけの火矢に臆するどころか全て弾くとは、何者だ!?』

 姿は見えないが、木々に紛れて隠れているのか声だけが響いている。
 まさかの生き残りがいたのだろうか。

『おれは故郷であるイデアベルクに戻った人間だ! 何者か知りたければ、隠れるのをやめて出てきたらどうだ!』

 木々の揺らぎに乗じた複数の声が、ざわつき始めた。
 そして、

『殺気を早々にかき消し、魔物を呼び寄せるのをやめろ! 今から姿を見せる。攻撃態勢に移ったら、今度は本物の火矢を浴びせるぞ!!』

 女の声か。まさか本当に生き残りがいたのか。
 本物の火矢でも問題は無いが、彼女たちを制し攻撃態勢を解くことにした。

 太い大木の陰から、一人の女がゆっくりと歩いて来る。
 その姿はどう見ても、

「我が名は誇り高きエルフ、サンフィア・エイシェンなるぞ! キサマがイデアベルクの生き残りだと言うのか?」
「エ、エルフ……!? 何故エルフがここにいるんだ」
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