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第四章:謎追いの旅へ

54.ギルドの行方と真実 後編

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「イスティさま……妾は?」
「フィーサは――」

 いや、その前にどういうテストになるんだ。
 単純な魔法攻撃だとしても、外に出ないと被害が出そうだが……。

『その方、名は?』
「アック・イスティ。実力の見せ方は?」
『ではアック。目の前に見えている巨木を燃やしてみるがいい!』
「……巨木を? しかしその木はどう見ても、レザンスのシンボル。後悔することになるかと」
『なに、当たらぬから心配無用。たとえ当たったとて、傷の1つもつけられないだろう』

 どういうことだ。
 おれを見くびっているのか、それとも。

 老齢の魔術師のひとりが巨木のすぐ傍に立ち、他のふたりは少し離れて見ている。
 どうやら相当な自信家のようだ。

 ここはひとまず、
『――エクスプロジオン!』
 手加減無用なら、これで。

 爆発魔法は火力が強く、おれの魔力を存分に消耗して形となる。
 しかも今回は動かない標的。

 それをめがけて放つだけでいい。
 そう思いながら両手を広げ、巨木に向けて発動させた。

 しかし巨木の手前で威力が落ち、そのまま爆発魔法が消えてしまう。
 そこに立つ魔術師は、一歩も動いていない。

『……どうした? それがアックの今の実力か? こちらは立っているだけだぞ?』

 確かにそうだ。
 巨木はもちろんのこと、老齢魔術師も身動きすら見せていない。

 何かをしたとは思えないが、
「イスティさま。妾を使ってなの! 妾を引き抜いたら、すぐに炎をエンチャントしてくれればいいの」

 鞘に収まっているフィーサが、背中越しからささやいて来た。
 両手剣の彼女には魔法効果を付与出来るが、今までそれを試したことは無い。

 強い気配に気付いたフィーサのことだ。
 おれが気付かない異変に気付いているはず。

「フィーサブロスにファイアボールを付与!」

 フィーサの剣全体に炎がほとばしる。
 そんな彼女を握りしめながら、おれは巨木に向かって一直線に斬りかかった。

 燃え盛る炎は巨木ではなく、辺りの空間を巻き込んで轟音と共に崩し出す。
 え、これは……。

 建ち並ぶ家々は焼け崩れた姿を晒し、足元からは焦げついた土の地面がむき出しになって現れた。
 そして老齢魔術師は、ひとりだけになっている。

『見事! 我の幻影魔法をいとも容易く破るとは……』

 幻影魔法ってことは、見えている場所全てが幻なのか。
 しかし巨木だけは、少し焦げたように見えている。

「どういうことだ? 幻に見せて攻撃をけしかけさせたとでもいうのか?」
「無礼をお詫びする。我はレザンス・リブレイ。再建魔法ギルドのマスターである」
「へ? リブレイ……? レザンスって――」
「バヴァルは我の弟子であり、ここを焼け尽くした魔女でもある。先程まで見えていた家々は、全てバヴァルによって焼かれてしまった。巨木も焦げがついてしまったが……」
「つまり、ここが魔法ギルドの中心地だったと?」
「そういうことだ。手前の港など、魔法の気配すら無い。ここが魔法国と知る者は、もはやいないだろう」

 真実は魔法に聞け……か。
 正確にはフィーサの魔法剣で答えが出たけど。

「バヴァルは叛逆ほんぎゃくを?」
「才能があり後継者育成をしていたが、弟子が手にした神殿の書物を手に入れてから、おかしくなっていった。その結果が、このざまだ」
「しかし、それだけでここを燃やすなんて……」
「神殿の書物、つまり魔導書にはスキルを覚醒させることが書かれていた。力を持たせれば危険だと判断し、我は書物を人知れぬ港の小屋に隠した」
「隠した……?」
「そのことに怒り、ここを燃やされたというわけだ」

 もしやおれが見せられたあの魔導書がそうだったのか。
 ギルドだと思っていた場所が小屋で、その小屋に転送して来られた。

「バヴァル自身の覚醒は?」
「書物を見つけ出された時に触れていたが、覚醒はしなかったようだ。弟子を覚醒させようと企んでいたが、弟子には逃げられ年月だけが過ぎ去った」
「じゃあおれが……」
「最後の弟子アック。覚醒をしたのだろう?」
「まぁ……」
「それが何かまでは問わぬ。だが、バヴァルの教えを引き継いだ弟子がここに来たのは、何かの凶兆。何か良くないことが起きるかもしれぬ」
「しかしおれは――」
「悪いことを企む者ではないと知った。その宝剣は、そういう者に扱えるモノではないからな」

 よく分からないが、フィーサのおかげか。
 ギルドもろとも町を燃やすなんて、とんでもない魔女だった。

「それでおれはどうすれば?」
「逃げた弟子が生きていれば、良からぬことをするはずだ。バヴァルの意志を遂げるか、あるいは……」
「レザンス再建の邪魔を?」
「……ともかく、バヴァルの弟子だった女を探し、阻めてもらいたい」
「関わってしまった以上、努力しますよ」
「うむ……全て片付けたならば、アックはレザンスのギルドマスターとなれ!」
「え、おれが!?」
「それまで再建しながら待っているぞ」

 全くそんなつもりは無いのに、ギルドマスターって……。
 自由気ままに生きるはずが何故こんなことに。

「イスティさま。ギルドマスターになるのなの?」
「どうだろうね……ところで、シーニャは?」
「知らないなの。じっとしていることがない虎娘のことだから、港に行ったかもなの」
「参ったな」
「ドワーフ小娘の所に行っているかもなの。イスティさま、行くなの!」
「それしかないか」

 バヴァルに囁かれてついて行ったばかりに、こんなことになるとは。
 こうなれば、逃げた弟子を探すしかないのか。
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