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45 if 最終話

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ソフィアはバーナードと共に領地の森の中の林道を散歩していた。
ロイヤルな乳母車にはレオが乗っている。

道のデコボコを感じながらガタゴト揺れる乳母車が気持ちよかったのか、レオはいつのまにか寝てしまっていた。

穢れを知らない純粋で無垢な存在。温かくて柔らかい私たちの天使。そしてこの子は無敵だ。

マシュマロのようなぷくぷくした手が、ブランケットをぐしゃっと掴んで離さない。

「綺麗な空気と澄んだ水に囲まれている。都会より良い環境だと思う」

バーナードは森の木々や花、流れる小川の水を見ながら優しく話しかけてくれた。

ソフィアはそうですねと相槌をうつ。


誰にもボルナットにいると言っていなかったので、まさかバーナードが自分を見つけるとは思っていなかった。


「君が外国にいて、自分で仕事をしているなんて思ってもみなかった。まさに盲点を突かれた感じだ」

邸から出て行った後、彼は必死にソフィアを捜していたようだった。

私が急に出て行ったことを、バーナードは怒っているだろうと思っていたが、彼はとても穏やかに話をした。

「何も言わずに、逃げ出してしまって、ごめんなさい」

ソフィアは俯いた。



林道の先に白いサギが羽を休めている。
風に揺れる木々の隙間から、初夏らしく澄みわたる空が見える。

どこからか飛んできた天道虫が、レオのブランケットの隙間に入っていった。
裏側からまた表に出てきたかと思うと、ひょいと飛んでいった。

この場所で聞こえるのは、葉の揺れる音、風の音。

誰もいない場所でバーナードの声はソフィアの耳に低く 心地よくとどく。

「ソフィアが何を思っているのか、あの時、君が何を考えていたのか、あらゆる可能性を自分なりに考えた」

「……はい」

バーナードは立ち止まって横を向くと、少しかがんでソフィアをそっと抱きしめた。

「気づけず、すまなかった……」

ソフィアの目から涙が落ちる。




「私と、もう一度結婚してくれないか」

止めようと思っても次から次へと涙が溢れ出してしまった。

バーナードはずっとソフィアの背中を撫でながら。


「私の子供を産んでくれてありがとう」

そう呟いた。



初夏の暖かな日射しを受けて、レオは眩しそうに眉間にしわを寄せる。
遠くに浮かぶ白い雲が風に乗ってゆらゆらと微笑んでいた。






━━━━完━━━━
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感想 788

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みんなの感想(788件)

くまひげ
2024.07.01 くまひげ

本編もif編もどちらも面白かったです。

私はどちらかと言うとあまり元サヤ好きでは無く、最初から元サヤと書かれている物語の場合読み始めるのに躊躇するタイプですが、どちらの終わり方も良かったと思える稀有な作品だと思います。

ただ気になるのはムンババ様はいつになったら幸せになれるのかですね笑

長いお話の場合途中でダレてしまい積ん読になってしまうことが多々ありますが、一気に読ませて頂きました!

解除
ひらめすき
2024.06.05 ひらめすき

「旦那様、そんなに~」を愛でた皆さま

if編も含めて完結してそろそろ二週間。
これを読まれている方は新しく読み始めた方か、この作品が好きで
何度も読み返されている方でしょうか。

連載中は「元サヤ」論議で混迷した感想蘭でした。
恐らく多くの皆さまは気づいていらっしゃったと思います。
この作品はそういう問題とは関係なく、魅力的な作品であったことを。

