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大使の歓迎晩餐会

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晩餐会当日は急遽ムンババ様が用意してくれたドレスで大使をエスコートする役にアイリスが選ばれた。


マリーが気合を入れて私の髪をセットしている。


「大使様はご自分の国のドレスを急ぎ準備して下さったのですね。とても上質でシックでお嬢様にお似合いですわ」

ムンババ大使が用意してくれたドレスは、美しい濃紺の上質な生地に銀の刺繍が施されたものだった。

レースなどの派手な装飾は少なく、カーレン国で産出されるオパールが胸元と袖口に縫い留められていた。

故障した馬車を思い出す。漆黒の外観は、ゴテゴテした無駄な装飾を省いたシンプルな作りだった。
カーレン国という国はドレスもしかり、見た目に惑わされず性能を重視する国なのだと思った。

「ありがとう。久しぶりにこんなドレスを着るわ」

気が引き締まった。コルセットで締め上げているが、関節の部分はゆとりを持たせた、動きを重視したドレスの作りだった。鏡に映る自分の姿を確認する。昔を思い出し背筋が伸びる。



今、スノウは最後の仕事をしに王宮へ向かっているだろう。




そう、自ら断罪されるために。









スノウは先日、私たちの茶会という会議に参加した。
というより王太子殿下に呼ばれていたようだった。


スノウは外交執務室で働いている執務官たちに対して、必要なテストを受けさせていた。

そもそも王宮で事務官として働くためには厳しい試験を突破しなければならない。中には爵位を笠に着てあまり重要ではないポストに仕事をもらえる者もいたが、そういう人は人望がなく出世しない者が多かった。

スノウが皆に受けさせたテストは、古くからいる外交官が職務に見合った知識を有しているかどうかを測るためのものだった。何十年も前に当時の外交官の試験を突破したからと言ってその知識が今も通用するわけではない。
新しい外交に関しての知識が重要だ。

スノウはその成績により、年齢に関係なく国際情勢などに意欲的に取り組める職員を振り分けようとしていたのだ。


その結果と、今後外交室で働けるだけの知識と意欲のある者を抜粋して王太子殿下へまとめた資料を渡したのだった。
それにより、外交職に対しての自分の仕事量も抑えられ、公爵家に帰る時間も増やせると思っていた。
その為に必死に仕事をしていたつもりだった。

けれど時はすでに遅かった。


結果は結果として受け止めなければならない。スノウは自身の責任を最後まで全うするつもりだった。








晩餐会の会場は王宮でも一番広い宝玉の間で行われる。


煌びやかに飾り付けられた宮殿の豪華な広間には様々な酒が用意され、高級な食材で作られた贅沢な料理が並べられた。

キャサリンはこの晩餐会に意欲をみなぎらせていた。
自らの汚点を払拭させるため、このパーティーの成功に全てをかけていた。

公爵家の事件発覚後、彼女は自分の出自を知らなかった物とし、私は関係ないと外交執務官たちに泣きついたようだ。

今回の晩餐会を取り仕切る重要な仕事を任されていたことから、処罰は先延ばしにされている状態だった。

幼いころ養子に出されたので自分の親が公爵家の執事だったとは聞かされていないと言い張った。確かに、幼過ぎて彼女に選択の余地はなかっただろう。
伯爵家は公爵家の裏金を多額に受け取っていた事実を表ざたにされ失爵させられることが決定していた。

キャサリンに残されている物はこの宮殿での地位のみだ。意地でもしがみつくだろう。


古株の外交官たちは今回の晩餐会の仕事は、スノウがいなかったから自分たちが取り仕切ったと成果を横取りするつもりらしい。キャサリンの事は利用して最後は切り捨てるのかもしれない。

今日の晩餐会は、高位貴族たちは勿論、王太子や国王も参加する。

贅を尽くした絢爛豪華なその催しにはかなりの予算が割かれただろう。



そして今、ムンババ大使、カーレン国を歓迎する晩餐会の幕が上がった。

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