上 下
165 / 577
第十一章:滅亡公国

165.氷雪都市の白狼騎士団

しおりを挟む

「ふわあ~! アック様、アック様! 雪の中に街がありますよ~!!」

 騎士に囲まれながら案内されたのは、氷雪都市ヒューノストの街だった。
 この街はおれの故郷の手前に位置する都市。

 厳しい気候の中にありながらも、地盤がしっかりしている街だ。
 特にリーダーは存在しないが、騎士団が街を守っているおかげで特に問題の起きない所でもある。

 都市といっても街の構造は単純だ。
 雪山ごとにトンネルがあり、その合間に街や家々が建ち並んでいるだけの規模。

 ヒューノストは十字路しか無い街なので、迷う心配は無い街だ。
 街の入り口に着くと、騎士団の一人がルティに目を付けおれたちを止めようとしている。

「イスティ。すまないが、炎に守られているドワーフ娘を何とかしてもらえないか?」
「……何か問題でも?」
「君も知っての通り、この街はとても暖かい。雪に囲まれていようとも、住民が寒さで凍えることなどあり得ないことだ。しかし、その炎は強い魔法。ここで強い魔法は控えてもらいたい」
「それなら、防寒着を用意してもらえるか?」
「もちろんすぐに手配しよう。ふ、強い魔法の怖さについて、君なら理解してもらえるはずだ!」
「……さぁな」

 魔石が導いた属性テレポート魔法。
 その魔法でここに来たから仕方ないが、本当なら真っ先に故郷にたどり着きたかった。

 騎士団が強気な態度を取っているのも、故郷で起こったことを知っているからやりづらい。
 そんなおれが今では、全属性魔法を使えているのも皮肉なことだが。

「あえぇ? ほ、炎魔法のご加護はおしまいですか!?」
「まぁ、待て」
「ウニャ? シーニャにも何かあるのだ?」
「そのままじゃ寒いだろ? だから、シーニャにもルティと同じものを着てもらう」
「ウゥゥ~……」

 お揃いの防寒着を着ることには、シーニャはかなり不満そうだ。
 不満そうではあるが、騎士団から渡された防寒着を二人に手渡した。

 用意してくれたのは、モフモフな防寒着で狼の耳のような飾りがついている。
 これをルティとシーニャに着てもらう。そしてこの時点で、炎魔法は解除することになった。

「狼になっちゃいましたよ~! ガウウ~」
「シーニャは、虎なのだ! 狼なんかじゃないのだ!!」
「ひえええ!? お、怒っちゃ駄目ですよぉぉぉ」

 全く、何をやっているんだか。

「ではこちらへ。宿を用意しています。もうすぐ日が暮れることもあって、住民は家にこもっています。イスティにとっては好都合だったのでは?」
「別に気にならないな」
「ふっ……そうでしょうね。さぁ、お仲間たちもこちらへどうぞ!」

 いちいち気に障ることを並べて来るが、おれは気にしていない。
 気にしたところで、戻りはしないのだから。

「アックさま。お聞きしても?」
「何だ、ミルシェ」
「ここの騎士団とはお知り合いなのです? 何故アックさまのことを、イスティと?」
「……この先におれの故郷がある。それを知っている連中だからだ。もちろん、全員じゃないけどな」
「特に親し気で偉そうにしている騎士がいますけれど、ムカつきませんか?」
「あぁ、あいつは――」

 ミルシェにだけは先に明かしておくか。
 現地に行けば嫌でも目にすることになるが……。

 ウワサをすれば、奴の方から近付き声をかけて来た。
 キザな金髪の髪を隠すことなく見せ、面倒くさそうな片手剣をぶら下げている。

「イスティ。こちらの女性は? 獣人やドワーフ娘とは違うようだが……?」
「フフフッ。あなたこそ無礼極まりないお方ですわね。あたくしは、アック・イスティさまのお目付け役、ミルシェ・オリカですわ。あたしたちが慕うこの方の何を知っているのか、隠しても無駄ですわ!」
「これは失礼した。我はヒューノスト白狼はくろう騎士団が一人、ルーヴ・イスティと申します。以後お見知りおきを」
「――イスティ? え?」
「……この男はおれの身内だった男だ。それだけだ」
「そ、そうでしたのね。これは失礼しましたわ」
「何だ、紹介してくれないのか? イスティ」