以前にも書きましたが、60話の微笑ましい場面の描写。
おてんば先生の作品の一番の魅力はこの映像を想起させる力です。

場面場面で確かな言葉を選んでいらっしゃる。
簡潔に的確な言葉で物語が進められていくので、理解しやすく読みやすい。
作品の世界観を壊すような流行りの文体を多用することもない「わけで」。
(これ、その先の処理をこちらに丸投げされてるような気がするんですよ)
そして一場景だけでなく、他の事柄に呼応するような描写のされ方。
例えば、65話で「バーナードはソフィアをシーツに包み抱き上げた」。
61話で出会った「母親は巻きつけるように布で赤ん坊を固定していた」。
きっとどちらも大切に用心深く。伏線ではないだろうけど、センスを感じます。
そして例えば60話の最後の一文。
「乳母車が荷馬車に乗せられゆっくりとバーナードの邸へと向かっていた」
ソフィアがゆっくりとバーナードの元へ戻ることを暗示しています。私の解釈ですが。
これから読まれる方、読み返される方、こんな点も意識しておてんば先生の選ばれた
言葉をじっくり味わってみてください。最終話なんてシジュウカラやオオルリの鳴く
声まで聞こえてきそうですよ。

アルファポリスに執筆されていて、私の好みに合う方が何名かいらっしゃいます。
機知に富んだ文章を書く方。
ユーモアたっぷりで文章自体が楽しい方。
洪水のように言葉を並び立てて、新しい学びを与えてくれる方。
まるで詩歌のように美しい、うっとりする文章を綴る方。
読者を信じて簡潔に端正な文章を綴る方。

おてんば先生は断然、端正な文章の書き手ですね。お人柄がそうなのかも知れません。

この数週間、心をかき乱された日々でした。辛くもあり楽しくもありました。
読書の楽しみを存分に堪能させていただきました。ありがとうございます。

P.S.
実は辛くてif編ばかり読み返す私です。
おてんば先生、辛い話も幸せな話も上手すぎます。

解除
ひらめすき
2024.06.05 ひらめすき

おてんば先生

作品完結おめでとうございます。
そしてお疲れさまでした。

「旦那様、そんなに~」は公開当初から大変注目を浴びていたと記憶しています。
その証として書き込まれるコメントの多いこと、熱いこと。

物語はよく目にするようなファンタジーもの(で合っていますか?)。
夫婦がいて夫を狙う性悪女がいて家庭がかき乱される。
ありがちな設定です。多分全編にわたってイラっとさせられ、最後は無事に溜飲を下げて
ジ・エンドだろう。妻は幸せになり、夫は不運に見舞われる。スッキリ。
読者の大半はそう予想していたのではないでしょうか。

それが回を追うごとに予想の範疇を超えた展開をみていく。
不可解だったのが「自分では何もしない」悪役マリリン。
ただ増長していくだけで、大したセリフもなしに主人公を追い込んでいきました。
おてんば先生、すごい怪物を生みだしましたね。この何もしない不気味さと、為す
術のなさに私たち読者は翻弄されたのです。


多くの方が感想蘭に思いの丈をぶつけました。
私もストーリーにハラハラし、妻に鈍感な夫バーナードにやきもきしながら、
その不安を紛らわすように何度も感想を書き込みました。
マリリンの人物像がわからなくて不気味でとても憎かった。
その点は読者の意見は一致していましたね。

感想の内容の多くは「元サヤ」を許すか許さないかについて。
一時、読者を二分するがごとく感想蘭が紛糾していました。

対立ではないですが、意見はずっと平行線を辿っていました。

ただ、双方ともに自分の心に誠実に意見を述べていたと思います。
真剣に丁寧にその理由を説明する。説得に近いものもあったかも知れない。
読者みなで情熱をもってこの作品に向かい合っていました。

そしてそれぞれが気持ちを吐き出したその後は、自分とは反対の意見について
考えてみたと思う。それによって意見が変わることがなかったとしても、きっと心の
内で何かが変化したと思うのです。


それは読書の醍醐味に通ずることだと思うのです。本を通していろいろと疑似体験をし、
他者の立場を想う。他について慮る、考える。想像する。
それらを楽しめた作品でもありました。


本当に、毎日夢中で「旦那様、~」を楽しみました。


おてんば先生

本当にありがとうございました。

解除

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