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マリーは賭ける    マリーside

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マリーは公爵家から追い出されて夜道を急いでいた。
こんな時間に女が一人で歩いていたら、暴漢に襲われるか物取りに会う危険がある。
けれどそんな事には構っていられない。

ほとんどの荷物を公爵家へ置いたまま、わずかな旅行用の鞄一つだけを持ち辻馬車乗り場へ向かう。

頭の中はアイリスお嬢様の事でいっぱいだった。
自分がいなくなった後、敵ばかりしかいない公爵家にお嬢様一人だけ残している。急がなければならない。
こんなことになるならいっそ何も持たず一緒に走って逃げだせばよかった。あの時自分が囮になって、隙を見てお嬢様だけでも屋敷の外へ逃がせばよかった。後悔しても遅いと悔しさのあまり唇をかむ。

旦那様に助けてもらうことはできない。そもそもあの人が諸悪の根源だ。
こんな結婚、最初から断っておけば良かったんだ。
王太子様や国王が薦めてくれた公爵様だという事で少しは旦那様に期待した。だって王室はアイリス様に不義理を働いたんだから悪いようにはしないだろうと思っていたから。


辻馬車乗り場に到着した。なかば御者を脅す勢いで普通の人の倍以上の代金を支払い急いでくれるように頼んだ。



行く場所は決まっている。



きっとお嬢様はジョンのいるアパルトマンに私が避難すると思っているだろう。

けれど違う。

私は一つの可能性に賭ける。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



数刻前後にしたばかりの屋敷の前にマリーは立っていた。

もう後戻りはできない。


門衛に声をかける。



「先ほどこちらの邸に大使様をお送りした侍女のマリーでございます。フォスター公爵家、アイリス夫人から大切な言伝を預かって参りました。急ぎの用でございます。どうかムンババ様にお目通り願えませんでしょうか」

断られても引き下がるつもりはない。こんな夜遅くに無礼なのも分かっている。けど、これしかないと考えた。
アイリス様を救い出す有効な手立てはきっとこの方法だ。

仕事が一番だというあの男の弱みに付け込む。


門番にしてはかなり頑丈そうな男たちだ。彼らは主人に取り次ぐか相談しているようだった。

「夜分遅くに大変ご迷惑だと分かっています。けれど、私の主人に礼をすると大使はおっしゃって下さいました。ムンババ様にアイリス様の家の者が来たとお伝え願えませんか?きっと取り次がなければ貴方が後悔する事になります」

必死なせいで脅してるような言葉を使ってしまう。
彼は少しムッとしたようだ。


「明日の朝また出直して来て下さるよう申し上げます」



「私は今、今じゃないと意味がないんです。先程もいましたよね?あなた、そこの門衛の方。こちらの御主人がアイリス様をお茶に誘われたのを聞いていらしたでしょう?」

さっきと同じ門衛だったのを覚えている。



……きっと、きっと大丈夫。


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