一年に一日だけ

おてんば松尾

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私はルソー伯爵家の長女として生まれた。エメラルドグリーンの瞳と豊かなブロンドの髪を持ち、整った顔立ちは母親譲りで感謝している。見る者を魅了するその姿は、成長するごとに輝きを増し、世の中の男性を虜にすると友人達には言われていた。
けれど、私の領地は王都から離れた田舎にあり、私はそこでずっと育ったため、社交界の派手な付き合いは苦手だった。

アルフレッド・サリバンは侯爵家の嫡男だった。彼は深い紺色の瞳を持ち、オリーブ色の髪は月光のように美しい。高身長で筋肉質な体つきは令嬢たちの目を惹き、社交界でも人気のある独身令息だった。何より彼は魔法士として優秀で、膨大な魔力の保持者だった。
卓越した魔法技術は、王城でも必要不可欠な存在として認められていた。

私たちの婚約は、それぞれが15歳と20歳の時に結ばれた。それは親同士が決めた政略結婚だったが、この時代の貴族たちは、自由に恋愛をして結婚することのほうが稀であった。よほどの事情がない限り、決められた婚約者と結婚するのが一般的だから、政略結婚に何も不満はなかった。むしろ、こんなに立派な人の妻になれることが嬉しかったし、彼のために妻として一生懸命頑張ろうと思った。


婚約から三年が経ち、アルフレッド・サリバン侯爵と私は結婚することになった。私たちの結婚式は、まるで絵画のように神秘的で、招待客がため息を漏らすほど美しかった。
祭壇で向かい合うと、司祭が厳かに結婚の誓いを読み上げた。親たちの期待と家同士の絆を背負いながらも、新たな未来への希望に満ちた幸せな瞬間だった。
誓いの言葉が終わると、会場は拍手と歓声に包まれ、アルフレッドと私の結婚が正式に認められた。


侯爵家の新しい夫婦の寝室、真新しい家具が揃えられ、メイド達に相談して選んだ美しいナイトウェアに身を包んで、初めての夜を過ごす。

「私たちは政略結婚だけど、互いに夫婦として、愛し、慈しみ、思いやり、君と添い遂げようと思っているよ」

夫のアルフレッドが私に優しく告げた。

「ありがとうございます」

私は恥ずかしくて頬を染めた。15の時からアルフレッドの婚約者でいたから、もちろん男性経験などは無く、異性と話をするのも慣れていなかった。
5歳年上のアルフレッドに、閨事は全て任せればいいとメイド達から言われている。
それでも初めてのことだから緊張していた。


「貴族に生れたからには、自由に相手を選ぶことはできない。けれど、私は君が妻でよかったと思っている」

「ええ、私も嬉しいです」

彼は優しく私に口づけを落とし、まるでガラス細工を扱うかのように丁寧に私に触れてくれた。
私は彼が自分を大切に扱ってくれていることに感動し、嬉しい涙が頬を伝った。こんなに幸せな気分は、生まれて初めてだと思った。


二人の新婚生活は、愛と喜びに満ちたものであり、私たちはお互いを支え合いながら、これからの人生を共に順調に歩んでいくと思っていた。

***


半年が経ち、私たちは子どもを授かることができた。私が妊娠を告げたとき、アルフレッドの目には喜びの涙が浮かんだ。彼は私を抱きしめ、これからの新しい家族の生活に対する期待と喜びを分かち合った。

「カレンの子どもは、きっと美人だろう。男かもしれないな、でも、君に似たら美男子になるだろうな」

「性別なんてまだ分からないわ。ふふっ、旦那様、気が早すぎますよ」

妊娠中の私は、夫の優しさと支えに感謝していた。彼は私の体調を気遣い、私がリラックスできるように部屋の模様替えや、庭の花にまで手を加えてくれた。

「カレンと赤ちゃんのために、できる限りのことをしようと思っている」

「旦那様のおかげで、安心した妊娠生活を送ることができるわ、赤ちゃんの誕生がとても楽しみです」


アルフレッドと一緒に赤ちゃんの名前を考え、ベビー用品を選び、未来の家族のための準備を進めていった。私の腹部が少し大きくなるにつれ、夫はその変化を愛おしそうに見守り、毎晩お腹に話しかけることを楽しみにしていた。

私たちの生活は、愛と期待に満ちていた。未来の家族の一員を迎える準備が整い、屋敷内は幸せな空気に包まれていた。

私は、愛する夫アルフレッドとの子どもを出産するために、自室のベッドに横たわっていた。陣痛が始まってからすでに数時間が経過し、体力は限界に近づいていた。アルフレッドは私の手をしっかりと握りしめ、励ましの言葉をかけ続けていた。

「カレン、大丈夫だよ。君は強い。僕たちの赤ちゃんも頑張っているよ」

アルフレッドは優しく言った。

私は汗だくになりながら、必死に呼吸を整え、痛みに耐えていた。産婆や医師や侍女たちが周りで忙しく動き回り、私の状態を確認していた。

「ここからは、侯爵様は部屋から出てください」

医師がアルフレッドに声をかけた。
出産は女性の仕事だ、父親である彼は立ち会うことができない。

私は最後の力を振り絞り、全身の力を込めて出産に立ち向かった。痛みと疲労が私を襲ったが、アルフレッドのことを考え、彼の手の温もりと励ましを繰り返し思い出しながら、何とか意識を保っていた。

「もう少しです、頑張ってください」

私付きの侍女が涙を浮かべながら、額の汗を拭ってくれた。

ついに、赤ちゃんの泣き声が響き渡った。私は安堵の表情を浮かべ、涙を流しながら赤ちゃんを抱きしめた。
アルフレッドも感動の涙を流し、二人は新しい命の誕生を喜び合った。

「カレン、本当にありがとう。君と赤ちゃんが無事で本当に良かった」

アルフレッドは感謝の気持ちを込めて私を抱きしめた。

私は微笑みながら彼の顔を見て小さな声で呟いた。

「私たちの赤ちゃん、これから一緒に……」

24時間にも及ぶ時間をかけての出産で、出血も多く、私の体力はもう限界だった。アルフレッドと話をしたかったが、目を開けていられなかった。
ゆっくりと目を閉じて、そのまま眠りについてしまった。



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