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第十章:力を求めて

144.流れ着いて邂逅

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「ウ、ウニャ……アックは気付いていないのだ。どうすればいいのだ」
「や、やっぱりそうなんだ……でもでも、アック様はお強いから~」
「こんな相手はどうにも出来ないのだ。どうにかなる前に、脱出しないと良くないのだ」
「あうぅ……さ、先に出て行くしか無いと思うの。シーニャ、そうしよう?」
「……ドワーフに言われなくてもそうするのだ」

 ◇◇

 忘れ去られたガントレット再生の為、おれは湖底のヌシと自称するナマズ娘、シリュールに預けた。
 彼女曰く、南アファーデ湖村は忘れ去られた村であり、すでに村自体が存在しないものらしい。

 そうなるとおれが話した村人は亡霊のようなものであり、釣りの依頼も、何らかの理由があってのことだと考えられる。

「怒りを買って沈めたって言ったか? 何をされたんだ?」
「アック・イスティ、気付かなかったのか? 湖底、湖に釣れそうなモノはいたか?」
「……む、そういえばそうだな。引っ張って来たのは、シリュールだけだ。――ということは、魚か?」
「そうだゾ! 人間、湖大切しなかった。魚、いなくなった。魔物もいない。釣りで乱獲……自然、乱した。余は許さなかったゾ。アック・イスティが話したモノ、湖、忘れ去った」
「……なるほど。敵意を感じられなかったのは、亡霊にも償いみたいな思念が残っていたからだな」

 天に近い湖村というか、すでにそういう存在になっていても、天に昇ることが出来ない意味だった。
 仮に亡霊に襲われても、実体が無かったからどうにも出来なかったが。

「もうすぐ再生になるゾ。時が動き、今の湖村へと流れ着くゾ……」
「――今の? 東アファーデ湖村ってところか。時が動くってのは、具体的にどう――」
「イ、イスティさまっ!! うずうず渦……渦がボートの真下に出来ているよ!? ま、回る、回っちゃうよ~!!」
「ぬああっ!? ほ、本当に大丈夫なんだろうな? フィーサ、おれに掴まれ!!」
「再生と完了の後、余はソレを水の王女に託しておくゾ」 

 おれたちの乗るボートは、時無き湖村からいなくなる為か、巨大な渦に呑み込まれた。
 目が回るよりも目まぐるしく変わる景色とかき消される霧で、意識が遠のいて行く。
 
 シリュールが最後に言った言葉も、すでに聞こえていなかった。

 ◇

「――あら? 何か流れ着いているわね。何なのかしら……? ごめんなさい! 誰か来て下さる?」
「ミルシェさん、どうしました?」
「ええ、見慣れぬボートが流れ着いていますわ。どこから来たのかしら?」
「ボート……アレは旧アファーデの……? 誰か乗っているのでは!?」
「え、まさか……」
「ボートの所に行きましょう!」

 意識を閉ざしたまま、呑み込まれのボートはどこかへ流れ着いたようだ。
 時を経たことによる負担がのしかかっているのか、全身が計り知れなく重い。

 聴覚だけがかろうじて回復しているようだが、人の声が聞こえるだけで目は開けられずにいる。
 魔物もしくは、敵意を持つ人間でなければいいのだが……。

『ふぅ……いつになったらお目覚めになられるのかしら?』

 声が聞こえている。その声は聞いたことのある声のように思える。
 そしておれは、柔らかなシーツの上に寝かされているようだ。

 何とも気持ちのいい感触が、全身を包んでいる。
 フィーサも無事だろうか。

「この娘……意地でも離れないつもりかしら。全く、あたしがいない間に、随分といい思いをされておいででしたのね」
「ミルシェさん。まだ起きませんか? この方を知っているようですが……?」
「ふふっ、ええ」
「何者なんでしょうね。まさか旧湖村の生き残り……いや、まさか」
「ラーシュさま。とても冷たい水を持って来て頂けます?」
「あ、お飲みに?」
「いいえ。シーツが濡れてしまいますけれど、よろしいですわよね?」
「――!」

 何やらバタバタと動いているようだ。
 ここはどこかの宿屋か、あるいは屋敷にでも運ばれたのか。

 そう思っていたが――、

『ごおわぁっ!? ……水が溢れっ!? うぅぅっ!! ゲホッゲホッ……』

 溺れるはずの無い耐性持ちのおれだったが、口の中から下半身に至るまで、大量の冷たい水が流れて来た。
 渦に呑み込まれた所までは覚えているが、実は耐性に関係なく溺れてしまったのだろうか。

 のたうち回りかけたが、体のすぐ傍にはフィーサらしき感触があった。
 人化したまま、ずっとおれの傍で一緒になって眠っていたらしい。

「ゲホッ、ゴホッ……ふぅ~……」
「ようやくのお目覚めですわね! 情けないお姿をさらけ出すとは、らしくありませんわよ?」
「何っ? おれに大量の水を飲ませて、起こしたのはお前……お前まさか――」
「あたしは、ミルシェですわ。ここで出会えるとは、正直思っていなかったですけれど。あたしのことをお忘れになっていたわけでは、ありませんわよね?」

 ミルシェというと確か、スキュラ・ミルシェ……だったか。

「ミルシェ……そ、そうか! 無事だったんだな!」
「ふふっ。積もる話はありますけれど、きちんと起きて頂いても?」
「そ、そうだな」
「そこで眠っている見知らぬ娘も、お着替えをして頂くことになりますわ」
「フィーサ! フィーサ、起きてくれ!!」
「……フィーサ? ふぅん? その娘が……そうですのね」

 ここがどこかは分からないが、ようやく水棲王女に再会出来たようだ。
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