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第二章:魔石の秘密

25.スキュラ・ミルシェと貴族騎士

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 人間の姿となったスキュラと貴族酒場に来た。
 想像どおり、威張り散らした貴族ばかりが集っている。

 スキュラの狙いは、金回りのいい貴族をつかまえることらしい。
 さらには、情報を持つ者。

 アグエスタに来たばかりで、しかも資金も無いおれは彼女を頼るしかない。
 酒場に入ると、やはり宝珠を身に着けたスキュラに注目が集まる。

 加えて大陸では珍しい青色の長い髪と、碧色の瞳、何故かグラマラスな体型。
 そんな彼女に貴族たちはすぐに近付いてきた。

 おれは入り口から入ってすぐの壁に寄りかかっている。
 お声がかかるか、何かが起きてから動く役目だ。

『ひゅ~う! どこから来られたかな、そこのご婦人』
「……水の都市からですわ」
『宝石も綺麗だが、あなたの美しさはここにいる自分……いや、全ての貴族が認めるだろう』
「ええ、ありがとう。そんなことより、どなたかあたくしの取引相手となるお方はいらっしゃらないかしら? もしおいでなら、あたくしの全てを差し上げてもよろしくてよ?」

 貴族の実際の取引相手はおれになる。
 ガチャで出す予定の宝石類を、高値で取引してもらえればいいだけだ。

 スキュラの全てを差し上げる発言は気になるが……。
 彼女の真の姿を知れば、貴族は逃げ出すかもしれない。

 誰もが『俺だ、俺だ』と声を張り上げる中、妙な男が口を開く。
 しかもおれの存在にも気付いているようだ。

「ご婦人、貴女の名は?」
「……ミルシェ。あなたこそ先に名乗るべきではなくて?」
「これは失礼した。私は、貴族ベッツ。アルビン・ベッツだ」
「アルビン様とお呼びすればよろしいのかしら?」
「それで構わない」

 宝石とスキュラが目当てでは無さそうだが、ベッツ……どこかで聞いた気が。
 
「それで、お取引を?」
「あぁ。だがその前に、壁際に立っている男とやり合ってみても?」
「……あの者はあたくしの護衛ですわ。気配に気づいておいででしたのね。やり合う……とは?」
「なに、護衛をする者の実力を確かめたいだけだ。よろしいかな?」

 スキュラからは目配せで許可を求めている。
 まさか戦いを希望されるとは意外だった。

 まともな貴族騎士だとすれば、こちらの企みに勘づいている可能性がある。
 軽く拳で小突いてみるか。

『こっちは問題ない。いつでもどうぞ、貴族さん』
 まともにやるつもりはない。力がどこまで上がったかすら、分かっていないからだ。

 気付けば、酒場にいた貴族連中は賭け事を始めていた。
 それほど強いのか。

『では行くぞ』
『……いつでも』

 どうやら拳だけで来てくれるらしく、男は突進して来る。
 そのまま初撃を交わす予定だった。

 しかし直前で、男はスリップをしたうえ全身に異変を感じている。
 おれに近づくことが出来ない。

「――ちぃっ! 小賢しい真似を」
「え?」
「お前は魔法を使う者か?」
「さっきから何を……? おれはただの護衛ですが?」

 ふとスキュラを見ると、手元が動いている。
 スリップやらむしばみに似た攻撃は、彼女の魔法によるものか。

「酒場では戦わない……そういうことか」
「いえ、そういうわけでもなく」
「まぁいい。失礼した。あのご婦人を守るということは、相当な手練れだと思っただけだ」
「はぁ、どうも」

 いったい何が目的なんだか。

「……私はベッツ家の貴族騎士。目立つご婦人ならば、何かを知っていると思って近づいたまで」
「何かとは……?」
「それはまた今度にするとしよう。失礼した、護衛殿」
「あ、どうも」

 そういうと貴族騎士の男は、スキュラの所に戻って何かの交渉を始めている。
 彼女に護衛なんていらないということは分かったので、目配せをしておれだけ外に出ることにした。

 とにかく取引相手さえ見つかってくれれば、おれは何でもいいや。
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