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40 if 【ソフィアside】ダミアとモーガン
しおりを挟む※出産前に戻ります
もう臨月に入った頃、アパルトマンにダミアとモーガンが訪ねてきた。
この場所を知っているのはステラだけだったはず、私は驚いてしまい息を呑んだ。
もしかしてバーナードも来ているのではないかとアパルトマンの廊下を見渡した。
「ご安心ください。旦那様は領地にいらっしゃいます」
モーガンは安心するように私に説明してくれた。
「旦那様はとても反省なさっています。奥様のことが心配でしたし、邸の者は皆いても立ってもいられない様子です。皆を安心させるためにも、奥様がどこにいらっしゃるかを調べまして……不自由なく暮らしていらっしゃることを知りたかったので……その、つてを頼ってここの住所を知りました」
モーガンはどこから居場所がバレたのかは濁してしまった。
私はダミアから私がいなくなった後の邸の様子を聞いた。
スコット様が生還したこと、マリリンさんは嘘をついていたこと。アーロンはスコット様の子ではなかったこと。
「旦那様は、マリリンさん親子をどうなさったのですか?」
邸から追い出したのだろうか。
「実の親、ケビンの元へ行くように申されました。しかし、ケビンという男には妻が居ました」
「まぁ!」
ミラがギョッとしてダミアの話に驚きの声をあげた。
「では、どうされたのでしょう」
ダミアはその後マリリンがケビンの父親と結婚し、アーロンを養鶏場の跡継ぎにしたと言った。
アーロンは何もわからない年齢だろう。あの子が幸せであることを願った。
ケビンの家はお金持ちであることと、彼の父親はアーロンをえらく気に入っていたということを伝えてくれた。
マリリンさんは父親ほど歳の離れた夫を持って、これからは苦労するのではないかとダミアは言った。
今更だけど、マリリンさんはかなり怪しい人だった。
けれど、当時の私は子供の大切さを理解していなかった。
実際身ごもって初めて、子供は自分の命より大切な存在だと分かった。
お腹の子のことを思うと、戦時下で生きる道を考えた彼女の行動は仕方なかったのかもしれないと思った。
私が彼女と同じことをするかといえば、人を騙してまではしないだろう。
けれど子供の為だったら、正しくない嘘もついたかもしれない。
結果彼女は報いを受けたのだから、因果応報ということなのだろうけど。
「それで、旦那様は今どうされてらっしゃるんですか?ソフィア様にすんなり慰謝料を支払われたところをみると、かなり反省なさったんでしょうね」
「そうですね。最初は自分の罪深さを理解してらっしゃらなかったのですが、ソフィア様がどれほど旦那様のために尽くしてらっしゃったか、領地のために身を粉にして働いてらっしゃったのか、お知りになりました。そして自分の未熟さを呪ってらっしゃるでしょう」
「の、呪うって……」
「一番大切なものが何だったのか、しっかりお分りになったことでしょう。ソフィア様を失って初めてお気付きになったのだと思います」
「そう……」
今更、バーナードが反省したとしても、私のこれからの人生は変わらない。
もうそっとしておいてもらえればそれで十分だ。
「ダミア、私は旦那様の子を身ごもっています。もうすぐ生まれるわ。この命を授けて下さったことだけはバーナードに感謝しているの」
「ええ。ですが、バーナード様はお子のことをご存じないかと」
「知らせる必要ないですよ!離婚は成立していますし、もう、ソフィア様は自立してちゃんと生活だってできていますし。赤ちゃんとソフィア様は、私がちゃんとお世話します!」
ミラは鼻息荒くダミアに説明している。
けれど、子供のことは言っておかなくてはならないだろう。
いつかバレてしまうかもしれないし、彼はこの子の血のつながった父親なんだから知る権利はある。
「バーナードは子供のことを知ったら、どうするかしら?私から取り上げようとするかしら……」
「それは決してありません。今のバーナード様は、そのようなことはなさいませんでしょう」
モーガンは必死になってそう断言した。
「モーガン、それはどうだか分かりません。バーナード様は理解に苦しむ行動をされることがありますから」
ダミアは冷静だった。
「私は、この子を手放すことはしないわ。彼が何と言おうが絶対それだけはない。もし、無理やり取り上げようとするなら、彼の前から逃げ出します。何度でも逃げます」
「ええ。承知しました」
ダミアは深く頷いた。
それから、出産が近い私を放ってはおけないと、ダミアはここに残ると言い出した。
ミラも大歓迎ですと喜んだ。
モーガンは旦那様になんと報告すればいいのかと頭を悩ませていた。
とにかく無事に出産するまでは、絶対にバーナードに子供のことがバレないようにしなければならない。
モーガンは決して口を割らないと誓ってくれた。
いつかはバーナードと話をしなければならないだろう。
その時が少しでも先になればいいのにと願うばかりだった。
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