5 / 577
第一章:生まれつきのスキル
5.海底洞門と水棲の魔物
しおりを挟むルティは指をくわえながら少女に対し、腹を立てている。
しかしまさか、ミスリルの剣が少女に変わるなんて想像出来なかった。
てっきり愉快なルティの冗談によるものだとばかり思っていたのに、これは素直に驚いた。
「マ、マスターって……おれのこと?」
「わらわを綺麗って言ってくれたの! そんなこと、今まで生きて来て初めて言われたんだよ? 今度はどんな奴が~って思っていたけど、イスティさまこそ、わらわのマスターなの!!」
「そうか、ご主人様か――って! その前に、君は女の子だよね?」
女の子の姿をしているが、自分のことを”わらわ”とか言っているし、相当な年代物の宝剣なのではないだろうか。
唯一の救いは、きちんと衣服を身に付けていることだ。
複数の毛糸で織られた腰衣と薄めのシャツを着ているだけでも、気恥ずかしさは薄れる。
「うん! 九百歳なの! 基本はミスリルだけど、マスターが望むままの姿に変われるから、いつでも教えてね!」
「九百か、なるほど――」
レベルがそのまま彼女の生きて来た証みたいなものか。
だからといってルティのレベルとは、勝手がまるで違うだろうけど。
しかしこれで武器は何とかなった。
これならすぐにでもクエストに向かえそうだ。
「ルティ、そろそろ行くよ?」
「ぬぅぅぅ……! これはうかうかしていられない事態ですよ! そうと決まればやることはただ一つ!」
「ん?」
ルティはフィーサの前に仁王立ちをして、強い口調で言い放つ。
「どれだけ強いかなんて、それは結局! 拳なんですっっ! 剣の切れ味よりも、力こそ全て!! そういうわけなのでアックさんに使われるつもりがあるのなら、役に立つことを見せてもらいますからね!」
これはもしや、やきもち的な何かだろうか。
確かにルティが言うように、フィーサの剣としての強さは今の時点では分からない。
まして持ち主がおれに決まったことだ。
切れ味が鋭くても、魔物とかにどれだけ通用するものなのか。
「ふっふん。赤髪の小娘なんかに負けないよ~だ! べ~!」
「むっか~!! そうと決まれば、さっさと行きましょう! アックさん!」
もはやお揃いの剣だとかそういうことでは無くなったようで、ルティはすでに用意していた食事を袋に入れて、ズンズンと歩き出した。
町を出てすぐの岩場から洞門への道が見えていて、冒険者には恵まれた環境なのだと実感する。
受けた依頼は、あくまで侵食されて出来た洞窟の調査と資源の回収だ。
そういう意味で、深く入れるダンジョンでは無いといえる。
これから海底近くまで進むとなれば、おれ自身の衣服も防水鎧か何かで固めたいところだ。
だが、そこまで危険な目には遭わないはずなので気にしないことにした。
歩き進んだ崖の一部に断層が出来ている。
すぐ目の前では波しぶきが迫って来て、油断をしなくてもびしょ濡れになりそうだ。
「ここから内部に降りて行くから、足元に気を付けて」
「水に入るのは好きですけど、濡れるのは許して欲しいです~! あぁぅぅ……」
「マスター……わらわ、濡れたくない。だからしばらく鞘に入って大人しくするね」
錆びることは無さそうだが、濡れるのは嫌なのかフィーサは剣に戻り、鞘の中に収まっている。
自分で剣を振る機会があれば試せそうだが、海となると力任せのルティに託す方が無難か。
しばらくごつごつした岩だらけの洞門を進むと、さらにそこから地下への道が続いた。
今のところ襲って来る魔物の姿も無く、武器が無くても受けられる依頼のようにも感じる。
それにしても、
「結構体が冷えて来るものだな」
「それは大変ですっ! そんなわけで、アックさん。これをお飲みください」
「うん?」
「体が温まる回復水です。温泉水は全て切らしちゃいましたので、さっき町で作っておきました! さぁ、グイッと!」
「あぁ、ありがとう」
寒いというだけでどこも痛くは無いが、飲み物として作っていたのはさすがだ。
ルティに言われるがまま、全て飲み干した。
「う――おぉっ?」と声を漏らしたが、何だかさらに力がみなぎってきた気がする。
体が温まったのは言うまでも無いが、内側から何かが溢れて来ているような感じだ。
腕力どころか、今ならすぐ目の前の貝殻石を破壊出来そう。
試しにやってみるか。
「あっ、言い忘れたんですけど、アックさんの力が上がりますのでくれぐれもその辺を殴ったりは――」
「――えっ? あっ……」
「駄目です、駄目です~!!」
彼女に言われるも、すでにおれの拳が硬そうな貝殻石にヒットしていた。
しかも運が悪いことに、洞門のあちこちに見られる壁の一部だったりする。
「あっ――!」
何か鈍い音が響く。
感触は確かなもので、相当なダメージを与えたような感じだ。
硬い壁を攻撃したというよりは、石に見せかけた軟体生物からのはね返しに似ている。
「ひぃぃえええええ!? く、崩れちゃいますよぉぉぉ!!」
「いや……多分、ただの貝殻石じゃない」
「ひぃえっ!?」
ルティが心配するよりも先に、貝殻石に見えた水棲の魔物が正体を現す。
「何すんのよっ!! せっかく寝ていたのに、無理やり起こすなんてあなた、誰!」
上半身は獣の耳に似た触角で、下半身はタコやイカの足、加えて狼に似た獣が腰辺りに数匹見えている。強気の口調で姿を現したのは、水棲の魔物のようだ。
ただの貝殻石ではないと思っていたが、こんな所で魔物に遭遇するとは。
「アックさんっ、わたしが倒して差し上げますっっ!」
「いや、彼女は敵じゃなくて、おれが叩き起こしてしまっただけなんじゃ――」
「こんなまだ中途半端な場所で眠っていたなんておかしいですよ! 待ち伏せで人間を襲おうとしていたに決まってます!」
そうとも言い切れないが、貝殻石の姿でここにいたのも不思議ではある。
ルティの言うとおり、襲おうとしていたのかあるいは、害も無い魔物なのか。
「何よ? やるつもり? 言っとくけど、この先の海底遺跡に行くつもりならキラキラ光るものをあたしに納めてから進みなさいよね! それが出来ないなら、受けた痛みを倍にして返すんだから!!」
0
お気に入りに追加
564
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。
克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる