上 下
49 / 577
第四章:謎追いの旅へ

49.眠れる魔女とスキュラの異変

しおりを挟む

 まるで餌を待ち望んだ猛獣のようだな。
 そう思ってはいけないが、ルティとシーニャのふたりからはそんな気配を感じる。

 デーモン装備の耐久性を測る絶好の機会か。
 ダメージを吸収して果たして……。

 そしてその時が訪れた。

『――おぽげあぇっ!?』
 何か出したことのない奇声が出てしまったぞ。

 ◇◇

 奇声の後、気付けばおれは地面に倒れていた。
 あお向け状態のまま見上げると、そこには泣きじゃくりのルティが見える。

 シーニャの姿は近くには無く、見えるのは彼女の尻尾だけ。
 何となく自分の体がぼんやりと光っていて、軽く浮いているような感じだ。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいです……アック様、アック様ぁぁぁl!!」
「な……にを、泣いてるんだ?」
「わたしには謝ることしか出来ません~」
「もう泣くな。……とりあえず、おれの身に何があったかだけでも教えてくれ……」
「でも、でもぉ……あのぅ~」

 ルティでは話が進みそうにないな。
 スキュラは近くにはいないんだったか? 尻尾を見せているシーニャに聞くか。

 恐らくおれに回復魔法を施していると思うが。
 おれは近くにある尻尾を掴んだ。

『フギニャーーー!?』
 やはりシーニャだったな。強く掴みすぎたか。

「シーニャ、ごめんな。驚かせたか?」
「アック、ヒドイのだ! アック、責任取れ。でもアック、回復出来た!」
「ごめんな。回復させたことの責任は取る。とにかく、ありがとうシーニャ」

 尻尾を掴んで驚いたシーニャは、すぐに顔をのぞかせた。
 どうやらまだ慣れていない回復魔法を使ったらしく、疲れた様子を見せている。

 お礼と責任も兼ねて、シーニャの耳と頭を撫でた。

「……フ、フニャン」
「シーニャは中々可愛いな……撫で甲斐がある」
「アック、早く服を着る! 新しい服、出せ。シーニャ、先に宿に行く! ウゥゥッ!」
「って、あ――」

 かなりの早さで、シーニャはおれの前からいなくなってしまった。 
 やはり撫でられるのは嫌なのか。

 ――というか、服を着ろと言っていたな。
 衝突された痛みは感じていないが、妙に軽くてスースーする。

「ルティ……おれに何か言うことは?」
「え、え~と……い、勢い余って破壊を~……」

 なるほど、そうか。
 シーニャが回復してくれたのはそういうことだった。

 幸いにして真っ裸ではなく、全身はデーモンマントで包まれている。
 ヘルムだけすぐ傍に残っているが、それ以外が何もない。

「おれが着ていた装備を破壊したんだな? ルティ……」
「ご、ごめんなさいぃぃぃ……勢いで嬉しくてアック様を吹き飛ばして……あはぁぅぅ~」
 
 記憶も飛んでいるのはそういうことか。
 ヘルムだけはLレアで、レベルもかなりのものだったからいいとして……。
 
 SSSレアでもレベルが低いものは駄目か。
 問題は装備では無くおれ自身の耐久性だな……。

 デーモン装備でいい気になりすぎた。
 やはり攻撃だけでは、どうにも強いとは言えないということだ。

 それともガチャ装備は長く使う物ではなく、状況次第で着替えろということか。

「いや、ルティのおかげで気付いた。まぁ、その……会えて嬉しいな、うん」
「ア、アック様ぅぅぅぁぁぁぁl!!」
「ま、待て、起きるから! 何か代わりに着れるものは無いか?」

 ここは冷静に対処しなければ。
 そう思っていたら、ルティも切り替えが早かった。

「あ! それでしたら、宿に置いてあります! ご一緒に行きましょう~!!」
「何? このままでか?」
「大丈夫ですよ~! この町、ほとんど男性しかいませんから~」

 それはそれで心配になるが。
 マントをただ巻いただけのおれは、ルティの案内で宿に向かうことにした。
 
 ◇

「――バヴァル……なのか? しかしこの姿は……」
「間違いありませんわ。アックさまが出会った時のお姿そのままかと」
「白いローブはどこへ?」
「あたくしが戦った時に、ルティが脱がしてそのまま破りましたわ。そして魔石は破壊を……」
「魔石!? あのグルートたちが封じられていた魔石か?」
「――ええ。勇者と賢者なる男の魂は、すでに火口で燃やしたとおっしゃっていましたわ」

 宿に入ったおれの目に飛び込んで来たのは、老齢な姿のバヴァル・リブレイだった。
 おれが到着する前に、スキュラとルティとで戦ったらしい。

「そうか、グルートとテミドは完全に消えたのか。じゃあ、聖女エドラも?」
「……」
「スキュラ? 大丈夫か?」
「問題ありません。聖女エドラ……だけは、不明ですわ。アックさまが預けた白いローブにより、魔石の中に仕掛けを施した可能性が……っぅう……」
「スキュラ、何かダメージがあるのか?」
「……」

 スキュラが苦しそうにしている。
 何かされたのか、沈黙してしまった。

「アック様! スキュラさんは、魔石をぶつけられてしまってます。その痛みが残っているのかと思うのです……」
「バヴァルが魔石を攻撃に使ったのか?」
「そう見えましたけど~……」

 魔力消耗によるものか、あるいは呪いによるものなのか。
 ベッドに寝かされたバヴァルは、生気が感じられないくらい眠っている。

 魔法国レザンスのギルドマスターと言っていたが、確かめる必要がありそうだ。
 あの場所に行くには転送しか無いが、今は厳しいか。

「……ルティ。どこかで食事を取れるところはないか?」
「それでしたら、隣のお部屋でご用意しますっ!」
「それで頼む。シーニャのおかげで回復はしたが、疲れがある。一息入れたい」
「ウニャ! シーニャも取るのだ!」
「フィーサ、スキュラを頼めるか?」
「……分かったなの。イスティさま、元気になってなの!」
「助かるよ」

 ルティとシーニャにやられた時は、どうなるかと思っていた。
 しかし問題はスキュラと、バヴァルだ。

 まずは腹ごしらえして、それからだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

処理中です...