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第二章:魔石の秘密
28.宝剣フィーサの実戦訓練!?
しおりを挟む『マスター! そこのゴブリンを一撃で!!』
『ひぃ、はひっっ』
おれとフィーサは、アグエスタの外に出ていた。
そこから少し離れた場所の茂みにはルティがいる。
彼女はおれたちの戦いを、うずうずと興奮しながら眺めているのだが……。
全く無関係の獣に笑顔を見せているのは、どうなんだ。
宝剣フィーサは、しばらく自分を冷やしに部屋から出ていた。
帰って来るとすぐにおれを外に誘って、今に至っている。
貴族騎士の国ではあるが、ドワーフの町と反対側の道からは魔物が増えるらしい。
騎士はあまり相手にせず、馬車や馬で素通りをすることが多いのだとか。
この辺にいるゴブリンは比較的弱く、初心者レベルでも狩れるようだ。
とはいえ、今まで剣を握ったことがないおれは、まともに振れていない。
「マスター、妾は今から重くなるから、無理なら声をかけて」
「え、重く……? ぬおわっ!?」
剣の姿でおれに剣術指南をしてくれているフィーサは、かなり軽量で持ちやすい。
しかし本来はもっと重量クラスだとか。
今からその重さに慣れてもらいたいとかで、急激に重くなっている。
銀に輝くミスリルは、通常それほど重くはない。
フィーサは宝剣ということで、持ち主によって重さを変えていたらしい。
こ、これはなかなか重い……。
「――ぐぅっっ……!! ストップ、こ、ここまでで!」
「え~? まだレベル200くらいの重さなのに~……、イスティさまは腕力が足りてない~」
「腕力か。それはさすがに鍛えてはいないな」
「小娘よりも強くなるには、妾のレベルを超えないと、めっ! なの!!」
「ルティよりも腕力を……か。体力はついて来てるんだけどな」
「でもでも、妾はイスティさまだけの剣なの! 他の……あの小娘になんか持たせないもん!!」
おれ専用の宝剣か。
しかもレベルが900とか、それを超えるとなると1000以上……。
重さに耐えても、全体のレベルも鍛えないと駄目だなぁ。
『きゃあぁぁぁ~!!』
うっ? この声はルティか!?
大体いつも大げさに騒ぐが、今回は少し違う気がする。
「イスティさま、あれ!」
「……ん? 馬車の集団!? あれか」
茂みで隠れていたわけでもないルティが、男たちに囲まれている。
前面の馬車をよく見ると、車輪部分が外れているがまさか……?
「イスティさま。実戦なの! 数だけの人間に斬りかかるの!!」
「えええ? 実戦って……こ、殺さずにやるからね? ルティを助けてフィーサは黙っておれの――」
「ふーん、だっ! 妾はなんにも助けないもん。重いままで振ってくればいいんだから!」
「え、ちょっと!?」
ルティのこととなると、すぐにつむじを曲げるのはどうしてなんだ。
仕方ない、このまま馬車と男たちの所に割って入るか。
◇
『な、何なんですか!! わたし、ここに座っていただけなんですよ!?』
「座っていただけだぁ?」
「だったら、何で俺らの馬車が大破するってんだ!? おかしいだろうが!」
「第一、ドワーフ崩れがこの辺にまで出張って来てんじゃねえよ!」
『そ、そんなの知りませんよ!! わたし、何もしていません! ドワーフでも人間でもあるわたしですから、そんなこと言われたくありません!』
ルティの必死の声と訴えが聞こえて来る。
数人の男たちは身なりこそ貴族もしくは、他国の冒険者のようだがガラが悪い。
それよりもルティのことを侮辱しているのが、腹立たしい。
「悪ぃな、俺たちゃ人間様……それも、剣闘場で戦える剣士様なんだよ! ドワーフの子供にウロチョロされたら、気が散って仕方ねえ。馬車だってどうしてくれるんだ? あぁ?」
『だから~馬車は知りませんよ~! わたしだって剣闘場で戦える方を知っています!!』
「どこにいやがるんだよ、そんなのはよ?」
◇
『ルティシア! こっちへ!!』
『――! か、かしこまりました。ご主人様!』
さすがに外で愛称呼びは避けた。
それを察して、ルティも珍しくおれに敬意呼びをしてくれる。
数人の男たちの囲みから素早く離れ、ルティが俺の元に駆けて来た。
強さでいえば間違いなく、ルティの方が強そうだが……。
「アック様、申し訳ありません」
「ルティは悪くない。後ろに下がってていい」
「はい」
さて、重いままの宝剣でどこまでやれるか。
拳や魔法なら……ではなく、剣でやってみるしか無さそうだ。
とてつもなく重いままだけど、やるしかない。
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