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第五章:魔石の導き

64.魂の行方と魔石の導き 後編

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「フィーサ。試したいことがある」
「何かは分からないけど、イスティさまがやりたいようにやっていいなの!」

 フィーサに光属性をエンチャント。
 そのままスキュラ姿のエドラに、氷魔法を放って斬り込んだ。

 ルティほど高く飛ぶことが出来ないおれは、せり上がった丘のような岩を利用。
 そこから飛んで、頭上からスキュラの全身を真っ二つに斬った。

「――フフッフフフ! そんな程度でしたかしら? 少し熱いだけで、ダメージすら負っていませんわよ?」
「いや、自分の姿をよく見てみたらどうだ?」
「醜い怪物の姿を今さら……!? ど、どういうこと!? 何故、どうして……」
「何てことは無い。スキュラは、体を自在に変えることが出来る軟体生物だ。スキュラの力を得たようだし、スキュラの体はあんたが使えばいい」
「わたくしの、王女としての体が何故そこに……」
「神殿の外に来ているあんたの護衛騎士が、シーフェル王女と行動を共にしていた。その姿に見せていたのは、あんたではなくスキュラだ。あんたの記憶から、王女となっていたんだろうな」
「醜い生物ごときがわたくしの記憶を盗んだ挙句、姿を変えていた……まぁいいわ。体が二つに分かれようと、王女の体には魂が入っていないのですもの。そんな体には何の意味もありませんわ!」

 宝剣フィーサは、邪悪な存在を斬ることが出来る剣だ。
 おれはフィーサを使って、スキュラの体を真っ二つに分けることに成功した。

 スキュラの魂の行方は、分からない。
 しかし姿を変えたことのある王女の体に意識が残っていれば、いくらでもやりようはある。

 邪悪な力を得たエドラの魂は、スキュラの体に魂ごと残ったようだ。

「イスティさま、上手くいったなの?」
「ああ。事前に凍らせて固めたから、上手く斬れた」

 宝剣フィーサは、軟体生物には不向きの剣。
 しかし一部分でも凍らせて固めれば、すんなりと斬ることが可能になる。

 その結果、軟体生物であるスキュラの体を二つに分けることが出来た。
 だが問題は、

「無駄なことをされるものですわね。あなたのお味方である醜い怪物の魂はわたくしから消え、わたくしは自由となりましたのよ? 姿と中身が違うからと言って、容赦なく攻撃が出来るとでもお思いなのかしら。フフ、怪物の魂の行方も分からないままでどうされるのかしらね?」

 今の時点でスキュラ本人は目覚めず、意思の疎通が出来ていない。
 エドラの言うとおり、スキュラの体に攻撃をするだけなら簡単だ。

 中身はエドラでも、スキュラを傷つけるのは躊躇する。
 彼女の実力は戦ったから分かるが、人間である聖女エドラよりも遥かに上だ。

 それなのに彼女の意識は、おれの前に出て来ていない。
 何かの狙いがあって、エドラの好きなようにさせている……。

 そんな気がしてならない。
 ドレイングローブでダメージを受けていたのは、エドラ自身だった。

 スキュラなら、自分の魂を王女の方に移すことも可能なはず。
 その為に意識を切り離しているとすれば、必要なのは器だけになる。

 このまま魔法攻撃、もしくはエンチャント攻撃をしたところで、同じことの繰り返しだ。
 試すとしたら、まずは宝珠しかない。

「……待たせてしまって悪いな」
「フフッフフフ! 随分とお悩みですこと。わたくしも暇じゃありませんのよ? 攻撃が効かないからといって、手段が見つからない……そんなことにはならないのですわよ」
「……ここに入る時の仕掛け扉は、あんたの仕業か?」
「何のことかしらね? わたくしが自在に動かしたのは、せいぜい洞窟をぐちゃぐちゃにして、あなたに対する魔物の敵対心を上げたくらいのもの。下らないことをする必要なんてありませんわね」
「そうか。なら、あんたは宝珠には目もくれないわけか」
「宝珠? あんな目くらましな宝石を好むのは、下民か魔物くらいなのではなくて?」
「よく分かった」

 スキュラは、完全に乗っ取られたわけじゃない。
 もしスキュラの狙いが封じ込めにあるとすれば、試す価値はありそうだ。

「フフ、荷物持ちアック。あなたのガチャ……魔石は、あれからどれくらい役に立っているのかしら?」
「どういう意味だ?」
「グルート様の前でゴミしか出さなかったガチャが嘘じゃないなら、ここでお見せ下さらない?」
「……いいだろう。しかしあんたが望むものが出るとは限らない。それでもガチャを引けと?」
「構わないわ」

 何かを企んでいることは明らかで、おれではなくエドラの視線は、魔石に集中している。
 それならば、こちらも魔石に仕掛けを施しておく。

 レアな魔石……というより、スキルを覚醒させた魔石以外は、ただの石だ。
 その魔石同士で表面に窪みを作りながら、刻印を施した。

 魔石を利用して、スキュラとエドラの名前をそれぞれの石に刻む。
 特に魔力は込めていないが、スキュラと刻んだ魔石の方には精霊獣の欠片をはめ込んだ。

 シーニャと戦っている狼は、スキュラを守護する精霊獣。
 上手く行けば、魔石に封じられる。

 後はこの魔石を使うフリをして、隙を生じさせるだけだ。
 予定通り、エドラに見せつけるようにして魔石を手にした。

「これが魔石だ。今からこれを使って、ガチャを引く。何が出るかは分からないが、引いていいんだな?」
「フフフ……あなたが今まで生き延び、ここに無様に姿を晒すことが出来ているのは、魔石のおかげ。そうなのでしょう?」
「そうとも言えるが、それがどうかしたのか?」
「わたくしが手にしても?」
「……好きにしろ。魔石はきっかけに過ぎないからな」

 そうは言いつつ、レア魔石だけは袋から出さなかった。
 おれは最初からガチャをやるつもりは無い。
 
 期待しているのは、魔石に何かをしようとしているエドラの行動だけだ。

「ガチャスキルがあれば、グルート様は死なずに済んだ……フフ。スキルではなく、ここに転がっている魔石のおかげで、荷物持ちだけがのうのうと生きていい気になっている。そんな魔石は――」

 エドラは不敵な笑みを浮かべながら、地面に置かれた魔石を手に取った。
 そして、

『クソッたれの荷物持ちごとき雑魚が!! 下らない魔石は全て破壊してやるっっ!』

 彼女は、予想通りの行動を取り始める。
 聖女エドラは、おれの実力全ての原因が魔石にあると結論付けたらしい。

『アハハハハッ!! 壊れろっ!』

 エドラはなりふり構わず、魔石を壁にぶつけ始めた。
 魔石は弾かれることなく、壁にぶつかってその場に落下。

 そんな中、自分の名とスキュラの名が刻まれた魔石があることに、気付いたようだ。

『へぇ……、わたくしの名とスキュラ? ……あぁ、醜い怪物の名前だったかしらね。これこそいらない魔石だわ!!』

 そう言うとエドラは、スキュラの名が刻まれた魔石を、岩壁に思いきり投げつけた。

『ウニャッ!? 狼、消えた。消えたのだ!』

 ずっと戦っていたらしいシーニャの声が聞こえる。
 同時に、

『ギッィヤアァァァァッ……!? か、壁に吸い込まれ……ぐぞがあぁぁ!! 何をしやがっぁぁ――』
 
 スキュラの姿のまま、エドラは岩壁の中に吸い込まれて行った。
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