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第九章:神族国家ヘリアディオス

137.闇を下す力の審判

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「早く、早くなのだ!!」

 シーニャの声に必死さがあり、急いで向かうとそこには巨大な水の塊があった。
 どうやらルティは、水中に閉じ込められているようだ。

 おれと同様にルティも水耐性があるのにもかかわらず、全く抵抗出来ずにいる。
 恐らくスライムによって、身動きを封じられてしまったのだろう。

『ルティ! ルティ、おれだ。アックだ!』

 間近で叫んで呼び掛けるも、いつもの彼女の反応が返って来ない。
 命に別状は無さそうだが、危険な域に達しているのは間違いなさそうだ。

「この水、変なのだ。全然流れていないのだ。シーニャ、爪で掻きだそうとした! でもこぼれて来ないのだ。ウニャ」
「これは普通の水じゃない……助け出すには――」

 凍らせればそれこそ危ないし、炎で蒸発させようとするのはリスクが高い。
 どうすれば助けられる……。

『フフッフフフ! それがそんなにも大事? そんなのよりも……稲妻を味わってみない?』

 スライムの女を通り過ぎて放置していたが、しびれを切らしたのか背後から声が聞こえた。
 どうやら声をかけたと同時に、おれに対し雷による攻撃をして来たようだ。

「……そうか、雷も使えるんだったな。だがおれには無意味な攻撃だったけどな」
「あら、そう? あなたは確かに属性の加護があって、耐えられるんでしょうね。だけど、獣は?」
「獣?」
「そこにいる……心が弱くて臆病な弱い獣」

 シーニャの方を振り向くとダメージを受けてはいないが、音と光に驚いた状態になっている。
 預けていた杖を地面に転がしているくらい、ショックを受けたのだろう。

 コイツがシーニャを操った張本人だということが、いま分かった。

「お前の狙いは何だ? 何故おれや彼女たちを狙う?」
「狙い? フフ、興味を持った。それだけ。欲したものは近くに置いておきたい……あなたもそうでしょう?」
「……それだけか? それだけで危険な目に遭わせるというのか?」
「あなたは人間のくせに、全てを手に入れた稀な人間。あなたを手に入れる為には、どんなやり方でもやる……ただそれだけのこと。獣も、ドワーフも邪魔なだけ」
「――なるほど。おれの力が欲しいわけか。クラティアさん、それなら奪えばいい。その前に、あの娘を解放しろ! 彼女を解放しなければ……」
「あぁ、怖い怖い~。残念だけどスライムの塊を解くことは、あたしにも出来ないわね。あの中は、異空間みたいなもの。魔法でどうこう出来るものじゃ――ッグゲゲゲ!?」

 無駄口を叩く奴に容赦は必要無い……通用するしないに関係無く氷の針を無数に作り出し、全て突き刺した。
 そのまま間髪入れずに、強力な炎属性を浴びせてやった。

「ウギュルギュ……ククッ、普通のスライムなら炎が有効。でもあたしは闇神……人間ごとき魔法にやられるわけないだろう?」
「その割には痛がっていたようだが?」
「クフフ……!」
「――!」
 
 クラティアは自身の形状を自在に変化させ、体の一部を使って鋭い触手を伸ばして来た。
 これもスライムならではの攻撃なのだろうが、避けられない攻撃では無い。

 触手攻撃を見る限り、ダメージを負わせるというよりは洗脳する攻撃に見える。
 恐らくここに迷い込んで来たシーニャが、触手で捕まり操られていたのだろう。

 ここで時間を費やすと、ルティが危険な状態に陥る。
 それならば、ずっと押し黙っているフィーサを使って、斬るより他の手段は無さそうだ。

「フフ、光の剣をお使いになる?」
「そうだと言ったら?」
「最初から気付いていたし、その剣の人格が隙を突こうとしていたのも気付いていたけど、その剣ではあたしは斬れないの。残念なことですわね」
「――そうなのか? フィーサ」
「……ごめんなさいなの」

 光属性に弱みがあるのは誤りでは無さそうだが、魔法を付与させたとしてもフィーサでは斬ることが出来ないというわけか。
 一瞬でもひるませられれば、別の攻撃手段で終わらせられそうだが……。

 ダメもとで、ガチャで出たものを使ってみるしか無さそうだ。

「クク、フフフ……諦めて、あたしのモノになったらいい!」
「これをくれてやろう! 受け取れ!!」
「あら、何をくれる――ウジュウゥゥ!?」
「光属性結晶だ。たらふく喰え!」

 フィーサによる攻撃が効かないとしても、光の結晶であれば一瞬でも時間稼ぎにはなる。
 案の定で、一時的にだが触手が体の中に引っ込んだうえ、動きを止められたようだ。

 その僅かな隙に、シーニャの近くに転がっている杖を手にした。
 そして、

「よぐもおぉ!! ごぉのぉぉぉ、人間がぁぁぁ!!」
「うっ!?」
「クク、フフフ……捕まえた。アック様を捕まえた……これであなたも闇に屈す――」

 バニッシュメントスタッフを手にしたおれに、伸びて来た触手が手足に掴みかかって来た。
 クラティアは、闇の力を触手からおれの体内に流し込んでいる。

 だが、

「……闇攻撃をしているようだが、おれには効かないぞ? 闇ダメージは全部吸収するからな」
「そ、そんなあぁぁぁぁ……!?」
「近付いて来てくれたお礼に、”罰”を与えてやるぞ。ほれ」

 触手によって、クラティアとの距離はほぼ間近にある。
 これはどちらも逃げようのない近さだ。

 それを生かし、バニッシュメントスタッフを軽く振り下ろし、クラティアの体に当ててやった。

「カッ……ク、クカカカ……」

 杖に触れた途端に、クラティアのスライムとしての形が崩れているようだ。
 そのまま黒く濁った水路に流されて行く。

「お、終わった……なの?」
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