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第十章:力を求めて
156.追放者復讐戦 3
しおりを挟む威勢のいい女だ。おれの名前をあんな風に叫ぶとは、一体何者なのか。
戦った記憶と覚えがまるで無いということは、あまり印象に残らなかった相手だろう。
『一応聞くが、何故おれの名を知っている? お前は誰だ?』
おれの声に反応し、ざわついているのは後方に控えているシーニャたちだ。
そうなるとシーニャが知っている女のように思えるが、全く見当がつかない。
『あの時は獣だったから、頭までもが畜生程度というわけか? あたしは、ヘルガ! Sランクの短剣使いだ!! 思い出させてやろうか? あ?』
短剣使いでSランクで、ヘルガ……しかも獣だった時のおれを知っている。
あぁ、獣狩りパーティーの女か。
獣の時にラクルまで吹き飛ばした女だったな。
魔術師の男と一緒にいた強化者があまりに印象強かったから、今の今まで忘れていたようだ。
この場に強化者がいないということは、魔術師の方が扱いやすいと判断されて置いて行かれたか。
そうなると思念飛ばしの不意打ち連中は、この女の復讐戦には干渉して来ない。
せいぜい遊べと言っていたし、そういう意味のようだ。
短剣使いの女以外で気を付けるべき相手は……、バウンティハンターが数人だな。
奴らは金の為なら、非道なやり方を平気で実行して来る。
この場所を選んだのも、奴らの罠が仕掛け放題だからに違いない。
『――いや、思い出した。それで、ヘルガだったか。大人数でおれを潰すのか?』
『誰がそんなみっともなくて雑魚な戦いをするかよ!! 獣の力を使うてめぇなんぞには、こいつらで十分だ!』
『こいつらというと、剣や槍を持っていながら身震いをさせている男たちのことか?』
『減らず口を叩いても無駄だ。こいつらは興奮しているだけさ! 追放者を自分らで殺せるってことになぁ!!』
追放者と言われても、ラクルの連中は倉庫に住むことをうるさく言わなかった。
そうなると、この女と男連中がそれにこだわっているだけ。
ヘルガという女をラクルに吹き飛ばしてから、かなり日数が経っている。
それがまさか、その時から町に潜んでいたとは驚きだ。
「イスティさま! 来るっ!!」
「あぁ、見えてる」
ヘルガの合図に呼応し前面に立っていた多数の戦士らしき男たちが、鬨の声を上げる。
手にしている武器は、ほとんどが片手剣。
その中の数人は慣れない槍を持っていて、勢いそのままに突進して来るようだ。
よほど不人気なクエストだったか、間に合わせの兵らしい。
『う、うおおおおおお!! ボサっと突っ立ってんじゃねえええ!』
戦士の一人が、剣を振り下ろして来る。
――が、フィーサを鞘から抜くまでも無く、その先を取った。
突出して攻撃を仕掛けて来た男に対し、それよりも一瞬素早く動き出したおれの拳が、男の上体に命中。
男の剣の軌道はすぐに崩れ、息を切らせた状態で地面に倒れ込んだ。
おれの拳によって、青銅製の鎧はあっさりと破壊。
鎧系防具に守られている戦士たちは、驚きと戸惑いの声を漏らしている。
『――な……!? き、近接戦闘者!?』
『両手剣を身に着けていながら、拳を繰り出して来るなんて……そんなバカな――』
『お、おい、お前行けよ!』
『お前こそ行け。あんな化け物なんて聞いてねえぞ……』
やはりフィーサを使うまでも無かったか。
ラクルのような小さな港町のギルドクエストに、そこまで命をかける奴なんていない。
突出して来た男一人だけは、戦う意志があったからまだいいとして……。
一応の陣形を整えた男たちは、後ずさりながら向かって来る気配が無い。
『どうした、来ないのか?』
おれが向かって行けば、間違いなく戦士たちは全滅、もしくは一目散に逃げ出してしまう。
ヘルガという女はともかく、連中に対して恨みも無ければ倒す理由も無い。
そう思っていると、ヘルガが後方の彼女たちに指示を出し始めた。
『おい、後ろの支援系!! 野郎たちに強化をかけまくりな!』
なるほど。復讐と言いながらも、集まった連中に戦わせて弱らせる戦法か。
バウンティハンターにも前に出るよう促しているし、Sランクを武器にして従わせているようだ。
シーニャは回復魔法だけで強化は使えない。
ミルシェはおれに依存した防御魔法が使えるが、連中に何をかけているのか。
『おぉっ! 物理耐性が上がった気がする!!』
『体が軽くなった!』
――などなど、期待を持たせた強化をかけたみたいだ。
さすがに今度は集団でかかって来るようなので、拳はやめてフィーサを振り回すことにする。
「行けるな、フィーサ」
「はいなの!」
「魔法剣は取っておく。基本だけで行くぞ!」
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