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第一章:生まれつきのスキル

14.邪悪な獣

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『あっああああぁぁぁ……!! グルート様っっ!』
『な、何だありゃあ……? あれがグルートだと!?』

 動きを封じられているエドラとテミドは、勇者グルートの変化に驚き困惑している。
 その時点で彼らの殺気はおれから消え、グルートに向かって駆け寄っていく。

 バヴァルとルティたちも、すぐにおれの所に呼び戻した。
 そしていま俺の目の前にいるのは、すでに人間の姿を成さない図体の大きいオーク。

 通常のオークはせいぜい人間よりもやや大きいとされるが、目の前にいるグルートオークは、ダンジョンの天井にぶつかるほどの大きさにまでなった。

「アック様、この者は魔獣変化スキルを使ったのですね?」
「そのはずだけど……」
「恐らく、強引に奪ったことでスキルの悪い部分を吸い取ったのでは?」
「悪い部分?」
「ええ、そうです。アック様のガチャスキルには、負の流れがあったのです。覚えがありませんか?」
「いいアイテムが出なかった……それのこと?」
「その流れのまま、本来スキルを持たない者が、強引にガチャを使用した。その反動が邪悪な力を引き寄せたのです」

 レア確定になってからはそれが無かった。
 思い出せば、勇者たちの仲間になる前からいいものが出た試しはない。

 その流れでガチャをしたとすれば、納得が出来る。

『お、おいっ! グルート!! 目ぇ覚ませ! 俺だ、テミドだ!!』
『グルート様はおっしゃって下さいましたわ! わたくしたちの光となって下さると! どうか、お鎮まりになって、今一度わたくしのお傍に……!』

 エドラとテミドは必死に、説得の声をグルートオークに呼び掛けている。
 しかし、図体が大きくなり理性も失われたことで、届いていない。

 それどころか、彼らを邪魔と見たのか暴れだした。

『ガアアアアア……!!』

「キャアァァァッ……! や、やめっ……」
「た、助けてくれっっ!! お、俺はまだ、こんな半端なところで――」

 見るもみじめな姿とはこのことか。
 おれに散々偉ぶっていた賢者テミドが、あそこまで弱い部分を見せるなんて。

 今までどれだけ痛い目に遭ったことがないのか、あるいは逃げて来たのか。
 そしてテミドはあろうことか、おれの元に走って来て足にしがみついた。

「何の真似を?」
「ひぃっ、ひぃぃ……お願いします、俺をあの化け物からお救い下さいっっ! このとおり、何でもしますっ、しますから!」
「……面倒みきれないな。賢者というのが本物なら、自分の防御魔法で何とかするべきだと思うが?」

 自分より強い奴、いや勇者グルートに対してどう思っていたのかは分からない。

 荷物持ちの人間に取って来た行動の報い。
 それが今テミドに返って来たのだとしたら、もはや擁護も保護もする必要はない。

「くそぉぉ! なめやがって!! 物理防御魔法、プ――ぐげっ!?」

 オークとなったグルートは、とんでもない怪力で見境なく攻撃をしている。
 テミドが防御系魔法をかけようとしたが、すぐに吹き飛ばして壁に激突させていた。

 エドラについてもすでに瀕死に近い。
 Sランクパーティーは、壊滅、破滅に向かっているようだ。

 さて、もはや言葉も通じそうにないが、そろそろ終わらせることにする。
 グルートの死に際には、一瞬でも人間としての謝罪が聞けるといいのだが。

「……ヴァル! 限定召喚を使う。どうすれば呼べる?」
「限定召喚の書で魔石を包み、手の平に乗せ、ガチャを!」
「分かった」
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