48 / 60
33 if 奥様の居場所【バーナードside】
しおりを挟む我が国では爵位を継げる跡継ぎがいない場合、爵位を持つ者と国王が認めれば爵位を譲り渡すことが可能だ。
先の戦争で功績を挙げたスコットは国王から勅許状で一代貴族の男爵に叙された。恩給という形で一代の間は国から年金が受け取れる。しかし領地を与えられた訳ではない。
今回の戦いで貢献した者は大勢いた。褒美として爵位を賜ったが、それは一代限りというものが多かった。なぜそうなるかといえば、財産面で貴族としての体面を保たねばならなくなるからだ。国からの報奨金は未来永劫与えられるわけではなく一時的なもの。領地を与えられなければ、そこから得られる収益もない。
「バーナード。俺は領地経営の手伝いはできるがこの領を継ぎたいなんて思ってない。貴族院を自由に操縦できるようになりたいわけでもない。国を動かす高位貴族たちの仲間になりたいとも思わん。そんな面倒くさい野望はない」
「私は今後妻を娶ることはない。ソフィアが私の最後の妻だ。だから爵位を継ぐ者はこの先いない。国に返上し、新しい領主がやってくるかもしれないが、その者が有能だとは限らないだろう」
「だからといって俺に押し付けるな。お前はだいたい考えが甘いんだよ。ソフィアを愛していたなら彼女が守ってきたこの領地を最後まで守り通せ。それに俺たちはまだ若いんだこの先何があるかはわからないだろう」
◇
その後、コンタンとモーガン、ガブリエルが加わり、この国がどうなっていくか我が領地がどうなるかを話し合うことになった。
「独立した判断を下せるのは富める者のみであるという考えは、国民の反感を買い後に革命に発展する可能性があるのではないでしょうか」
コンタンは身分制度が確立している国のやり方が、今後崩壊する可能性を示唆した。
「だから、血縁を重んじるんだろう。世襲の原則は革命に対する強力な防塞だ」
スコットは貴族院は未来永劫続くものだと主張する。
「有能な貴族が必ず世襲制で爵位を継いでいる訳ではない。無能な貴族たちは山ほどいるぞ」
私は戦地で戦いもせず、身分と金だけで生き残り、うまい汁を吸っている貴族たちを大勢知っている。
「極端に言えば、世襲貴族は金持ちだが無能、一代貴族は貧乏だが有能と言いたいのか?」
スコットの言葉にその通りだと思ったが、政治に絡む仕事を専門にしている訳ではない自分が言えることではない。
「政府は、有能だが貧乏な者を貴族にしたくないんでしょう。貴族院を自由に操作できるようになられては困るからです」
コンタンが、だから一代貴族という特例措置があるのだと言った。
「あの……俺、あんまり政治のことは分からないんですけど」
ガブリエルが首をひねりながら訳が分からんという風に話し出した。
「隊長は、自分はこの先、結婚しないから後継ぎがいない。それでスコットに領地を任せたいと言ってるんですよね?」
「ああ、そうだ」
「隊長はソフィア様に出て行かれて、凹んでるんですよね。自ら招いたことだから今更どうしようもないって思ってるんですよね。そんで、ソフィア様以外の嫁を今後もらうつもりはない」
私は頷いた。
「それならもう一回、頑張ったらどうですか?」
「それは絶対駄目だ!私はソフィア様と約束した。バーナード様に絶対居場所を明かさないと。ソフィア様は彼女自身の幸せをご自分で見付けられるために、この領地を出て行かれた。それはとても苦しい選択だったはずです。彼女の意思を尊重するべきです」
それを聞いていたスコットが話に入ってきた。
「俺は戦前三カ月ほどしか彼女を見ていない。そもそもあまりソフィア様を知らない。バーナードは勘違いのやらかしのせいで、彼女に離婚して国を出る程嫌われたんだろう?今更元の鞘に収まるなんてありえないんじゃないのか」
何度も皆に責められたことだ。自分は最低のことをしたと分かっている。
嫌われたという言葉で片付けられない程、憎まれているだろう。
スコットが言うように今さらだ。
「そうです。バーナード様の奥様に対する扱いは酷い物でした。彼女の取組み、奮励 、労苦 、尽力努力したことを全く理解していなかった。私はバーナード様を絶対にソフィア様に関わらせないと誓いました。彼女の行き先は死んでも教えませんから」
コンタンは声を荒げた。
今まで一言も話に入ってこなかったモーガンが口を開いた。
「奥様はボルナットのアパルトマンにいらっしゃいます」
1,177
お気に入りに追加
7,442
あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。


【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる