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第八章:因果の国
117.火の神アグニと炎の壁
しおりを挟むおれの魔力感知ではなくフィーサが感じる感知だということに若干の不安を感じる。
ランクやレベル、スキルに至るまで、彼女たちのことを把握しているのはおれだけ。
自分自身がどの程度なのかは、正直不明だ。
今までは、全て自分から感じた強さを元に行動して来れている。
それがまさか、フィーサに言われるまで石の気配に気づけなかったのは、素直に厳しい。
「フィーサ、どんな力を感じるんだ?」
「わらわだけでは判断出来ないなの。イスティさまが直に触れてみないと……」
おれの言いつけ通り、ルティとシーニャは村の人と一緒に様子を見ている。
何かあったら彼女たちは飛び込んで来るだろうが、それが問題だ。
しかし気にしたところで、確かめられるものでもない。
おれは鞘の中に収まっているフィーサと共に、石に近づく。
その時だった。
ゴウッとした炎の壁がおれを囲みだす。
「イスティさまっ! 氷魔法を使ってなの!!」
「分かってる」
自分が使える炎の精霊魔法とはまるで違う熱さが全身を覆い、たまらず氷魔法を展開する。
しかし、
『アック様っっ!! あぁっ!?』
『ウゥニャ!? 近づけないのだ……ウゥゥ』
ルティとシーニャの必死な声もかき消され、おれとフィーサは炎の壁に閉じ込められた。
魔石だった石には、触れてもいないのにだ。
「――これは何だ? 敵の仕業か? それとも……」
「あぁぁっ!? イ、イスティさまの両腕が……」
「……ん? な、何!? 獣の腕じゃなくなっている!?」
「い、痛みはないなの? さっきまでの毛むくじゃらな腕は、どこへ行ったなの?」
毛むくじゃらな腕か……。
狼では無くなり腕だけだったとはいえ、それでも気にしていたようだ。
フィーサの心配をよそに、不思議と全く痛みは感じなかった。
本来の腕に戻っているが、火傷の痕も無ければただれた様子も見られない。
おれの腕、手の平が瞬時に感じ取った魔力は、悪意の無い強大な気配。
宝剣フィーサとこのおれだけを炎の壁に閉じ込めるとは、これは何者かの意思に違いない。
『そなたは神族、いや……古代スキルを持つ者か?』
汗ばむほどの熱さを感じながら、石から声が聞こえて来た。
フィーサの言う通り、石から感じられるのは魔石のような感覚だ。
聞こえる声も、どうやらおれとフィーサだけらしい。
「この声、声は……彼女の声!? ヘリアディオスにいるはずなのに、どうして……」
「どうした? 声の主が誰なのか知っているのか?」
「そ、その、わらわからは恐れ多くて答えられないなの。だから、イスティさま。彼女の返事に答えて欲しいなの!」
フィーサがここまで戸惑うとは。
ヘリアディオスというのは、確か向かっている神族国家だったはず。
そうなるとこの声の正体はまさか……。
「神族では無いが、古代スキルでもない。正直なところを言えば、おれのスキルが何なのか自分でもよく分かっていない。確かなのは、ありふれたスキルでは無いということだけだ!」
「ひ、ひぃぃっ!? イスティさま、口の利き方がダメダメなの」
正体が不明な相手というか、声に対してビビるものでもない。
そう思っていたが、
『……何者をも恐れぬ人間。面白いのぅ。宝剣も久しく見る……』
口調が古臭いが、老齢と思わせているように思える。
正体を中々現す気が無いのか、それともどこか別な所で話をしたがっているのか。
炎の壁も気になるし、持ち掛けてみることにする。
『おれはガチャスキルを持つ、アック・イスティだ。鞘にいるのは、宝剣フィーサ。ここではなく、あんたの話しやすい場所に移してくれ。もちろん、村に迷惑をかけないところでだ!』
フィーサは恐れて沈黙してしまったようだが、この場合の失礼な態度は相手にある。
おれが弱く出る必要は無いはずだ。
『――よい。炎の壁のまま、連れてゆくことにしようぞ!』
『そうしてくれ。それから、村人では無くおれの従魔、従者も忘れずにだ』
『後で導きの渦を残す。人間イスティ、身構えを維持して意識を断て! 直に戻そうぞ』
『あんたの正体……いや、名は?』
『我はアグニじゃ。火の神アグニ……イスティ。宝剣に免じて、全てを許してやるぞ』
名を聞けたと同時に、おれとフィーサは炎の壁に覆われた。
そして、そのままどこかに連れて行かれてしまったらしい。
「あれれれぇ!? き、消えちゃいました~!! アック様、フィーサ!!! ど、どこへ~!?」
「アックの気配が無くなったのだ……どこなのだ……ウニャ」
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