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ネイトが10歳になった。
アルフレッドと彼女の関係は、いまだに続いている。
このまま、一年に一日だけのことなら、私はアルフレッドの逢瀬の件には触れないでいようと思っていた。
ずっと知らない振りをして、この幸せな家族の関係を壊さないと決めていた。
なのに……
「今年は、12月に、1ヶ月ほど屋敷を空けることになる」
「旦那様、それはいったいどういう……」
「マウリエ山にひと月ほど行くことにした。だから、ネイトと屋敷のことは皆に任せる。すまないが、よろしく頼む」
その頃になったら、屋敷の皆も何かに気がついているよううだった。
旦那様の言うことには誰も意見しなかった。
けれど、私はこのままでは駄目だと思った。
ネイトも、もう10歳だ。父親が何をしているのか気づいてもおかしくない年齢だろう。
この10年間、一度もクリスマスを父親と過ごせていない。ネイトは、頭も良いし鋭い子だから、きっとそのうち、父親に愛人がいることを知るだろう。
今までならば1日だけだったから許せた。けれど1ヶ月、愛人とマウリエ山脈へ行くなんて、妻としては黙っていられない。
きっとそのうち、1ヶ月が3ヶ月、半年、1年になるかもしれない。
その時になってから、裏切られたというのは悔しいし情けない。
私は今回、自分もマウリエ山に行くことを決意した。
アルフレッドは、きっと駄目だと言うだろう、だから彼に許可を得ることはしない。
黙って、アルフレッドの後をつけると決めた。
王都から彼女と一緒に馬車で出かけているわけではなく、彼女とは現地で会っているのは調査済みだ。
マウリエ山で彼が宿泊しているホテルの名前は分かっている。
直接、アルフレッドと彼女が一緒にいるところに出向いて行こうと考えた。
仕事だとか、神殿でのミサだとか、言い訳できないくらい、しっかりと現場を押さえる。
アルフレッドと彼女と私、三人で話をして、彼らの関係を終わらせてくれるように頼む。そして、もし拒否されたら、私はネイトを連れて屋敷を出ると告げよう。
夫が10年も浮気相手と関係を続けていることは、私に対する裏切りでしかないのだから、許せるはずはない。
彼は侯爵だから慰謝料を請求すれば支払ってくれるだろう。
一応、夫にも貴族としてのプライドはあるから、悪い噂は避けるはずだ。
彼のことだから、慰謝料の出し渋りはしないだろう。万が一、無一文で放り出されたら実家に帰るしかない。肩身の狭い思いはすれど、酷い扱いはされないだろう。
「ごめんね、お母様、お父様。親不孝な娘だわ」
自分が情けなくて涙が出てくる。
私は旦那様を愛している。それは、たぶん死ぬまで変わらないだろう。
けれど、私と息子を捨ててでも貫きたい愛があるのなら、彼は私ではないその彼女を本当は愛しているということだ。
どちらか片方からの、一方的な愛情は虚しいだけ。ネイトに離婚すると話して、もし息子が父親を選ぶのなら、それは仕方がないことだ。私は一人で屋敷を出て行こう。
私の決意は固かった。
あの手紙を見た日から、ずっと、何か違和感を感じている。
どうしても、縮まらない彼との距離を感じる。
彼には私だけを見てほしい、私だけを愛して欲しい。けれど、それは私一人が望んでも仕方がないことだった。
アルフレッドと彼女の関係は、いまだに続いている。
このまま、一年に一日だけのことなら、私はアルフレッドの逢瀬の件には触れないでいようと思っていた。
ずっと知らない振りをして、この幸せな家族の関係を壊さないと決めていた。
なのに……
「今年は、12月に、1ヶ月ほど屋敷を空けることになる」
「旦那様、それはいったいどういう……」
「マウリエ山にひと月ほど行くことにした。だから、ネイトと屋敷のことは皆に任せる。すまないが、よろしく頼む」
その頃になったら、屋敷の皆も何かに気がついているよううだった。
旦那様の言うことには誰も意見しなかった。
けれど、私はこのままでは駄目だと思った。
ネイトも、もう10歳だ。父親が何をしているのか気づいてもおかしくない年齢だろう。
この10年間、一度もクリスマスを父親と過ごせていない。ネイトは、頭も良いし鋭い子だから、きっとそのうち、父親に愛人がいることを知るだろう。
今までならば1日だけだったから許せた。けれど1ヶ月、愛人とマウリエ山脈へ行くなんて、妻としては黙っていられない。
きっとそのうち、1ヶ月が3ヶ月、半年、1年になるかもしれない。
その時になってから、裏切られたというのは悔しいし情けない。
私は今回、自分もマウリエ山に行くことを決意した。
アルフレッドは、きっと駄目だと言うだろう、だから彼に許可を得ることはしない。
黙って、アルフレッドの後をつけると決めた。
王都から彼女と一緒に馬車で出かけているわけではなく、彼女とは現地で会っているのは調査済みだ。
マウリエ山で彼が宿泊しているホテルの名前は分かっている。
直接、アルフレッドと彼女が一緒にいるところに出向いて行こうと考えた。
仕事だとか、神殿でのミサだとか、言い訳できないくらい、しっかりと現場を押さえる。
アルフレッドと彼女と私、三人で話をして、彼らの関係を終わらせてくれるように頼む。そして、もし拒否されたら、私はネイトを連れて屋敷を出ると告げよう。
夫が10年も浮気相手と関係を続けていることは、私に対する裏切りでしかないのだから、許せるはずはない。
彼は侯爵だから慰謝料を請求すれば支払ってくれるだろう。
一応、夫にも貴族としてのプライドはあるから、悪い噂は避けるはずだ。
彼のことだから、慰謝料の出し渋りはしないだろう。万が一、無一文で放り出されたら実家に帰るしかない。肩身の狭い思いはすれど、酷い扱いはされないだろう。
「ごめんね、お母様、お父様。親不孝な娘だわ」
自分が情けなくて涙が出てくる。
私は旦那様を愛している。それは、たぶん死ぬまで変わらないだろう。
けれど、私と息子を捨ててでも貫きたい愛があるのなら、彼は私ではないその彼女を本当は愛しているということだ。
どちらか片方からの、一方的な愛情は虚しいだけ。ネイトに離婚すると話して、もし息子が父親を選ぶのなら、それは仕方がないことだ。私は一人で屋敷を出て行こう。
私の決意は固かった。
あの手紙を見た日から、ずっと、何か違和感を感じている。
どうしても、縮まらない彼との距離を感じる。
彼には私だけを見てほしい、私だけを愛して欲しい。けれど、それは私一人が望んでも仕方がないことだった。
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