29 / 577
第二章:魔石の秘密
29.Aランク剣士たちの挑発
しおりを挟むルティを後ろに下がらせたとはいえ、複数を相手にするのは初めてだ。
それも剣の相手となると、今の時点ではかなり不利といえる。
『ああ~ん!? お前か? 随分……』
男たちの1人、リーダー格の男がおれの来ている装備を見つめている。
ルティが作ると言っていた両脚は、まだ間に合っていない。
それもあって、まともな部分は上半身だけだ。
もちろん強さの基準は装備などではなく……。
リーダー格ではない別の男たちが、笑いをこらえきれずにおれの前までやって来た。
そして、
「ぶあっはははは!! おい、見ろよ? コイツ、知識も何も持ってねえぜ?」
「おいおい、本当かよ? 炎属性の防具にミスリルの剣って……随分な趣味してやがる」
数台の馬車の内、降りて来たのは車輪を大破された馬車。
それに乗っていた、言葉も品も悪い3人の男たちだ。
全員が剣を所持しているということは、強さは別として剣士か。
「……何かおれの装備に問題でも?」
「問題ぃ? まさかと思うが、アグエスタの剣闘場に参加するってのは、お前か? 冗談だよなぁ?」
「さぁな。おれだったら問題があるのか?」
「大有りだろ、そりゃあよぉ……! お前、見たところ、ジョブなしの荷物持ちだろ? なぁ?」
「……残念ながら、荷物持ちではないな」
「へぇ、そうかよ。どうでもいいが、高そうな装備を上だけ着ていたって無駄だぜ、そりゃあ」
こいつらの相手をする方が無駄だな。
剣はともかく、拳で吹き飛ばしてやろうか。
『貴様たち!! いい加減にしとけ! そんなジョブなしのガキを笑ったところで、無意味だ! 問題は、馬車の車輪だ。そこのドワーフの娘を連れて来い!! 街で締め上げるぞ!』
やはりこの大男がリーダー格か。
他の男らに比べると、体格に差があって分かりやすい。
鋼鉄製の防具一式と、黒鉄……いや、ただのアイアンソードだな。
身長差もあるし、リーチもおれより上といったところだ。
一見すると話の分かる奴に思えたが、ルティを捕らえる発言は許せない。
部下なのか、2人の男たちがおれを押し退け、ルティの所に向かおうとする。
『悪いが、それは認めてない』
「「邪魔すんな、ガキ!!」」
ルティはすでにかなり後方、アグエスタの門の付近にまで下がっている。
こいつらはそのまま街に入るつもりだろう。
重いままの剣で出来るかどうか……そう思っていたら。
「イスティさま、今回だけだよ?」
「――え?」
今まで黙っていたフィーサの声が、耳元で聞こえる。
同時に、おれの体が操られたかのように動き出した。
「何だぁ? Aランクの俺たちとやり合うってのか?」
「そんなミスリルの剣ごときで、何が出来るってんだ?」
重かった剣はすでに無く、嘘のように体も剣も身軽になった。
おれだけでは相手の懐にまで入る速さは無い。
それだけに、フィーサの動きは男らの肝を冷やす。
なめ切った2人の剣が振り下ろされる前に、おれの剣先が奴らの頬をかすっていた。
おれだけでは、男たちの頬に切り傷すらもつけられなかっただろう。
「……な、馬鹿な!」
「ど素人じゃねえのかよ!?」
ど素人以下だけど。
間違いなく、フィーサにとってお遊び的動きだった。
男たちはAランクと言っていたが、あの勇者たちよりは劣るということか。
しかし剣となると、いまのおれはランクすらつかない。
こればかりは実戦あるのみだ。
そして、
『貴様! 見せかけの剣士もどきかと思っていたが、どこの国の奴だ?』
大柄の男が近づきながら、声をかけて来た。
この時点で、2人の男らは馬車のある位置にまで下がっている。
それほどの人間なのか。
「どこの国でもない。強いて言えば、大陸の裏側だ」
「……なるほどな。名は? そのミスリルは、ただの剣では無いな?」
「アック・イスティ。この剣は、宝剣だ」
「宝剣……ふん、そうか」
「あんたはどこの誰だ?」
「俺はアグエスタ騎士団、副団長であるキニエス・ベッツだ。ランクはSに近いAといったところだ。貴様の強さはあんなもんじゃないだろう? その答えは、剣闘場で聞く。ドワーフの娘には教育しとけ!!」
大柄の男と、2人の男たち、それに馬車の列。
大破した車輪の馬車だけを残して、アグエスタに入って行く。
騎士団の副団長……。
ということは、団長は酒場にいたあの男だろうか。
またしてもベッツという名が出て来た。
どこかでこの名を聞いているが、どこだったか。
「イスティさま、どうだった?」
「フィーサのおかげというか、あれでどれくらいの強さ?」
「分かんない。だけど、妾なら負けないの。でも……イスティさまの強さでは勝てないかも」
「だ、だよねえ」
フィーサに操られっぱなしだと厳しいだろうな。
剣闘場の戦いがいつなのかによるが。
『アック様~!!』
ん? ルティの声か。
アグエスタ付近に下がっていたはずだが、案外近くにいたようだ。
「ルティ! 大丈夫だった?」
「はいっ! アック様こそ、ご無事でしたか?」
「まぁ、おれは……というか、『様』じゃなくても」
「いいえ! わたし、これからずっとアック様ってお呼びします! ずっとお傍にいたのに、他人行儀だなぁと思っていたので、もっとずっと近くに感じていたいです。いいですか?」
「それは構わないけど、おれはそのままでもいいのかな?」
「はいですっ! たまにルティシアもドキドキですけど、ルティって呼ばれたいです~!」
ルティの気持ちにも変化が出たのか。
フィーサの無言にも恐れを感じるが、まずは宿に戻ることにする。
0
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。
HP2のタンク ~最弱のハズレ職業【暗黒騎士】など不要と、追放された俺はタイムリープによって得た知識で無双する~
木嶋隆太
ファンタジー
親友の勇者を厄災で失ったレウニスは、そのことを何十年と後悔していた。そんなある日、気づけばレウニスはタイムリープしていた。そこは親友を失う前の時間。最悪の未来を回避するために、動き始める。最弱ステータスをもらったレウニスだったが、、未来で得た知識を活用し、最速で最強へと駆け上がる。自分を馬鹿にする家を見返し、虐げてきた冒険者を返り討ちにし、最強の道をひた進む。すべては、親友を救うために。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる