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46逆襲
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ひと月程が過ぎた時だった。
昼休み、同じ事務所の弁護士仲間に休憩室に呼ばれた。
「アイラさん!アイラ先生!ちょっと来てください」
休憩室では事務所のみんながテーブルに集まり新聞の紙面に釘付けになっていた。
紙面の中にはフロストがいた。
そして数名のオメガの愛人達とその子供が記者会見を開いている写真が載っていた。
フロストは負けたままではいなかった。
自分に対する接近を禁止したにもかかわらず、オメガの元愛人と子供たちに自ら接触してきたのだ。
解決金を支払ったが、彼らにそれより多い金を渡して、子供時代、フロストから自分は大事にされていたなど嘘の証言を引き出し、会見で喋らせていた。
紙面の内容では、フロスト氏は父親としてちゃんと子供を養っていたと非嫡出子たちが証言していると書いてあった。
「では、なぜフロスト氏は子供たちを認知しなかったのか?」という記者の質問に対し、フロストの子供たちは「自分たちがそれを望まなかったからです」と答えたらしい。
はっきりと、子供たちは認知を望んでいなかったと書いている。
「なぜ望まなったのでしょう。大きな会社を継ぐことができたのにおかしいですよね!」
ナンシーさんが記事に対して疑問を言った。
「えっと、彼らの母親達が、子供をつくるつもりはなかったのに、それに失敗してできたんだって言ったからですって」
「どういう意味ですか?」
「父親のフロストに認知の要求できないと母親が言っていたから、自分たちはそうだと思っていくるめられていただけだったって書いてます」
「記事には、オメガのひとり親には政府から助成金が出るから問題はなかったのだろうって書いてます」
そんな出鱈目なことを、記者たちは信じたのだろうか?さも真実のように紙面には書いてあった。
「嘘ばっかりですね!信じられない!」
事務所のメンバーたちは、皆はらわたが煮えくり返る程怒っている。
私も悔しさのあまり、テーブルを拳で叩いていた。
フロストの新しい弁護士が最もだろうという様子で、自分たちは被害者だとでもいう様子で報道関係者に語っていたようだった。
助成金が出るといっても大した額ではない。苦労して節約し、ギリギリ生活できるレベルのものだ。そんなことは、新聞の購読者には分からないだろう。
「失敗してできたなんて、王都新聞を使って言う言葉じゃないです!」
「ありえない。金を使って嘘の証言をさせているんですよ」
事務所の女性たちは泣きながら言葉を吐いた。
自分の婚外子だけではなく、元愛人の母親達にもフロストは金を渡していた。
「自分が悪かったところもあります。トラップまでとはいいませんが、生活が楽になると思い自ら望んで愛人契約をしたんです」
愛人がマスコミに話しだしてしまっていた。
それが全て、金を渡されたから言った母親たちの「虚偽」であるのは明白だった。
けれど、世の中の人々は、オメガに対する昔からのイメージを払しょくしきれない考えの人も多かった。その会見でフロストを加害者ではなく、被害者だと考える人たちが出てきてしまった。
そして、世論は真っ二つに割れた。
この問題が連日新聞で取り上げられ、バース性に詳しい専門家などがこぞって意見を言い合った。
「あの時、すべての請求を呑む代わりに、彼女たちがフロスト氏に対して今後、連絡、接触をして来ないことを約束させた。番関係や慰謝料請求の件について他人に言いふらされないよう他言禁止も約束させました。しかしまさか、逆のことになるなんて、思ってなかった」
ワーナー弁護士がそう言う。彼の表情は硬かった。
「フロスト側からの、オメガの愛人や子供に対する接触を禁止していなかったんですね」
完全な対策不足だった。私たちの裏をかかれた。そして私たちは味方に裏切られてしまった。
悔しい結果となり、私としてはスッキリしない最悪な結末だった。
「例え、オメガの愛人たちに、フロストが会うことを禁止していたとしても、その違反金など彼にとっては、はした金だからな。違反してでも会見しただろう」
マシュー弁護士の表情も険しい。
「そうですね、これで会社の業績が持ち直せば安いものですね」
私は胸が詰まるような感覚でそう呟いた。
世の中にはいい加減な人もいて、そしてそのような人はみな浅はかだった。
たとえ嘘をついても、お金を貰えるのなら構わないと考えた愛人とその子供たち。
今まで戦ってきた、自分達の力が及ばなかったのか。私は悔しさに奥歯を噛み締めた。
「金で動いた証拠を見つければいいのではないでしょうか?愛人達に渡した金銭授受の証言が得られれば」
「いや、本来はあの人たちを救うためにやった事だったから、彼女たちを貶めるのは違うだろう」
今までやってきた私とマシュー弁護士、そして事務所の皆の苦労が水の泡になった瞬間だった。
***
その日の帰り道、ビルから出てきた私とジョン君に石を投げつける人がいた。
