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if 奥様の居場所【バーナードside】
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我が国では爵位を継げる跡継ぎがいない場合、爵位を持つ者と国王が認めれば爵位を譲り渡すことが可能だ。
先の戦争で功績を挙げたスコットは国王から勅許状で一代貴族の男爵に叙された。恩給という形で一代の間は国から年金が受け取れる。しかし領地を与えられた訳ではない。
今回の戦いで貢献した者は大勢いた。褒美として爵位を賜ったが、それは一代限りというものが多かった。なぜそうなるかといえば、財産面で貴族としての体面を保たねばならなくなるからだ。国からの報奨金は未来永劫与えられるわけではなく一時的なもの。領地を与えられなければ、そこから得られる収益もない。
「バーナード。俺は領地経営の手伝いはできるがこの領を継ぎたいなんて思ってない。貴族院を自由に操縦できるようになりたいわけでもない。国を動かす高位貴族たちの仲間になりたいとも思わん。そんな面倒くさい野望はない」
「私は今後妻を娶ることはない。ソフィアが私の最後の妻だ。だから爵位を継ぐ者はこの先いない。国に返上し、新しい領主がやってくるかもしれないが、その者が有能だとは限らないだろう」
「だからといって俺に押し付けるな。お前はだいたい考えが甘いんだよ。ソフィアを愛していたなら彼女が守ってきたこの領地を最後まで守り通せ。それに俺たちはまだ若いんだこの先何があるかはわからないだろう」
◇
その後、コンタンとモーガン、ガブリエルが加わり、この国がどうなっていくか我が領地がどうなるかを話し合う事になった。
「独立した判断を下せるのは富める者のみであるという考えは、国民の反感を買い後に革命に発展する可能性があるのではないでしょうか」
コンタンは身分制度が確立している国のやり方が今後崩壊する可能性を示唆した。
「だから、血縁を重んじるんだろう。世襲の原則は革命に対する強力な防塞だ」
スコットは貴族院は未来永劫続くものだと主張する。
「有能な貴族が必ず世襲制で爵位を継いでいる訳ではない。無能な貴族たちは山ほどいるぞ」
私は戦地で戦いもせず、身分と金だけで生き残り、うまい汁を吸っている貴族たちを大勢知っている。
「極端に言えば、世襲貴族は金持ちだが無能、一代貴族は貧乏だが有能と言いたいのか?」
スコットの言葉にその通りだと思ったが、政治に絡む仕事を専門にしている訳ではない自分が言える事ではない。
「政府は、有能だが貧乏な者を貴族にしたくないんでしょう。貴族院を自由に操作できるようになられては困るからです」
コンタンが、だから一代貴族という特例措置があるのだと言った。
「あの……俺、あんまり政治の事は分からないんですけど」
ガブリエルが首をひねりながら訳が分からんという風に話し出した。
「隊長は、自分はこの先結婚しないから後継ぎがいない。それでスコットに領地を任せたいと言ってるんですよね?」
「ああ、そうだ」
「隊長はソフィア様に出て行かれて、凹んでるんですよね。自ら招いた事だから今更どうしようもないって思ってるんですよね。そんで、ソフィア様以外の嫁を今後もらうつもりはない」
私は頷いた。
「それならもう一回、頑張ったらどうですか?」
「それは絶対駄目だ!私はソフィア様と約束した。バーナード様に絶対居場所を明かさないと。ソフィア様は彼女自身の幸せをご自分で見付けられるために、この領地を出て行かれた。それはとても苦しい選択だったはずです。彼女の意思を尊重するべきです」
それを聞いていたスコットが話に入ってきた。
「俺は戦前三カ月ほどしか彼女を見ていない。そもそもあまりソフィア様を知らない。バーナードは勘違いのやらかしのせいで、彼女に離婚して国を出る程嫌われたんだろう?今更元の鞘に収まるなんてありえないんじゃないのか」
何度も皆に責められた事だ。自分は最低の事をしたと分かっている。
嫌われたという言葉で片付けられない程、憎まれているだろう。
スコットが言うように今更だ。
「そうです。バーナード様の奥様に対する扱いは酷い物でした。彼女の取組み、奮励 、労苦 、尽力努力した事を全く理解していなかった。私はバーナード様を絶対にソフィア様に関わらせないと誓いました。彼女の行き先は死んでも教えませんから」
