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第四章:謎追いの旅へ
49.眠れる魔女とスキュラの異変
しおりを挟むまるで餌を待ち望んだ猛獣のようだな。
そう思ってはいけないが、ルティとシーニャのふたりからはそんな気配を感じる。
デーモン装備の耐久性を測る絶好の機会か。
ダメージを吸収して果たして……。
そしてその時が訪れた。
『――おぽげあぇっ!?』
何か出したことのない奇声が出てしまったぞ。
◇◇
奇声の後、気付けばおれは地面に倒れていた。
あお向け状態のまま見上げると、そこには泣きじゃくりのルティが見える。
シーニャの姿は近くには無く、見えるのは彼女の尻尾だけ。
何となく自分の体がぼんやりと光っていて、軽く浮いているような感じだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいです……アック様、アック様ぁぁぁl!!」
「な……にを、泣いてるんだ?」
「わたしには謝ることしか出来ません~」
「もう泣くな。……とりあえず、おれの身に何があったかだけでも教えてくれ……」
「でも、でもぉ……あのぅ~」
ルティでは話が進みそうにないな。
スキュラは近くにはいないんだったか? 尻尾を見せているシーニャに聞くか。
恐らくおれに回復魔法を施していると思うが。
おれは近くにある尻尾を掴んだ。
『フギニャーーー!?』
やはりシーニャだったな。強く掴みすぎたか。
「シーニャ、ごめんな。驚かせたか?」
「アック、ヒドイのだ! アック、責任取れ。でもアック、回復出来た!」
「ごめんな。回復させたことの責任は取る。とにかく、ありがとうシーニャ」
尻尾を掴んで驚いたシーニャは、すぐに顔をのぞかせた。
どうやらまだ慣れていない回復魔法を使ったらしく、疲れた様子を見せている。
お礼と責任も兼ねて、シーニャの耳と頭を撫でた。
「……フ、フニャン」
「シーニャは中々可愛いな……撫で甲斐がある」
「アック、早く服を着る! 新しい服、出せ。シーニャ、先に宿に行く! ウゥゥッ!」
「って、あ――」
かなりの早さで、シーニャはおれの前からいなくなってしまった。
やはり撫でられるのは嫌なのか。
――というか、服を着ろと言っていたな。
衝突された痛みは感じていないが、妙に軽くてスースーする。
「ルティ……おれに何か言うことは?」
「え、え~と……い、勢い余って破壊を~……」
なるほど、そうか。
シーニャが回復してくれたのはそういうことだった。
幸いにして真っ裸ではなく、全身はデーモンマントで包まれている。
ヘルムだけすぐ傍に残っているが、それ以外が何もない。
「おれが着ていた装備を破壊したんだな? ルティ……」
「ご、ごめんなさいぃぃぃ……勢いで嬉しくてアック様を吹き飛ばして……あはぁぅぅ~」
記憶も飛んでいるのはそういうことか。
ヘルムだけはLレアで、レベルもかなりのものだったからいいとして……。
SSSレアでもレベルが低いものは駄目か。
問題は装備では無くおれ自身の耐久性だな……。
デーモン装備でいい気になりすぎた。
やはり攻撃だけでは、どうにも強いとは言えないということだ。
それともガチャ装備は長く使う物ではなく、状況次第で着替えろということか。
「いや、ルティのおかげで気付いた。まぁ、その……会えて嬉しいな、うん」
「ア、アック様ぅぅぅぁぁぁぁl!!」
「ま、待て、起きるから! 何か代わりに着れるものは無いか?」
ここは冷静に対処しなければ。
そう思っていたら、ルティも切り替えが早かった。
「あ! それでしたら、宿に置いてあります! ご一緒に行きましょう~!!」
「何? このままでか?」
「大丈夫ですよ~! この町、ほとんど男性しかいませんから~」
それはそれで心配になるが。
マントをただ巻いただけのおれは、ルティの案内で宿に向かうことにした。
◇
「――バヴァル……なのか? しかしこの姿は……」
「間違いありませんわ。アックさまが出会った時のお姿そのままかと」
「白いローブはどこへ?」
「あたくしが戦った時に、ルティが脱がしてそのまま破りましたわ。そして魔石は破壊を……」
「魔石!? あのグルートたちが封じられていた魔石か?」
「――ええ。勇者と賢者なる男の魂は、すでに火口で燃やしたとおっしゃっていましたわ」
宿に入ったおれの目に飛び込んで来たのは、老齢な姿のバヴァル・リブレイだった。
おれが到着する前に、スキュラとルティとで戦ったらしい。
「そうか、グルートとテミドは完全に消えたのか。じゃあ、聖女エドラも?」
「……」
「スキュラ? 大丈夫か?」
「問題ありません。聖女エドラ……だけは、不明ですわ。アックさまが預けた白いローブにより、魔石の中に仕掛けを施した可能性が……っぅう……」
「スキュラ、何かダメージがあるのか?」
「……」
スキュラが苦しそうにしている。
何かされたのか、沈黙してしまった。
「アック様! スキュラさんは、魔石をぶつけられてしまってます。その痛みが残っているのかと思うのです……」
「バヴァルが魔石を攻撃に使ったのか?」
「そう見えましたけど~……」
魔力消耗によるものか、あるいは呪いによるものなのか。
ベッドに寝かされたバヴァルは、生気が感じられないくらい眠っている。
魔法国レザンスのギルドマスターと言っていたが、確かめる必要がありそうだ。
あの場所に行くには転送しか無いが、今は厳しいか。
「……ルティ。どこかで食事を取れるところはないか?」
「それでしたら、隣のお部屋でご用意しますっ!」
「それで頼む。シーニャのおかげで回復はしたが、疲れがある。一息入れたい」
「ウニャ! シーニャも取るのだ!」
「フィーサ、スキュラを頼めるか?」
「……分かったなの。イスティさま、元気になってなの!」
「助かるよ」
ルティとシーニャにやられた時は、どうなるかと思っていた。
しかし問題はスキュラと、バヴァルだ。
まずは腹ごしらえして、それからだな。
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