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第二章:魔石の秘密

20.裏切りと時間切れ

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「あれっ?」
「……どうしました?」
「いえ、一緒について来てた女性がいなくて……ルシナさん、見てませんか?」
「お話の途中で席を外されてましたが、何も聞いていないのです?」

 そういえば気にしなくていいですと言っていたような。
 何か気になるが……。

『駄目です、駄目です~!!』
 この声は、ルティか。

「ルティシアのことですから、何か合成に失敗したのではないでしょうか」
「え? そうなんですか?」
「はい。しょっちゅうですから。アックさんはまだあの子の言動や動きに、慣れていませんか?」
「す、少しは……」

 ルティは何事にも大げさに騒ぐ娘だと認識しているが。
 しかし気にはなる。

「フフッ……あの子のこと、心配してくれているのですね?」
「い、いや、まぁ……自分を救ってくれたものですから」
「あの子の部屋は奥です。温泉はすぐ隣に湧いていますから、入られてはいかがでしょうか」
「そ、そうですねぇ……ちょっと見て来ます。……んっ?」
「――! 揺れてますね」

 これは地震か。
 それほど大きくは無さそうだが。

 ルシナさんの言葉に甘えて、ルティがいるという部屋に向かうことにした。
 奥といってもだだっ広いわけでは無いので、すぐにルティの姿が見える。

 そこまでは良かったが、

『駄目ですよ!! それはアックさんの魔石なんですよ? そんな勝手に……あっ!?』
 誰かと話をしているのか。しかも結構真剣だ。

「どうした? ルティ」
「アックさん! 大変なんですよ!! 魔石……じゃなくて、バヴァルさんが~」
「ヴァルが? そこに?」
「そ、それが~いなくなっちゃいまして……」

 温泉が湧いているという部屋に入ると、そこには誰もいない。
 魔石のことを言っていたが、まさか?

「落ち着いて、ゆっくり話してくれるか?」
「は、はい~……あのですね……」
「うっ……また揺れが起きているのか」
「ロキュンテは火山の町ですから! 地震は慣れないとですよ~」
「そ、そうか」
「はい~」

 いや、確か火山だけは移動して来ていないはず。
 ということは、ガチャで移動させた町は時間が経てば戻る!?

「そ、それよりも大変なんですよ!!」
「ん?」
「バヴァルさんが湯の中に入って、そのまま消えちゃったんです~! 魔石を手にしながらなんですよ!! あの魔石って、アックさんが倒した人間たちの……ですよね!?」
「魔石を持って? 湯の中って……。どこかに通じていたりするのか」
「あ、わたしの家も他の家も、全て火口に通じてまして~いつでも灼熱の――」
「な、何っ!? 火口!?」
「わわわわっ!?」
「あっ――」

 湯の中を見ようと乗り出したが、ルティに勢いよくぶつかってしまった。
 その結果……。

「ふへぇぇ……アックさん、服を着たままではお部屋に戻れませんよ~」
「ご、ごめん……ん? 何も効果が無いな」

 おれはルティの温泉水で回復し、力も付いた。
 しかし温泉に入っても何も変化は起きない。

「それはだって、そうですよ。わたしが温泉水を使って強めてるだけなんですから!」
「それって、錬金の?」
「色々混ぜてまして~えへへ」

 屈託のない笑顔に何も言えなくなる。
 それよりも、火口に通じているなら着たままで行くしかなさそうだ。

「ルティ、今から泳いで火口に向かう。ルシナさんに話をして来た方が」
「ええっ!? 火口にですか? すごく熱くなると思いますよ!?」
「ここからの方が近いはず」
「あう~あうぅ……母さまには何も言わなくても大丈夫ですけど~い、行きましょう」

 いつものことなのか、ルティ自身もあまり気にしてないようだ。
 地震といい、火口に通じている温泉といい……きな臭いな。

 ◇

「それはイスティさまの魔石なの!! 返して!!」
「いいえ、これはわたくしが預かったもの。もうすぐ時間になります。邪魔をせず、ここでご主人様をお待ちなさい」
「う~!」

 湯の中のトンネルを潜り抜け、外に出た。
 そこでは目の前に火山がそびえ立っている。

 やはりそうだ。町の移動には時間切れというものがあるようだ。
 恐らくおれたちは、ロキュンテの町ごと元の場所に戻される可能性がある。

「ぷは~……アックさん、早いですよ~あれれ? あそこにいるのは、バヴァルさんとフィーサじゃないですか?」

 火山を見上げて気付かなかったが、確かにフィーサとバヴァルの姿が見える。
 バヴァルに話を聞かなければ。

『ヴァル! どういうことなのか、説明をしてくれないか?』

「あぁ、時間切れですね。わたくしも残り少ない余生を使って、責任を果たさなければ……」
「あ、こらっ、どこへ行く~!! イスティさまの魔石!!」

 フィーサが止めようとしている。
 だが子供姿の彼女では、制止すらままならない。

『逃がしませんよ~!』
 そう思っていたら、ルティがバヴァルを捕まえていた。

 身動きの取れないバヴァルの前に、ようやく近づくことが出来た。

「その魔石をどうするつもりなんだ?」
「アック様。これに封じられた3人のうちの1人……聖女は、わたくしの教え子です。わたくしに責任があると考え、魔石を預かったことで機会を頂ければと思います」
「聖女エドラか。あなたが魔石をどうするかは自由だが、これは裏切りと言われてもおかしくないぞ。どうするつもりなんだ?」
「……あなた様のお力と、ルティシアさん。宝剣と水棲の彼女がいるだけで、何も問題ないでしょう。もう時間がありません。わたくしはここから消え、どうにかしてみます」

 綺麗な顔をしたバヴァルは、落ち着いた表情で淡々と話している。
 ルティの力で捕まっているのに、逃げられるとでも思っているのか。

『あ、あれぇ!? ア、アックさんん……! お、お婆さんがぁぁぁ!』
 一瞬白いローブを脱いで、ルティの力を抜かせたようだ。

 すぐに着直したヴァルは、隙をついてそのまま何処かへと消えてしまった。
 知恵者の技か。

 時戻しのローブと魔石。
 バヴァルも魔石に魅了されたか、あるいは――
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