166 / 577
第十一章:滅亡公国
166.ルーヴとアック、対峙する
しおりを挟むミルシェに知らせたことに関しては問題無いし、想定通りの反応だ。
しかし問題は奴だ。会話の流れからして、何かしらのちょっかいを出して来ることは間違いない。
「アックさま。その滅亡公国へは、素直に行くことが可能なのかしら?」
「魔物がはびこっているだろうが、行くだけなら問題は無いな。何か気になることでも?」
「……いえ、先程の男の様子が気になったものですから」
ミルシェの監視スキルは相当に鋭いな。
おれのお目付け役などと言っていたが、一瞬で奴の気配に気付く辺りがさすがだ。
確かに奴の言葉には、何か含みが込められている。
おれがこの街に来たという時点で、すでに何らかの手を打っているのは違いないだろう。
嫌な言葉をもっと並べてもおかしくなかったが、すぐに警備に行くのも妙だ。
「ふぅん……イスティさまは貴族だったなの?」
「うっ? 起きていたのか、フィーサ」
「ウトウトしていたところだったけど、聞こえて来たら目が覚めてしまったなの」
「ふん、食えない小娘ですわね」
「それはお互い様だもん!」
やはりというか、フィーサとミルシェも仲が悪いようだ。
だからといって憎しみ合ったりするわけでもないが。
「二人とも落ち着け。で、フィーサが言うようにおれは貴族の国の生まれだ。貴族になるつもりは無かったけどな」
「やっぱりそうだったなの! わらわを引き当てたのは必然だったなの~!」
「どういう意味だ?」
「わらわは宝剣だったなの。ガチャで引き当てるのも、きっとイスティさまには資格があったからだと思うなの」
家柄だとかそういうので出るものが決まっていたとすれば、レア確定以前のガチャの結果は、相手次第だったとでもいうのだろうか。
今となってはその辺を気にしても、仕方がないことではある。
「とにかく、アックさま。この街が安全かどうかは、まだ何とも言えないことかと思いますわ」
「あぁ。分かっている」
事を荒立てずに行きたいところだ。
『アック~! ポカポカふわふわなのだ~!! ウニャ!』
『こっちに宿がありますよ~! 早くおいでください~!!』
二人でどこかに走って行ったかと思っていたら、宿に案内されていたらしい。
ルティとシーニャは狼耳型の防寒具を身に着けて、暖かそうにしている。
「ふぅ……、アックさま参りましょう」
「そうしよう」
「イスティさま、わらわはしばらく大人しくしているなの」
「人化しないでか?」
「はいなの! その方が多分いいと思うなの」
「……分かった」
空が白く周りは雪景色ということもあり、正確な時間は分からない。
しかしあちこちの家や詰所に火が灯されているのを見れば、夜に近いと言えるだろう。
宿の入り口までたどり着くと、ルティが嬉しそうに声をかけて来た。
「えへへ、アック様! どうですか、どうですか~?」
「……何が?」
「もこもこしてて触りたくありませんかっ!」
「その耳のことか?」
「あのぅ~そのぅ……ぜひとも!!」
防寒具越しに触った所で分から無さそうだが、ここは素直にしておくか。
ルティの頭に手を近づけて、そのまま耳の所を撫でてみた。
「これでどうだ?」
「何だか不思議な感じで、アック様の温かさを感じます~」
「よく分からないが……狼の耳も中々いいな」
おれの前に屈みながら、ルティは狼の耳を触らせ続けている。
それにはミルシェも呆れて、さっさと宿に入ってしまった。
しばらくなでなでしていると、いつの間にか別の耳に変わっていることに気付く。
「フ、フニャウ~……」
「シ、シーニャか!」
「あれれ? えぇぇ!?」
「アック、触れるならシーニャの耳に触れていいのだ! 狼の耳なんて駄目なのだ!!」
「あ、あぁ、うん……」
寒さよりもルティへの対抗心の方が強かったらしい。
それはともかく宿に入るとベッドは人数分あって、それなりに広い作りだ。
それぞれで割り当てられた部屋に入って、ベッド脇の椅子に腰掛けようとしたその時だった。
「イスティさま、何か来たなの」
フィーサの言葉の直後、何の意図なのかおれの部屋に奴が訪れて来た。
『イスティ。いるか? ルーヴだ。入るぞ?』
『――何の用だ?』
『なに、他愛ないものに過ぎんさ』
……嫌な予感は大体的中する。
一人になるのを見計らって訪れる辺りが、この男の嫌な所だ。まぁ鞘にフィーサがいる時点で、全くの一人では無いわけだが。
ベッドを挟んで、おれと奴とで椅子に腰掛けながら対峙する。
そして、
「イスティがここに来た目的は、故郷に行く為だろう?」
「……それがどうかしたか?」
「今さら戻ってどうするのかと思っただけだ。滅んだ国を再生でもするつもりか?」
「だったら?」
「そういうつもりならば、騎士団長として見逃すわけには行かないってことを伝えたくてな」
「――お前には関係ない。邪魔をするな!」
「邪魔はしないが、騎士としての務めは果たさせてもらう。今からお前には、練兵場に来てもらうぞ! いいな?」
戦闘訓練という名の始末……か。
0
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移
龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。
え?助けた女の子が神様?
しかもその神様に俺が助けられたの?
助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって?
これが話に聞く異世界転移ってやつなの?
異世界生活……なんとか、なるのかなあ……?
なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン?
契約したらチート能力?
異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな?
ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない?
平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。
基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。
女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。
9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。
1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~
ゆさま
ファンタジー
新作ゲームアプリをテストプレイしてみたら、突然ゲームの世界に転送されてしまった。チートも無くゲームの攻略をゆるく進めるつもりだったが、出会った二人の美少女にグイグイ迫られて…
たまに見直して修正したり、挿絵を追加しています。
なろう、カクヨムにも投稿しています。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
追放の破戒僧は女難から逃げられない
はにわ
ファンタジー
世界最大の力を持つドレーク帝国。
その帝国にある冒険者パーティー中でも、破竹の快進撃を続け、今や魔王を倒すことに最も期待が寄せられると言われる勇者パーティー『光の戦士達』。
そこに属する神官シュウは、ある日リーダーであり勇者として認定されているライルによって、パーティーからの追放を言い渡される。
神官として、そして勇者パーティーとしてそぐわぬ素行不良、近年顕著になっていく実力不足、そしてそんなシュウの存在がパーティーの不和の原因になっているというのが理由だが、実のところは勇者ライルがパーティー内で自分以外の男性であるシュウを追い払い、ハーレム状態にしたいというのもあった。
同じパーティーメンバーである婚約内定者のレーナも既にライルに取られており、誰一人として擁護してくれず失意のままにシュウはパーティーを去る。
シュウは教団に戻り、再び神官として生きて行こうとするが、そこでもシュウはパーティー追放の失態を詰られ、追い出されてしまう。
彼の年齢は20代後半。普通の仕事になら就けるだろうが、一般的には冒険者としては下り坂に入り始める頃で伸びしろは期待できない。
またも冒険者になるか?それとも・・・
拠り所が無く、愕然とするシュウはだったが、ここで一つのことに気が付いた。
「・・・あれ?これで私はもう自由の身ということでは!?」
いい感じにプラス思考のシュウは、あらゆる柵から解き放たれ、自由の身になった事に気付いた。
そして以前から憧れていた田舎で今までの柵が一切ない状態でスローライフをしようと考えたのである。
しかし、そんなシュウの思惑を、彼を見ていた女達が許すことはなかった。
※カクヨムでも掲載しています。
※R18は保険です。多分
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる