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第十章:力を求めて

142.終わりなき釣りと疑いのフィーサ

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 何人かの村人と会話をしてみたが、やはり邪悪な気配は一切感じない。
 ルティたちは宿に入るまで言葉が無いまま身震いをさせていたが、水に濡れたせいだろう。

「ではアックさん。この竿で釣りをしてくれるかな?」
「それが依頼ですか?」
「そう、そうなのだよ。ノルマは無いが、淡水魚かナマズを釣って欲しい。それが無理なら、この湖からごくまれに釣れることがある魔物でも良しとしたい。もし釣れてしまったら、狩ってくれるとありがたい……」
「それくらいなら」
「……それじゃあ、わしらは気長に待つとするよ……気長に」
「そうしてもらえると助かります」

 村長とは名乗らなかったものの、布を貸してくれた人が依頼して来たのは、釣りだった。
 さっき話をして来た村人たちの姿はすでに無く、早々に家の中に戻って行ったらしい。

 南アファーデ湖村を湖側から眺めてみると、全体的に薄い霧がかかっている。
 宿は比較的すぐ近くにあったが、宿の主人はいなく、寝床だけはきちんと整えられていた。

 天に近い村と言っていたが、魔族がいたシシエーラ村とは気配がまるで異なる。
 ラクルの南は未開の地。魔族の村も知らなかったわけだし、湖村の存在も知らないのは当然かもしれない。

 おれは渡された竿を持って、岸につけてあるボートに乗った。
 ラクルでも荷下ろしで小船に乗ったことがあるので、特に難しいことは無い。

 それにしても淡水魚かナマズか。
 餌はもらえたが、狙い撃ち出来る程のスキルは持っていないんだけどな。
 むしろ魔物でもいいなら、そっちの方が数多く釣れそうではある。

 ボートを離し、かいを使って、釣れそうな所まで漕ぎ出した。
 辺りはかなりの静寂ぶりで、自分が漕ぐ音しか響いて来ない。気のせいか岸から離れれば離れる程、霧が色濃くなっている。

「さて、釣るか」
「……イスティさま。ここにはイスティさまだけなの?」
「――ん? 何だフィーサ、眠っていたのか?」
「そんなことじゃないなの。とりあえず、人化するなの」
「あぁ、いいぞ」

 神族の国では両手剣のままだったが、どちらの姿でいる方が楽なのだろうか。
 幼さを残す言葉遣いも慣れていただけに、こちらが逆に戸惑いかねないのだが。

「ふ~……。何か、久しぶりって感じがするよ?」
「それもそうだな。フィーサは、その姿だと攻撃は出来ないのか?」
「ううん、出来るよ! でもそれだと~……」
「何だ?」
「体は人化しているのに、腕だけが剣に見えていたら怖いかなぁって」
「慣れの問題だ。人化で不自由なく攻撃が可能なら、そのままでもいいぞ」
「えっ、本当? やったぁ! さすがイスティさま!」

 しばらく人化していなかったせいか、言葉遣いがくだけているように思える。
 ずっと沈黙していた理由が気になるが、まずは釣りをしなければ。

 渡されたゴカイを針につけ、勢いをつけて湖面に振り下ろした。

「……それで、フィーサ」
「なぁに?」
「ずっと沈黙していたのはどうしてだ? 水に濡れたからだけじゃないだろ?」
「う~ん……イスティさまって、つくづく鈍感!」
「うん?」
「あっ、動いてるよ! 釣れたんじゃない?」
「そんな簡単じゃないぞ。ここはじっくり待つ戦法で行く。ところでおれが鈍いってのは、どういう意味でだ?」

 竿は確かに動きを見せたが、手ごたえを感じられなかった。魚か魔物か、どちらにしても大物を釣ってみたいものだ。

「う~うん……えっと、シーニャと小娘の様子、変じゃなかった?」
「顔を赤くしたと思ったら、震えていたな」
「……やっぱり二人は気付いているのかも?」
「何を隠している? はっきり言ってくれ! それとも、この湖村が実はアレか?」

 少なくとも、村人からはそういう気配は感じられなかった。
 しかしフィーサの反応は、どう見ても怪しい方に傾いていて、疑っている。

「違うよ~? 湖村は確かに霧が出てるけど、敵じゃないよ。でもここは、あんまり長くいない方がいいと思うんだ。多分、小娘もシーニャも先にイスティさまを待っているよ?」
「……ん? 敵じゃないのにいたら駄目な湖村? よく分からん。とにかく何か釣果を上げないと戻るに戻れないぞ」
「うん、それもそうかも。イスティさま、何でもいいから釣って岸に戻らないと駄目!」
「まぁ、頼まれているからな。一匹以上は釣ってやる」
「早く早く釣ってね!」
「お、おぅ」

 フィーサは、はっきりと答えてくれないようだ。
 いずれにしても何か釣らないと、戻れそうにないのは確かだろう。
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