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最終話
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この二ヶ月の間に、ウィリアムは事件の調査を自らが動き進めていたという。
あらゆる人脈を使い、国際港での違法薬物の摘発から大掛かりな組織の犯罪を明るみにした。
王都にある薬剤店や輸入雑貨店などの摘発も行われ、危険な薬物の取り扱いに関する法が制定された。
その中で、ナージャの遠戚である男が危険な薬物を輸入している情報を掴んだらしい。捕らえようとした矢先に彼は自害したという。
ナージャは人を介してそれらを手に入れたわけではなく、ほとんど彼女個人で動いて薬物を入手していたようだ。
結果、他のものが口を割ることがなかったため、彼女の犯行が表沙汰にならなかったという。
「頭が良いのか、浅はかなのか。全く分からない女だった」
長椅子にゆったりと腰かけたウィリアムが私の腰を引いた。
なぜか彼の足の間に座らされている。
「お腹の子はいったい誰の子だったのでしょう?」
「父親だという男が名乗り出た。宮殿の庭師の男だった。ローズ宮殿でバラの管理をしていた。調査が進み、自分の事がバレる前に名乗り出る方が賢いだろうと思ったらしい」
けれど、そんなに都合よく懐妊するなんてあるのかしら。
「以前から知り合いだったのでしょうか?」
「その男は私と容姿が似ていたらしい。金髪で碧眼。そして、ナージャとは何度か逢瀬を重ねていたようだ」
「まぁ!」
驚いて振り向いた私にウィルは微笑みかけた。
「ナージャが言うには、子供の頃から私に好意を持っていたが身分違いの恋だから、似た男を私に見立てて愛でていたようだ」
「そう……いくら似ていたとしても、体を許したのですか」
ウィリアムが私の髪を撫でる。
「一生私のもとで働くつもりだったから、彼女は結婚する気がなかったのだろう。だから庭師とも簡単にそういう関係になったようだ」
ナージャは出産後、刑が執行されるらしい。このことは公にはされず、出産時に母子ともに病死したと発表される。
産まれた赤子は庭師が引き取って育てる事になった。
刑の免除の代わりにしっかりと育てろとウィリアムが彼に告げた。
泣きながら感謝して責任を果たしますと言ったという。
今回の事件を思い出して深いため息をついた。
ウィルが、ちゅうっと音を立てて私にキスをした。
突然のキスに、私はびっくりして目を丸くする。
「ん?もっかいする?」
私は急いでウィリアムの膝の上から降りた。
「……もう、満たされてます。大丈夫です」
はははと笑ってウィリアムはまた私の手を引いた。
「僕は君との約束を守っていた。側妃と夜伽は行わないと言っていた。なのにステラはナージャの子は私の子だと信じていたよね?それは少し残念だった」
「ウィルがいくらお飾りの側妃だと言っても、そうはいかないだろうと覚悟していました。だから、子ができたと聞いた時にショックではありましたが、ちゃんと受け止めようと思っていました。ただ、私に避妊薬を飲ませて、自らは妊娠したんだと思うと少し腹が立ちました」
「嫉妬してくれなかったのか?」
「嫉妬などはしてはなりません。それは心得ています。けれど、側妃を娶った事に関してはウィルに腹が立っていました。もう少し時間をくれてもよかったのにと思いました」
「すまなかった。辛い思いをさせたな」
どうしても重臣たちからの、側妃を娶る必要があるという声を沈められなかったという。
こちらが先に側妃を決めてしまえば、後は静かになるだろうという考えにより、ナージャが側妃になった。
そのせいで大変なことになったのだが、今更どうこう言っても仕方がない話だ。
王族はあらゆる問題に直面する。それは頻繁に起こることだ。
安寧を得るためには、日々の努力が必要で、それは常に緊張を強いるものだ。
王族に生まれたからには逃げられない。
その重責を生まれながらに担っているウィリアム。
私は彼を一生支えて行く王太子妃だ。
「ウィリアム。愛しているわ」
「ステラ……」
「んっ」
心地よい波に飲まれたように、とろんとした瞳で彼を見あげた。
「愛してる……」
ウィリアムは耳元で囁く。
「私も」
「愛している」
「何度も、言わなくても……」
ウィルは乱れた呼吸を整えると優しく笑った。
私はくたりと彼の胸元に頭を預ける。
「愛している。一生君を守るよ……」
ウィリアムは私の耳元で囁いた。
私は彼の瞳に移る自分の姿を確認すると、縋りつくように彼の首に腕を回した。
◇
その知らせを聞いて、ウィリアムが勢いよく私の部屋へ飛び込んできた。
「ステラ!」
私を抱きしめようとして、少し躊躇したようだ。
そして笑顔でゆうっくりそっと腕を回した。
私はウィリアムの胸に額をあてる。
わずかに震える声で囁くように「赤ちゃんができたわ」喜びの言葉をこぼした。
「ありがとう。よく頑張ってくれた。嬉しすぎて泣きそうだ」
