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第九章:神族国家ヘリアディオス
123.劣位の属性とラーナ再び
しおりを挟むまさかルティが狙われるとは。
こんなことはほとんど無かっただけに、油断したと言わざるを得ない。
『アック様ぁぁ~!! お~た~す~け~! 怖いです怖いですぅぅ~』
そういやあいつ、高い所が苦手だったような。
そんな悲痛な叫びも気にしない神なぞ、早急に懲らしめねば。
魔石に何を警戒したのか分からないが、旋風で魔石が舞い上がっている。
こんな状況でガチャが出来るはずも無いのに。
いつもの腰袋ではなく、懐にしまっていたのが裏目に出た。
「……あの通り、赤毛のあの子が怯えているんだ。魔石の無い人間に好き勝手させるつもりは無いよ」
「魔石を頼っているわけじゃないけどな」
「さっさと吹き飛べ! アエルブラストっ!!」
「――!」
空中に浮かぶラファーガが、何かの魔法を言い放つ。
どうやらおれへの突風攻撃のようだ。
このままではルティにも影響が及ぶ。
そう思っていたが、浮いたままのルティの姿がどういうわけか、幾重にも重なっているように見えている。
「ふん、風の幻影だ。言っとくが、ボクは神なんだ。興味を持った子を傷つける趣味は無い!」
なるほど、ルティだけは一応守るということか。
身に着けている胴衣は、丈夫そうな亜麻布を使ったダブレットだ。
格好も言動もチャラそうな奴だが、その辺は神族のプライドがあるらしい。
それはともかく、奴の攻撃によりおれは壁に叩きつけられている。
大気中の風に威力をつけ、急激な勢いの突風を起こされた。
奴は吹き飛べと言っていたが、幸いなことにこの場所は、見事に石の壁しかない。
国の構造がどうなっているのか不明だが、空に浮かぶ国とかでは無さそうだ。
属性ごとに区切られた場所の中でも、何かしらの制限があるように思う。
「それを聞いて安心するわけが無いだろう? あいつに怖い目を合わせるお前には、冷たい仕置きをしてやる」
「……壁を背にして強がるな、人間め!」
風には弱点属性である、氷を与えることにする。
コイツ程度には、フリーズで十分だ。
突風で体の自由が利かないが、手足や口は動く。
恐らく何らかの行動をすることを警戒して、魔石を旋風の中に留めたのだろう。
だが、地面に散乱している魔石が見える。
すでに地面に落下していることに気付いていないようだ。
魔石はともかく、ラファーガの頭上には氷の塊を顕現させてある。
おれの氷魔法は、今の時点でフリーズが最大威力。
それが効かなければ、劣位属性の最大魔法を使うしか無い。
「――ふん、並の魔法使いではないことくらい、知っている! フリーズだから何だと言うんだ?」
「ちっ、やはり気付くか」
「塊を空から降下させるには、僅かながらの遅延が生じる。それなら、ボクはそれよりも素早く展開させればいいだけ。所詮、人間の強さはそんなものだよ」
風のラファーガの頭上には、確かに氷の塊であるフリーズがある。
奴の言う通り意思を繰り出すのには、ほんの少しの遅れが出てしまう。
頭上といっても上空に現しただけ。
もし相手の素早さが勝ち、耐氷スキルも強ければ命中しても意味が無い。
さらに言えば、奴は風の神でありながら炎球のようなものを、自らの足下に顕現させている。
風の神が炎も操れるとは聞いていないが……。
「驚いたかい? アック様。キミはアグニの印を得られているだろ? でも残念なことに、ボクもアグニの印があってね。つまり、炎も使えるんだ」
「……そうだろうと思っていたけどな。それで、その火球を先に当てるつもりなんだろ?」
「ご名答! 確かにキミが思う通り、ボクは氷が苦手だ。そうだとしても、先に炎で焼いてしまえば重い氷の塊ごときを避けることが出来るというわけなんだ。僅かな望みだったね?」
「……はははっ、火の神よりも威力は無いはずだ。とっとと当ててみろ!」
「――ほざくな、人間め!」
ベラベラと口数だけは賑やかな神だ。
変哲の無い壁で何もかも寂しくさせている神の魔法が、どれほどのものか受けてやるとするか。
――火球が壁を背にしたおれに命中した。
おれにはルティの様々な強化ドリンク効果で、耐性がある。
それでもこれは、予想よりも威力があった。
弱体系の耐性は高いが、属性の耐性値はまだそれほどでも無いようだ。
「が……ぁ、うぅぅ――!」
激痛などではなく、まともに炎を喰らったことによる喉の渇きが、半端じゃなくある。
こうなるとダメージというより、体から水分が失われていくことの方が苦しい。
「あははは~!! どうだ、人間!」
風のラファーガは、すっかり気分を良くして大笑いをしている。
そんな時、
「――うん? おい、アック様。何か足掻きでもしたのかい?」
旋風で舞い上がって地面に落下した魔石の一つから、何かが姿を現わした気がした。
そして、
『ラーナ、アックの盾。何故、使わない? だから、オマエもまとめて流す!』
「……へっ!?」
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