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第一章:生まれつきのスキル

7.神殿と予期せぬ遭遇

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 スキュラに案内されるがまま、海底の古代種神殿にたどり着く。
 神殿というからには、厳かな雰囲気とうかつに近づけない感じの像が出迎えるものだとばかり思っていた。

 だが着いてみると拍子抜けで、古代人が残した居住跡といった光景が広がり、空間こそ広いが海からの水が漏れ出しているなど、忘れ去られた場所といっていい。

 ラクルのギルド依頼になっている時点で、一度は誰かが来ていることを考えれば、目新しさは無いと言える。

「スキュラ。ここに倉庫……いや、宝物庫か何かあるかな?」
「それでしたら、4本の柱が立っている辺りの通路から、奥に突き当たった所に部屋がありますわ!」
「そうか、ありがとう」

 広さ的には大したことは無いし、迷うことも無い。
 それなら一人で行って、お目当ての物を探して荷物袋に入れて来るか。

 こういう時、皮肉だが荷物持ちのスキルが役に立つ。
 
 荷物持ちとして長く動いたわけでは無かったが、おれがいなければ勇者たちは、また違う荷物持ちを連れ歩いているのだろうか。

 あまり思い出したくも無いが、必ずあいつらに思い知らせてやりたい。

「アックさん、どこへ行くんですか? わたしも行きますよ~」
「あぁ、ギルド依頼の物資の調達にね」
「それならなおさらわたしも一緒に!」

 どうするか迷う。

 実のところ同行者が同じ依頼を受けていれば、1人が確保するだけで達成扱いになる。
 だがルティもおれも初めてだし、一緒に行ってみることにするか。

 おれの傍を離れないと言っているスキュラも黙ってついて来るだろうし、みんなで行くしか無さそうだ。

 そうして彼女たちと宝物庫に入った時だ。
 ラクルから程近い場所にあって、誰かが同じ依頼を受けていないとは限らないと思っていたが……。

『お、お前は……! 荷物持ちのアックだとぉ!? ワイバーンにやられてくたばっちまったんじゃなかったってのか?』

 ガサガサと音を立てて、書物か何かを散らかしていた男の声と姿は、忘れるはずも無いSランクパーティー3人の内の、賢者テミドだ。

「あの、アックさん。あの方はどなたですか?」
「アックさまの他にも何かが入っていたのは知っておりましたけれど、つまらなそうな人間に見えましたので放っておいたのですわ」

 彼女たちが一緒に来て良かったと考えるべきか、それとも1人で来た方が、いらないことに巻き込まれずに済んだと思うべきか。

 見た感じとスキュラの言い方では、ここに来ているのは賢者だけだ。
 そうなるとギルド依頼を受けて来たのか。それとも……。

『おれが生きていて、何かテミドに不都合なことでも?』
『あぁ? おいおい、テミドさまだろぉ? 何かよく分からねえ魔物と、荷物持ちの女を引き連れているようだが、お前ごときが冒険者気取りをしてんじゃねえぞ!!』

 賢者テミドの強さは、ワイバーンの時に見た魔法だけだ。
 態度の悪さと罵声だけを聞く限りは、確かに自信を持って威圧しているらしい。

 ここで言い争いをしても、魔法あるいは何らかの攻撃を仕掛けられるのは目に見えている。
 勇者と聖女が来ていないことを考えれば、この男だけでも痛めつけることは出来そうだ。

 そんなことを思っていると、傍にいる彼女たちから、やる気のある音が聞こえて来る。

「アックさん、今度こそ拳を使っていいんですよね? 何だか唸らせたくて仕方がありません!」
「……あんな野蛮な人間ふぜいは、この神殿に似合いませんわ。貝殻石に混ぜて洞門の壁といたしません?」

 ルティはすでに準備万端のようで、今すぐにでもテミドを沈めそうな微笑みだ。

 鞘に収まって眠っているはずのフィーサは、剣を抜いて欲しくて小刻みに揺らしているし、スキュラにいたっては、何かの魔法を手の平に作り出す動きをアピールをしている。

 テミドの強さの程は分からないが、今はまだおれ一人だけでは優位に運べない。
 彼女たちは強く、すぐにでも吹き飛ばしてくれそうだが、どうせなら勇者たち3人まとめて倒したい思いがある。

 ここは相手を泳がして、おれが生きていることを知らせよう。
 その手土産に、アレでも当ててみるか。

「ルティ。さっきの精霊結晶の欠片をおれにくれないか?」
「どうぞ!」
「すぐに使うことになって、ごめんな」
「いえいえ~」

 属性結晶は属性を封じ込めていたが、精霊結晶の欠片はすでに何らかの精霊が込められている。
 そうなるとこれをテミドに投げつけてみれば、何の精霊なのかすぐに分かりそうだ。

『ちっ……手間を取らせやがって。おい、荷物持ち! 聞いてんのか?』
『悪いがもう荷物持ちじゃない。テミドがここで何をしているかも興味は無い。ただ、おれたちの邪魔をしてもらいたくない』
『邪魔はお前の方だろうが! 面倒くせえな、レアな書物なんざ知ったことか!! 死ね、荷物持ち!』

 これほど余裕のない賢者も珍しい。
 テミドとおれたちは、一定の距離離れている。

 魔法を使う者なら関係なく攻撃を仕掛けられることを踏んで、先制攻撃を仕掛けて来たようだ。
 だが、

『――これをやるよ、テミド』
『な……あっ!? 闇精霊だと!? この野郎……どこでこんなもん――』

 精霊結晶の欠片を投げつけると、テミドに当たった途端、中から出て来た闇精霊が黒い霧のようなものを展開。
 攻撃が出来ないと思っていたようで、テミドは視界を失っているようだ。

『くそがっ……!! 見えねえぞ、ふざけた真似をしやがって!』

 こうなると何も出来ないので、テミドは手探り状態のまま宝物庫から出て行く。
 壁づたいも出来ない状態で、バランスを崩しながらいなくなったようだ。

「さて、と……物を回収してラクルに戻ろうか、ルティ」
「――は、はいっ!」
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