そう言ったウィリアムの笑顔が何よりの褒美だ。
「医師の確認も取りましたし、懐妊は本当です。けれど、まだ初期ですから大事な時期です」
「ああ。わかっている。知らせを聞いて、心臓が止まりそうになった」
ウィリアムの潤んだ瞳が彼が私の妊娠を待ち望んでいたことを物語っている。
ここ何ヶ月か月のものが来ていなかったが、ぬか喜びになってはいけないと思い必死に隠していた。
「いつの子だろう?」
「多分……契約書の話をした時あたりだと思います」
「そんなにすぐに?」
「ええ。そうです」
妊娠できないわけではなかったとわかり、本当に嬉しかった。
確かにウィルがやっと病から復活した直ぐ後だ。
「それなら……大丈夫だっただろうか。あの後、かなり激しくしていたと思うのだが……」
「ええ。そうですね……」
少し恥ずかしくて頬が赤くなる気がする。
「これからは、私がどんなことからも守る。今まで以上に優しくするから」
いや、それはちょっと控えてもらわなければならない。
けれどそれは医師から伝えてもらおう。
「記憶が戻っていたのに、ウィルは私との営みが何というか……激しめでしたね」
「まぁ、してみたかったというか。大丈夫だ。心配するな」
心配するなという意味がよく分からないけれど、あんなに激しい閨事にも耐えてお腹の中で育ってくれていたのだから、きっと丈夫な子だろうと思う。
「……承知しました」
彼はゆっくりと私をソファーに座らせると、手を取ってキスを落とした。
こんなに幸せを感じた事はなかった。
本当にいろいろあったこの数年私はよく頑張ったと思う。
ちょっと自分を褒めてあげたい気分だった。
「これからはベッドから出る事を禁止しよう。必要な物はここに全て運ばせる。赤子の洋服もいるな。ベッドも専用の物を作らせなければならない。忙しくなるな。ステラは栄養をたくさん取ったほうが良い」
「え?……ええ」
「あまりたくさんの人と接触するのは良くない。誰かがぶつかってきたりしたら困るしな。ドレスもゆったりした物を作らせよう」
「そうですね」
「国民には安定期に入ってから報告しよう。しかし、ジェイには言ってもいいだろう。国王陛下にも、専用の乳母も決めなくてはならないな」
「……ええ」
「医師に従って食べて良い物を聞いた方がよいな。ステラの故郷にも知らせねば。出産はママミアも呼んだ方が良いな。何かあった時の為に、待機しておいてもらおう」
「ウィリアム。ウィル。貴方だけの子ではありません。私の子でもあります。ママミアは呼びません。何度も言っていますが彼女はコースレッドの国民です」
「ああ!もちろんだ!君の意見も聞くよ。だけどまず私の意見を尊重してくれ」
ウィリアムは興奮している。だめだ今からこんな状態じゃ先が思いやられる。
「ウィリアム!」
「ウィル!旦那様だからと言って、思い通りにはさせません!」
━━━━完━━━━
あらゆる人脈を使い、国際港での違法薬物の摘発から大掛かりな組織の犯罪を明るみにした。
王都にある薬剤店や輸入雑貨店などの摘発も行われ、危険な薬物の取り扱いに関する法が制定された。
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結果、他のものが口を割ることがなかったため、彼女の犯行が表沙汰にならなかったという。
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長椅子にゆったりと腰かけたウィリアムが私の腰を引いた。
なぜか彼の足の間に座らされている。
「お腹の子はいったい誰の子だったのでしょう?」
「父親だという男が名乗り出た。宮殿の庭師の男だった。ローズ宮殿でバラの管理をしていた。調査が進み、自分の事がバレる前に名乗り出る方が賢いだろうと思ったらしい」
けれど、そんなに都合よく懐妊するなんてあるのかしら。
「以前から知り合いだったのでしょうか?」
「その男は私と容姿が似ていたらしい。金髪で碧眼。そして、ナージャとは何度か逢瀬を重ねていたようだ」
「まぁ!」
驚いて振り向いた私にウィルは微笑みかけた。
「ナージャが言うには、子供の頃から私に好意を持っていたが身分違いの恋だから、似た男を私に見立てて愛でていたようだ」
「そう……いくら似ていたとしても、体を許したのですか」
ウィリアムが私の髪を撫でる。
「一生私のもとで働くつもりだったから、彼女は結婚する気がなかったのだろう。だから庭師とも簡単にそういう関係になったようだ」
ナージャは出産後、刑が執行されるらしい。このことは公にはされず、出産時に母子ともに病死したと発表される。
産まれた赤子は庭師が引き取って育てる事になった。
刑の免除の代わりにしっかりと育てろとウィリアムが彼に告げた。
泣きながら感謝して責任を果たしますと言ったという。
今回の事件を思い出して深いため息をついた。
ウィルが、ちゅうっと音を立てて私にキスをした。
突然のキスに、私はびっくりして目を丸くする。
