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第三章:スキルの覚醒

34.露呈と、追われの存在

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 想像とは全く異なり、ごくごく平和な背中流しが繰り広げられている。
 そもそもルティに対し、色気のようなものを求めるのは違う。

 そんなわけで、彼女に背中をゴシゴシされている。
 この最中も全身に防御力がついているような、妙な感じを受けた。

 本人は全く気づいていないが……。
 ルティのスキルはとんでもないかも。

「それにしても、宿の部屋によくこんなモノを入れられたもんだな」
「それはですね~即席だからなんですよ」
「……部屋の中で作ったってこと?」
「ですです! 手作りすることならお任せ下さい! 桶はわたしの家から持ってきたんですけど、温泉水は自前の樽で作っていまして~それを~……」

 拳と力業ばかりの娘だとばかり思っていた。
 どうやらそうではなく、ルティは案外手先が器用らしい。

 錬金術とはどこまで可能にするものなのか。
 温泉水も単なるお湯ではないようだし、支援系だけに特化させたらすごそうだ。

「ルティのその万能効果って、いつでも作れるのか?」
「それがですね~、そろそろ手持ちの素材が尽きそうなんです。アック様は、ダンジョンとか魔物狩りをする予定がありますか?」

 やはりそうだよな。
 素材は無限じゃないし、ルティだから何とかなるなんてのは幻想すぎた。

 魔物狩りは剣スキルを上げるのに必要だな。
 ダンジョンは……どうするか。

「スキュラが戻ってきたら、ここを出ようと思ってるんだけど……」
「本当ですか! それは楽しみですっ! ところで、ガチャで出した防具はどうするんです?」
「あ~……目立つよな、やっぱり」
「……アック様がよければ、装備の素材を頂いてもよろしいですかっ?」
「素材を?」
「はいですっ! 何かに分解出来そうなのです」
「まぁ、いいかな。どのみち、ここを赤い装備のままでは目立つだろうし、いいよ」
「ありがとうございますっっ! 嬉しいですっ、アック様!!」
「――っ!? なっ……!? うごぁっ」

 背中に感じるのはルティの抱きしめ……と、羽交い絞めだった。
 嬉しさのあまりに抱きつかれたまではいいが、このままでは……。

『――何を……されて?』

 いいタイミングで、ようやくスキュラが戻って来た。
 ルティの暴走に気付いたらしく、ルティに麻痺をかけてくれたらしい。

「ほええ……」
「……全く、宝剣がふてくされていたかと思えば、何をしていたのかしらね」
「イスティさま、大丈夫~?」
「あ、あぁ……な、何とか」
「アックさまの為に動いていましたのに、ドワーフ娘に振り回されているようでは困りますわ」
「ご、ごめん。それで、首尾は?」
「まずは、アグエスタを早急に出る必要がありますわ!」
「――え?」

 スキュラによれば、剣闘場での勝利以前におれが街で暴れたことが、知れ渡ってしまったようだ。
 おれに声をかけた老人が広めたらしい。

 さらには、外から入国して来た騎士団とのもめ事。
 その騎士団の人間と、無許可で剣闘場を使用したことが影響した。

「――というか、無許可だったんだ、あれ」
「ええ。あたしが取引を始めた、アルビン・ベッツなる男からの話ですわ。勝手に剣闘場を使ったのは、キニエス・ベッツ。騎士団を勝手に率いたことで、破門されたようです。その男は、ベッツ一家の追放者のようですわね」
「本物の騎士団がアルビン・ベッツ?」
「そうですわ。そして、アックさまが魔石化された勇者グルート・ベッツの兄でもありますわね」

 ベッツ……なるほど、勇者グルート・ベッツの家の者か。

「その兄が追っているのはおれ?」
「いいえ。敵討ちでは無いようですわ。目的は、勇者が放置した魔物を倒せる強さの人間を探して欲しいのだとか」
「魔物を放置……?」
「あの勇者はSランクとなるまで、悪行三昧を――しっ!」
「……うっ?」
「アックさま、ここにいては捕まりますわ。今すぐ裏から逃げなければ!」
「え、何故?」
「この国は貴族以外の人間がしたことを、罪に問うのですわ。剣闘場でのことが公(おおやけ)になった以上、アックさまは罪人なのです」

 スキュラが声をひそめながら言うように、外が騒がしい。
 おれの破壊活動と、騎士団との私闘による悪評が広まったようだ。

「そ、装備を――」
「目立ちますけれど、その赤い装備を急いで身につけてくださいませ!」
「わ、分かった」

 貴族騎士の国というだけで嫌な予感しかなかった。
 しかしまさか、追われる身になるとは。

「ほへほへほえ~……あれれ、アック様、どこへ~?」
「ルティ、おれの背中につかまれ! ここを出るぞ」
「は、はいっっ!!」
「あたしは、宝剣と一緒に出ますわ! アックさまは、ドワーフ娘と共に、外門へ!!」

 もはや転送して資金稼ぎどころじゃなくなった。
 剣闘場での行為も、まさかそんな濡れ衣を着せられていたとは。
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