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第十一章:滅亡公国

169.公国の滅亡と真実

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「わぷっ……!? な、何だこれは」
「ひゃぅっ」

 ルーヴは、おれから強制的に預かったフィーサブロスを手にしていた。
 そしてその攻撃が当たったはずなのに、おれも奴も見えないくらい眩しい光に包まれている。

 攻撃ダメージは無く、フィーサが当たった感触は得られていない。
 それでも光とともに、顔が何かに触れている気がしている。

 手持ち無沙汰の両手から感じられるのは、とても柔らかい何かにずぶずぶと吸い込まれ、抜け出せないように入って行く感覚になっていることだ。

 もちろん力を入れて引けば、たやすく抜け出せるだろう。
 しかしどういうわけか、この気持ちよさにずっと浸っていたいとさえ思い始めた。

 視界はまだ光一色。
 ルーヴから追加攻撃が来る気配は、ほとんど感じられない。

 それなら、今はこのままずっと――そう思っていた。
 だが、

『だ、駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 ――と、フィーサの叫び声が聞こえたと同時に、勢いよく弾き飛ばされてしまった。

「う、うおっ!?」

 小屋の壁は木造ということもあり、ぶつかってもダメージを負うことは無さそうだ。
 そのはずだったが、壁では無い別の何かにぶつかったのか全く痛みは無い。

 ソファか何か、モフっとした感触がおれの頭を支えている。
 さすがに光は収まっているはずなので、ゆっくりと目を開く。

「う~ん……ん?」

 目を開けようとしたが、獣の手が子供をあやすように顔全体を撫でていて、開けるに開けられない。
 口は開くので声を出そうとすると、

「ウニャ。いい子にして落ち着くのだ、アック」
「むごがっ……」
「もう大丈夫なのだ。ドワーフが小屋を破壊して懲らしめている所なのだ」

 後頭部のふさふさ感は、シーニャに抱きしめられているからだった。
 目をそっと開けるとそこには雪山トンネルが見えていて、小屋だったらしき木片が散らばっている。

『え~い!! えいやぁぁぁぁ!』

 ルティの声がすぐ近くから聞こえて来る。
 この時点で、勝負は決していたようだ。

 彼女たちが助けに来なくても、フィーサにやられるようなことにはならなかったのだが……。
 我慢の限界で飛び込んで来たのだろう。

 ◇◇

「わ、悪かった……我の、いやオレの負けだ。許せ、アック」

 おれの前で膝をついて謝っているのは、ルーヴ率いる白狼騎士団の面々だ。
 ルティの拳に耐えきれなかった鎧がことごとく破壊され、武器は粉々になっている。

 人に対しての攻撃はさすがに手加減をしたのか、顔半分が腫れあがっている程度だ。
 対するおれは、シーニャにがっちりつかまえられたまま、ルーヴと向き合っている。
 
 とことん甘えたいのか離してくれそうになく間抜けな姿だが、このまま進行することにした。

「許せ……? それはおれを殺そうとしたことについてか?」
「フウゥゥー!!」

 落ち着いてもらわないと、シーニャに絞め落とされそうだ。

「……いや、試させてもらったことについてだ」
「試す? 実力差ならとっくに分かったはずだ。今さら言い訳をするつもりか?」
「そうじゃない。故郷に行くにしても、お前の強さをはかるべきだと思ったまでだ」
「故郷にはびこる魔物を、倒せるかどうかについてか?」
「そうだ。ここヒューノストで何故オレが騎士団を率い、守っているかお前は知らないだろう?」
「知らないな」

 故郷を逃れ、倉庫の町ラクルに行ってからは来ることが無かった。
 知る由も無い。

「オレたちは滅亡公国から襲って来る魔物を、常に倒し続けている。騎士団がいなければ、ここも滅び雪に埋もれるだけなのだ」
「襲って来るだと? 残った魔導兵がいるはずだろ?」
「あのガラクタどもが反乱したせいで滅亡したのだぞ? 故にお前がどの程度の強さを持ち、やれるのか……中途半端な強さでは、あの魔物どもに勝てないと思ったからこその試しだったわけだ」
「――ちっ」

 おれとルーヴの故郷イデアベルク公国は、魔力を有する貴族が治めていた国だった。
 魔力を動力源とした魔導兵を使って暮らしていたが、それらが反乱。

 人を滅ぼし、国をも滅ぼした。
 貴族程度の魔力では、魔導兵を使うなど無理だったということになる。

「故郷には戻れないが、ここの都市を守ることなら出来る。だからこその騎士団だ」
「何だ、ルーヴ程度で勝てる魔物か。それなら――」
「魔物はな。だが、故郷に棲むのはハイクラスな魔物ばかり。お前の強さがオレより上でも、それでも厳しいはずだ!」
「……ふん」

 何てことは無い、攻めることが出来ない守るだけの騎士だった。
 もちろん騎士の役目は守ることにあるが、不甲斐なさにも程がある。

「ウニャ? アック、怒っているのだ?」
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