「ん?もっかいする?」
私は急いでウィリアムの膝の上から降りた。
「……もう、満たされてます。大丈夫です」
はははと笑ってウィリアムはまた私の手を引いた。
「僕は君との約束を守っていた。側妃と夜伽は行わないと言っていた。なのにステラはナージャの子は私の子だと信じていたよね?それは少し残念だった」
「ウィルがいくらお飾りの側妃だと言っても、そうはいかないだろうと覚悟していました。だから、子ができたと聞いた時にショックではありましたが、ちゃんと受け止めようと思っていました。ただ、私に避妊薬を飲ませて、自らは妊娠したんだと思うと少し腹が立ちました」
「嫉妬してくれなかったのか?」
「嫉妬などはしてはなりません。それは心得ています。けれど、側妃を娶った事に関してはウィルに腹が立っていました。もう少し時間をくれてもよかったのにと思いました」
「すまなかった。辛い思いをさせたな」
どうしても重臣たちからの、側妃を娶る必要があるという声を沈められなかったという。
こちらが先に側妃を決めてしまえば、後は静かになるだろうという考えにより、ナージャが側妃になった。
そのせいで大変なことになったのだが、今更どうこう言っても仕方がない話だ。
王族はあらゆる問題に直面する。それは頻繁に起こることだ。
安寧を得るためには、日々の努力が必要で、それは常に緊張を強いるものだ。
王族に生まれたからには逃げられない。
その重責を生まれながらに担っているウィリアム。
私は彼を一生支えて行く王太子妃だ。
「ウィリアム。愛しているわ」
「ステラ……」
「んっ」
心地よい波に飲まれたように、とろんとした瞳で彼を見あげた。
「愛してる……」
ウィリアムは耳元で囁く。
「私も」
「愛している」
「何度も、言わなくても……」
ウィルは乱れた呼吸を整えると優しく笑った。
私はくたりと彼の胸元に頭を預ける。
「愛している。一生君を守るよ……」
ウィリアムは私の耳元で囁いた。
私は彼の瞳に移る自分の姿を確認すると、縋りつくように彼の首に腕を回した。
◇
その知らせを聞いて、ウィリアムが勢いよく私の部屋へ飛び込んできた。
「ステラ!」
私を抱きしめようとして、少し躊躇したようだ。
そして笑顔でゆうっくりそっと腕を回した。
私はウィリアムの胸に額をあてる。
わずかに震える声で囁くように「赤ちゃんができたわ」喜びの言葉をこぼした。
「ありがとう。よく頑張ってくれた。嬉しすぎて泣きそうだ」
そう言ったウィリアムの笑顔が何よりの褒美だ。
「医師の確認も取りましたし、懐妊は本当です。けれど、まだ初期ですから大事な時期です」
「ああ。わかっている。知らせを聞いて、心臓が止まりそうになった」
ウィリアムの潤んだ瞳が彼が私の妊娠を待ち望んでいたことを物語っている。
ここ何ヶ月か月のものが来ていなかったが、ぬか喜びになってはいけないと思い必死に隠していた。
「いつの子だろう?」
「多分……契約書の話をした時あたりだと思います」
「そんなにすぐに?」
「ええ。そうです」
妊娠できないわけではなかったとわかり、本当に嬉しかった。
確かにウィルがやっと病から復活した直ぐ後だ。
「それなら……大丈夫だっただろうか。あの後、かなり激しくしていたと思うのだが……」
「ええ。そうですね……」
少し恥ずかしくて頬が赤くなる気がする。
「これからは、私がどんなことからも守る。今まで以上に優しくするから」
いや、それはちょっと控えてもらわなければならない。
けれどそれは医師から伝えてもらおう。
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心配するなという意味がよく分からないけれど、あんなに激しい閨事にも耐えてお腹の中で育ってくれていたのだから、きっと丈夫な子だろうと思う。
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「え?……ええ」
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「そうですね」
「国民には安定期に入ってから報告しよう。しかし、ジェイには言ってもいいだろう。国王陛下にも、専用の乳母も決めなくてはならないな」
「……ええ」
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「ウィリアム。ウィル。貴方だけの子ではありません。私の子でもあります。ママミアは呼びません。何度も言っていますが彼女はコースレッドの国民です」
「ああ!もちろんだ!君の意見も聞くよ。だけどまず私の意見を尊重してくれ」
ウィリアムは興奮している。だめだ今からこんな状態じゃ先が思いやられる。
「ウィリアム!」
「ウィル!旦那様だからと言って、思い通りにはさせません!」
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