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第一章:生まれつきのスキル
15.Sランクパーティー、消滅する。
しおりを挟む自分が魔獣変化スキルを使っていたらどうなっていたのか。
そう考えてしまうが、それより今は、限定召喚をする。
レアガチャで出した書をさらに魔石で。
それが条件なのかと疑いたくなるが、とにかく魔石を包んだままで地面に抛った。
「……? うん?」
グルートオークが気付いていない状態でガチャをしてみたが、特に何も起きない。
バヴァルの方を見ても、首を傾げたままだ。
『ギョアアォオオゴオオッ……!! アックウゥゥ……!』
おれの名前を叫んだ? まさか理性を取り戻したか。
図体を大きくしたグルートオークは、見た目も動きもオークのように無駄な動きをしていた。
だが、おれの名前を叫び出してからは、目つきが違う。
おれに気付いたようだ。
限定召喚ガチャが何も起こらないままで気付かれるとは。
『ちっぽけな雑魚めぇぇぇ……!! ぐぅぅぉぉおおおお』
これはまずい……。
隠れるところはいつぞやのワイバーンよりはあるが、横穴のような場所は探していられない。
こうなれば召喚に頼らずに、魔法を撃つか。
フィーサはルティたちのところにいて剣は振れない。
となると、覚えたての強力魔法で倒すか?
『でぇいやああああ!!』
『――ゴガァッ!?』
やけに甲高い声が響いてきたと思ったら、ルティだった。
予想どおり、拳一つでグルートオークを殴りつけている。
しかし、
『むむぅぅ? アックさん、感触は確かなんですけど、倒れてくれません~!』
ルティの殴り攻撃は、グルートオークの動きを止めるくらい激しかった。
それなのに倒れる気配は無い。
勇者だった時の強さと防御が付与されているとすれば、通常攻撃だけでは不十分か。
『うるさい雑魚が! 邪魔をするなっ!!』
『わわっ――!』
言葉はすっかり人間に戻っている。
グルートのデカい手で、ルティは払いのけられて壁に衝突してしまった。
それでも彼女らしく、
『びっくりしました~! わたしは何ともありませんので、アックさんお願いします~』
どれだけ頑丈なんだあの娘。
お願いされてもな。
バヴァルと同時に魔法攻撃でも放つか?
そう思っていたが、おれから離れてルティたちの辺りで防御魔法をかけている。
その辺は手厳しい師匠のようだ。
『ガーハハハハ!! 踏みつぶしてやる! アック、死ねぇぇぇぇ……!!』
力がついたおかげで、グルートの踏み付けの足を押さえつけることは出来ている。
長く持つか、それだけが心配だ。
そう思っていたら――
『アック、貴様まさか……』
『……ん?』
『くそぉっ!! 知らない間に何か呼んでいやがったな!?』
グルートのデカい足を押さえているのでよく見えない。
しかし薄暗い壁から見える影を見れば、その姿はドラゴンのようにも見える。
それも3体ほどいるようだ。
まさか、限定召喚の奴なのか。
『汝が盗み、滅されの存在か』
『盗んだだぁ? 使えもしないゴミスキルが盗んだうちに入るのか、そこの雑魚に聞いてみたらどうだ、化け物め』
グルートのデカい足が離れたところで、3体の竜が顔をのぞかせた。
おれの命令でも待っているのか、ジッと待っているようだ。
その瞬間、手の平に浮かんだのは
【ファフニール】【ジルニトラ】【バクナウ】
という竜の名だった。
おれ自身でグルートたちを……そう思っていたら、竜に宿ったような感覚を覚えた。
そして、
『勇者グルート、聖女エドラ、賢者テミド……お前たちの存在を、灰と化す……』
『ハハハッ、何を言うかと思えば、たかが竜数匹程度の力を借りた荷物持ちが、僕を消す? すでに瀕死で役立たずのエドラとテミドなら簡単だろうが……無駄口の前に、死ねっっ!!』
自分でも不思議な感じだった。
3体の竜のどれでもないが、確かに竜としてグルートが見えている。
おれは襲い掛かって来るグルートに向けて、口を大きく開く。
そして喉の奥……いや、体の奥底から燃え盛る炎を吐き出した。
『――や、やめっっ! 嫌だぁぁぁぁっっっ!! うあ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ……』
こうなるとたとえ図体を大きくしたオークでも、爆炎をまともに受けた以上どうにもならない。
みるみるうちに、グルートオークはその姿を保てず、そのまま炎に巻かれた。
そして瀕死となっていたはずのエドラ、テミドは隙を見て逃げ出そうとしていたが……、
『ひ、ひぃっっ!? わ、わたくしを助けて頂ければこの身はあなた様の――』
『か、勘弁してくださいぃぃ……!! お、俺はグルートに言われただけで、俺は何も――』
何やら命乞いをしながらも、どうにか助かろうとしているようだ。
こいつらをグルートの傍に行かせてやることにする。
「「やめて、殺さないでくださ――あっあぁぁぁぁ」」
2体の竜の突風により、エドラとテミドもグルート同様に、炎の中心に吹き飛んだ。
◇
気付くと3体の竜はすでになく、おれは未だ消えることのない炎の柱の前で、立っていた。
ルティ、バヴァルたちがおれの元に駆け寄って来る。
「盗みへの罰を科した……そういうことでしょうね」
「あの竜たちの?」
「ええ。そしてその答えは、もうすぐアックさまの手元に届きます」
「え、答え?」
しばらく炎を眺めていたが、ようやく全てを焼き尽くしたようだ。
灰と化せば、嫌な姿も見ることは無いだろう。
そう思っていたが、
「アック様、彼らは全て1枚の魔石と化しました。どうされますか?」
「……魔石!?」
Sランクパーティーである彼らは消滅した。
しかし意外な形となって、俺の元に届く。
魔石となれば使い道はありそうだが……どうするべきか。
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