 紹介するまでもなく、今となっては関係の無いただの騎士。
 そう思うしか無かったが、ミルシェには話すしか無さそうだ。

「お兄様……ということで合っておりますかしら?」
「ミルシェさんの言葉通りで合っているな! しかし、そうでないとも言える。その辺のことは、そこのアック・イスティにでも聞いてくれまいか? 我は警備に行かねばならない。ではまたな、イスティ」

 余計なことをベラベラと言う男だ。
 だから嫌だったわけだが。

「えっ?」
「ミルシェにだけ先に話しておく。あの男はかつての身内だった者に過ぎない。それも故郷にいた頃までのな」
「アックさま、もしかして故郷は今……?」
「あぁ、滅亡している。この都市の先の方にある公国だ。親は既にいないが、奴とおれだけが生き残っただけの話だ」
「め、滅亡……そ、そんなことが」
「そういう意味で、国づくりしやすい場所ってわけだ」
「そ、そうですわね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。 え?助けた女の子が神様? しかもその神様に俺が助けられたの? 助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって? これが話に聞く異世界転移ってやつなの? 異世界生活……なんとか、なるのかなあ……? なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン? 契約したらチート能力? 異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな? ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない? 平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。 基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。 女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。 9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。 1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~

ゆさま
ファンタジー
新作ゲームアプリをテストプレイしてみたら、突然ゲームの世界に転送されてしまった。チートも無くゲームの攻略をゆるく進めるつもりだったが、出会った二人の美少女にグイグイ迫られて… たまに見直して修正したり、挿絵を追加しています。 なろう、カクヨムにも投稿しています。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

追放の破戒僧は女難から逃げられない

はにわ
ファンタジー
世界最大の力を持つドレーク帝国。 その帝国にある冒険者パーティー中でも、破竹の快進撃を続け、今や魔王を倒すことに最も期待が寄せられると言われる勇者パーティー『光の戦士達』。 そこに属する神官シュウは、ある日リーダーであり勇者として認定されているライルによって、パーティーからの追放を言い渡される。 神官として、そして勇者パーティーとしてそぐわぬ素行不良、近年顕著になっていく実力不足、そしてそんなシュウの存在がパーティーの不和の原因になっているというのが理由だが、実のところは勇者ライルがパーティー内で自分以外の男性であるシュウを追い払い、ハーレム状態にしたいというのもあった。 同じパーティーメンバーである婚約内定者のレーナも既にライルに取られており、誰一人として擁護してくれず失意のままにシュウはパーティーを去る。 シュウは教団に戻り、再び神官として生きて行こうとするが、そこでもシュウはパーティー追放の失態を詰られ、追い出されてしまう。 彼の年齢は20代後半。普通の仕事になら就けるだろうが、一般的には冒険者としては下り坂に入り始める頃で伸びしろは期待できない。 またも冒険者になるか?それとも・・・ 拠り所が無く、愕然とするシュウはだったが、ここで一つのことに気が付いた。 「・・・あれ?これで私はもう自由の身ということでは!?」 いい感じにプラス思考のシュウは、あらゆる柵から解き放たれ、自由の身になった事に気付いた。 そして以前から憧れていた田舎で今までの柵が一切ない状態でスローライフをしようと考えたのである。 しかし、そんなシュウの思惑を、彼を見ていた女達が許すことはなかった。 ※カクヨムでも掲載しています。 ※R18は保険です。多分

処理中です...