コンタンは声を荒げた。
今まで一言も話に入ってこなかったモーガンが口を開いた。
「奥様はボルナットのアパルトマンにいらっしゃいます」
先の戦争で功績を挙げたスコットは国王から勅許状で一代貴族の男爵に叙された。恩給という形で一代の間は国から年金が受け取れる。しかし領地を与えられた訳ではない。
今回の戦いで貢献した者は大勢いた。褒美として爵位を賜ったが、それは一代限りというものが多かった。なぜそうなるかといえば、財産面で貴族としての体面を保たねばならなくなるからだ。国からの報奨金は未来永劫与えられるわけではなく一時的なもの。領地を与えられなければ、そこから得られる収益もない。
「バーナード。俺は領地経営の手伝いはできるがこの領を継ぎたいなんて思ってない。貴族院を自由に操縦できるようになりたいわけでもない。国を動かす高位貴族たちの仲間になりたいとも思わん。そんな面倒くさい野望はない」
「私は今後妻を娶ることはない。ソフィアが私の最後の妻だ。だから爵位を継ぐ者はこの先いない。国に返上し、新しい領主がやってくるかもしれないが、その者が有能だとは限らないだろう」
「だからといって俺に押し付けるな。お前はだいたい考えが甘いんだよ。ソフィアを愛していたなら彼女が守ってきたこの領地を最後まで守り通せ。それに俺たちはまだ若いんだこの先何があるかはわからないだろう」
◇
その後、コンタンとモーガン、ガブリエルが加わり、この国がどうなっていくか我が領地がどうなるかを話し合う事になった。
「独立した判断を下せるのは富める者のみであるという考えは、国民の反感を買い後に革命に発展する可能性があるのではないでしょうか」
コンタンは身分制度が確立している国のやり方が今後崩壊する可能性を示唆した。
「だから、血縁を重んじるんだろう。世襲の原則は革命に対する強力な防塞だ」
スコットは貴族院は未来永劫続くものだと主張する。
「有能な貴族が必ず世襲制で爵位を継いでいる訳ではない。無能な貴族たちは山ほどいるぞ」
私は戦地で戦いもせず、身分と金だけで生き残り、うまい汁を吸っている貴族たちを大勢知っている。
「極端に言えば、世襲貴族は金持ちだが無能、一代貴族は貧乏だが有能と言いたいのか?」
スコットの言葉にその通りだと思ったが、政治に絡む仕事を専門にしている訳ではない自分が言える事ではない。
「政府は、有能だが貧乏な者を貴族にしたくないんでしょう。貴族院を自由に操作できるようになられては困るからです」
コンタンが、だから一代貴族という特例措置があるのだと言った。
「あの……俺、あんまり政治の事は分からないんですけど」
ガブリエルが首をひねりながら訳が分からんという風に話し出した。
「隊長は、自分はこの先結婚しないから後継ぎがいない。それでスコットに領地を任せたいと言ってるんですよね?」
「ああ、そうだ」
「隊長はソフィア様に出て行かれて、凹んでるんですよね。自ら招いた事だから今更どうしようもないって思ってるんですよね。そんで、ソフィア様以外の嫁を今後もらうつもりはない」
私は頷いた。
「それならもう一回、頑張ったらどうですか?」
「それは絶対駄目だ!私はソフィア様と約束した。バーナード様に絶対居場所を明かさないと。ソフィア様は彼女自身の幸せをご自分で見付けられるために、この領地を出て行かれた。それはとても苦しい選択だったはずです。彼女の意思を尊重するべきです」
それを聞いていたスコットが話に入ってきた。
「俺は戦前三カ月ほどしか彼女を見ていない。そもそもあまりソフィア様を知らない。バーナードは勘違いのやらかしのせいで、彼女に離婚して国を出る程嫌われたんだろう?今更元の鞘に収まるなんてありえないんじゃないのか」
何度も皆に責められた事だ。自分は最低の事をしたと分かっている。
嫌われたという言葉で片付けられない程、憎まれているだろう。
スコットが言うように今更だ。
「そうです。バーナード様の奥様に対する扱いは酷い物でした。彼女の取組み、奮励 、労苦 、尽力努力した事を全く理解していなかった。私はバーナード様を絶対にソフィア様に関わらせないと誓いました。彼女の行き先は死んでも教えませんから」
コンタンは声を荒げた。
今まで一言も話に入ってこなかったモーガンが口を開いた。
「奥様はボルナットのアパルトマンにいらっしゃいます」
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