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第十章:力を求めて

145.本物の釣りギルドに加入する

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 やっと再会出来た元水棲怪物、現ミルシェは何やら不機嫌そうにしている。
 
「おいっ、フィーサ! 起きろって!!」
「相変わらずアックさまは、お優しいことですのね。あたしが代わりに起こしてあげますわ」
「そうか? それなら頼む」

 久しぶりのミルシェをちらりと見ると、成り代わりだった王女の姿が板についたように見える。
 水棲怪物だった時は、触手とナメクジに似た体をしていた。

 それが今や、人間にしか見えなくなっている。
 シーフェル王女の体になじんだということなのだろうか。

「……あまり見つめられても困りますわ」
「ご、ごめん」
「コホン……! 宝剣フィーサ! あなた、ちょっと起きて下さる?」

 すでに宝剣では無くなっていることも教えてやらねば。

「うう~ん……イスティさま、わたしもう食べられないよ~」
「――いったぁぁぁぁぁぁい!! 何するのよっ!?」 

 寝ぼけたフィーサがよりにもよって人化の状態で、ミルシェをかじってしまった。
 とっさの反撃で、ミルシェの平手打ちがクリーンヒット。

 しかしフィーサの防御力と耐久性に分があるようで、ミルシェは顔をしかめている。
 それでもそのおかげで、ようやくフィーサも目を覚ましたようだ。

「ふえぇ……? あれ~? イスティさまじゃない……」
「何て硬さなの……全く」
「フィーサ、彼女はミルシェだ。フィーサが気にしていた水棲王女だぞ」
「えっ、本当? そっか~、再会出来たんだ~! お久しぶり!」
「な、何かしら……以前よりも腹が立って仕方がないのだけれど」

 人化の時と剣の時では口調が異なるだけに、久しぶりのミルシェにとっては、違和感しか覚えないだろうな。

『すみません! お話し中のところ、失礼します!』

 ……ん? 誰か来たか。
 ミルシェに再会出来たのもそうだが、ここがどこなのかを知っておかねば。

『いいわ、入ってくださる?』

 どうやら知っている……いや、ここに慣れたような返事の仕方だ。
 部屋に入って来た男は、青と黒を混ぜ合わせた簡素なチュニックを着ている。

 冒険者でもない、ごく普通の村人のような感じか。
 態度を見る限り、年端も行かない若者……もちろん、おれよりは年上なのだろうが。
 
「お目覚めになりましたか。初めまして、東アファーデ湖村、村長ラーシュ・クルトと言います」
「そ、村長!? え、あんたが?」
「ははっ、見えませんか?」
「いや……」
「アックさま、ご紹介を」
「あぁ、うん。おれは、アック・イスティ。冒険者だ。そして彼女は、おれの剣であるフィーサ。よろしく頼む!」
「剣……ですか?」

 詳しく教えるつもりは無いが、隠すことでも無いはずだ。
 ミルシェがどこまで話しているかによるだろう。

「ラーシュさま。彼はラクルの冒険者ですわ。それゆえ、細かいことはお流しに」
「そうか、ラクルか! ――ということは、Sランクの?」
「ええ、それ以上のお強さを秘めておりますわ。ですから、お話をされても心配無いかと」
「……? ラクルが何か?」
「いえ。何が、という訳ではありません。あの町に拠点を持つ、Sランク冒険者がいると聞いたことがありましてね。そういうお方に加入してもらえたらと思っていただけのことです」

 話が見えないが、ラクルに拠点というとおれたちの倉庫のことだろうか。
 もっとも、自分のランクがSかどうかなんて、どうでもいいことだが。
 
 倉庫を永久的に買ったことで、有名になってしまったようだ。

「加入とは?」
「もちろんギルドのことです。ここ東アファーデでは、釣りギルドがありまして。湖村ではありますが、池もあり、東岸まで出れば海での釣りも可能です」
「何かの条件とかは?」
「いえいえ、竿は用意がありますし魚を釣って頂ければ、ランクも上がりますよ! どこのギルドも難しい条件は無いと思いますが」

 東アファーデ湖村か。そうなると、南アファーデ湖村の存在が気になる所だ。
 ルティたちの行方も心配だし、どうしたものか。

「一つ聞いても?」
「どうぞ」
「おれと彼女フィーサは、南アファーデ湖村にいたんですよ。そこから流れ着いたわけですが、こことの関係は?」
「――あぁ、やはり。しかしあり得ない……あの村は湖底に沈み、ほとんどの村人はここに移り住んでいます。流れ着くなんて、過去にでも行かない限りは……。と、とにかく、ギルドに入ることをお勧めしますが」

 つくづく魔石ガチャで出た属性魔法テレポートも、妙な場所に飛ばしてくれたものだ。
 過去というより時が止まっていた村ではあったが、ヌシであるシリュールによってこっちへ戻って来られたのは、幸運なことだった。

 ラーシュ村長は青ざめた顔をしているが、亡霊の湖村の件は釣りが関係していそうだ。
 今度こそ釣りスキルを上げられるチャンスが得られそうだし、断る理由は無い。

「では、よろしくお願いします」
「ありがとうございます! ギルドメンバーにも後で紹介しますので、ミルシェさんとおくつろぎください」
「どうも」

 まともなギルドに入って来たことが無かったが、ようやく落ち着いたギルドに入れそうだ。

「アックさま。ルティと虎の娘は、どこへおりますの?」
「え、え~と……だな」
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