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第五章:魔石の導き

62.魂の行方と魔石の導き 前編

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「ウウッ! ウニャウッ!!」
「シーニャ、岩肌にも甲殻類がいるぞ! 爪で全て引き剥がせ」
「ウニャ! アックは足下のウネウネを斬りまくって欲しいのだ!!」
「任せろ!」

 ここでは役割分担が出来た。
 素早さと身のこなしに長けるシーニャには、先制攻撃を任せている。

 海底ダンジョンのせいか、森や山で見かけるゴブリン族は見当たらない。
 ここにいるのは、せいぜいナメクジだとか、コウモリ、カニ、凶暴なタコくらいだ。

 鋭いハサミを持つカニが複数いたが、シーニャには丁度いい相手となっている。

 おれは両手剣であるフィーサを手にして、取りこぼしの敵を斬る役目のはずだった。
 しかし足下にいるのは、主に軟体生物。

 感触的に斬りたくないとかで、フィーサはわがままを言いだした。

「だって嫌だもん」
 ――などと言われたら、無理に剣に戻れとは言えずじまい。

 その結果、おれだけで対象の敵に炎属性を当てている。
 本気を出してくれるのは、スキュラとの戦いなのだと期待するしかなさそうだ。

 大した敵が出て来ないまま進み続けていると、行き止まりに見える岩扉があった。
 以前は、素直に進むことが出来た洞門。

 それをスキュラなりの”遊び心”で、わざと難しくさせた場所が何か所かある。
 かなり深く下って来た所で、最後の遊びが待っていた。

「アック、この窪みは何なのだ?」
「シーニャにこれを渡すから、その窪みに入れてくれるか?」
「ウニャ? 色がそれぞれ違うのだ。適当にはめ込めばいいのだ?」
「う~ん、それじゃあ青、紫、赤、透明、黄色、緑……今言った順番に」
「分かったのだ!」

 神殿へは、深く下って行くダンジョンが形成。
 行き止まりに見えた岩扉には、いくつかの窪みがあった。

 おれは以前来た時と同様に、拳で岩を破壊しながら進むつもりでいた。
 しかし前回崩れかけたことがあり、それを見越して仕掛けを用意したようだ。

「イスティさま、虎娘に渡したのは宝珠?」
「ああ。これも魔石の導きかもしれないな。スキュラは宝珠が好きで、それを貰っておれの仲間になったから」
「ふぅぅん? 渡した順番に何か意味があるなの?」
「属性の相関だな。そこまで深い仕掛けでは無いかもしれないが、もうひとりがおれを試そうとしているのかもしれないからね」
「もうひとりの……イスティさまは分かっているなの?」
「因縁の相手だよ。スキュラの中にいる魂といったところかな」
「あの女……水棲怪物スキュラをイスティさまは、どうするつもりなの?」

 スキュラの中に、エドラの魂が紛れているはずだ。
 そうなると、魔法による攻撃でどうにかなる相手じゃない。

 出来ればスキュラを傷つけたくはないが、どうすればいいのか。
 問題はまだある。

 聖女エドラが王女だということは、魂を分ける必要があることだ。
 
「まずは戦って、戦いの最中に解決策を見つける。フィーサには属性付与をするから、力を存分に発揮して欲しい。出来るね?」
「は、はいなの!」
「アック、石が光って扉が開いたのだ! 進むのだ」
「やはりそうか」

 窪みにはめ込んだ宝珠は、扉が開くと同時にそのまま岩の中に吸い込まれていった。
 神殿へ行くための、お供え物といった扱いだったようだ。

 元々大した道のりでは無かったが、満足げに”彼女”はおれを出迎えた。

『ウフフ……荷物持ちのアックでしたかしら?』

 スキュラの姿、声で待ち構えていたのは、間違いなく聖女エドラだった。
 精神も魂も、エドラに乗っ取りをされたのだろうか。

 しかし、

「荷物持ちでも何でもない、ただのアック・イスティってところだ。いや、冒険者と言うのが正しいか? お前は随分と姿が変わったものだな、聖女エドラ」
「お前……? フッフフフ、誰に向かってほざいているおつもりかしらね?」
「何でもいいが、彼女を解放してもらう。勇者グルートと同じように、魂を滅されたくはないだろう?」
「……あらあら、しばらく見ない間に酷い輩と成り果てたのですわね。わたくしのこの姿、この醜い怪物を滅せば、あなたが望む結末とはかけ離れてしまうのだけれど?」

 スキュラとしての自我は、失われたように見える。
 それとも眠ったままで、意識の底に沈んだか。

 白いローブは呪い装備だった。
 時戻しでバヴァルは若返ったが、それを魂を封じた魔石に使用された。

 魔石に封じられていたエドラの魂ごと何らかの形で憑依させ、スキュラを苦しめたとみえる。
 そして上手く行った相手が、今まさにおれの前に姿を現わした。

 狙いはやはり復讐か。
 しかし勇者と賢者はすでに存在しない。

 なぜバヴァルは、聖女エドラだけを蘇らせたのか。

「……そうはならない。それに、スキュラをあまり甘く見ないことだな」
「フフッフフフ! 相変わらずの甘さと弱さが残っているようで、安心ですわね。さて、怪物の力も得られたわたくしは、荷物持ちのアックを無残な姿に変えて差し上げますわ!」

 おれしか見えていないのか、シーニャとフィーサには目もくれていない。
 それとも、潜在されたスキュラの狙いでもあるのだろうか。

「そういうことなら、おれもあんたをシーフェル王女に戻してやろう!」
「――下らない。消す、消してやる……」
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