ガシャンと石は後ろのビルの壁に当たった。
「オメガのくせに生意気だ!オメガのくせに大きな顔しやがって」
その人達は走って逃げていった。
「私さん!大丈夫ですか!」
「ええ、大丈夫よ。当たらなかった」
ジョン君は心配して私を覗き込んだ。
フロストの件がオメガに対する差別の助長に繋がっては本末転倒だ。
「そろそろ、僕が表に出る時期だと思います」
ジョン君は決意に満ちた顔でしっかりとそう言った。
「機は熟したわね」
私はゆっくり頷いた。
昼休み、同じ事務所の弁護士仲間に休憩室に呼ばれた。
「アイラさん!アイラ先生!ちょっと来てください」
休憩室では事務所のみんながテーブルに集まり新聞の紙面に釘付けになっていた。
紙面の中にはフロストがいた。
そして数名のオメガの愛人達とその子供が記者会見を開いている写真が載っていた。
フロストは負けたままではいなかった。
自分に対する接近を禁止したにもかかわらず、オメガの元愛人と子供たちに自ら接触してきたのだ。
解決金を支払ったが、彼らにそれより多い金を渡して、子供時代、フロストから自分は大事にされていたなど嘘の証言を引き出し、会見で喋らせていた。
紙面の内容では、フロスト氏は父親としてちゃんと子供を養っていたと非嫡出子たちが証言していると書いてあった。
「では、なぜフロスト氏は子供たちを認知しなかったのか?」という記者の質問に対し、フロストの子供たちは「自分たちがそれを望まなかったからです」と答えたらしい。
はっきりと、子供たちは認知を望んでいなかったと書いている。
「なぜ望まなったのでしょう。大きな会社を継ぐことができたのにおかしいですよね!」
ナンシーさんが記事に対して疑問を言った。
「えっと、彼らの母親達が、子供をつくるつもりはなかったのに、それに失敗してできたんだって言ったからですって」
「どういう意味ですか?」
「父親のフロストに認知の要求できないと母親が言っていたから、自分たちはそうだと思っていくるめられていただけだったって書いてます」
「記事には、オメガのひとり親には政府から助成金が出るから問題はなかったのだろうって書いてます」
そんな出鱈目なことを、記者たちは信じたのだろうか?さも真実のように紙面には書いてあった。
「嘘ばっかりですね!信じられない!」
事務所のメンバーたちは、皆はらわたが煮えくり返る程怒っている。
私も悔しさのあまり、テーブルを拳で叩いていた。
フロストの新しい弁護士が最もだろうという様子で、自分たちは被害者だとでもいう様子で報道関係者に語っていたようだった。
助成金が出るといっても大した額ではない。苦労して節約し、ギリギリ生活できるレベルのものだ。そんなことは、新聞の購読者には分からないだろう。
「失敗してできたなんて、王都新聞を使って言う言葉じゃないです!」
「ありえない。金を使って嘘の証言をさせているんですよ」
事務所の女性たちは泣きながら言葉を吐いた。
自分の婚外子だけではなく、元愛人の母親達にもフロストは金を渡していた。
「自分が悪かったところもあります。トラップまでとはいいませんが、生活が楽になると思い自ら望んで愛人契約をしたんです」
愛人がマスコミに話しだしてしまっていた。
それが全て、金を渡されたから言った母親たちの「虚偽」であるのは明白だった。
けれど、世の中の人々は、オメガに対する昔からのイメージを払しょくしきれない考えの人も多かった。その会見でフロストを加害者ではなく、被害者だと考える人たちが出てきてしまった。
そして、世論は真っ二つに割れた。
この問題が連日新聞で取り上げられ、バース性に詳しい専門家などがこぞって意見を言い合った。
「あの時、すべての請求を呑む代わりに、彼女たちがフロスト氏に対して今後、連絡、接触をして来ないことを約束させた。番関係や慰謝料請求の件について他人に言いふらされないよう他言禁止も約束させました。しかしまさか、逆のことになるなんて、思ってなかった」
ワーナー弁護士がそう言う。彼の表情は硬かった。
「フロスト側からの、オメガの愛人や子供に対する接触を禁止していなかったんですね」
完全な対策不足だった。私たちの裏をかかれた。そして私たちは味方に裏切られてしまった。
悔しい結果となり、私としてはスッキリしない最悪な結末だった。
「例え、オメガの愛人たちに、フロストが会うことを禁止していたとしても、その違反金など彼にとっては、はした金だからな。違反してでも会見しただろう」
マシュー弁護士の表情も険しい。
「そうですね、これで会社の業績が持ち直せば安いものですね」
私は胸が詰まるような感覚でそう呟いた。
世の中にはいい加減な人もいて、そしてそのような人はみな浅はかだった。
たとえ嘘をついても、お金を貰えるのなら構わないと考えた愛人とその子供たち。
今まで戦ってきた、自分達の力が及ばなかったのか。私は悔しさに奥歯を噛み締めた。
「金で動いた証拠を見つければいいのではないでしょうか?愛人達に渡した金銭授受の証言が得られれば」
「いや、本来はあの人たちを救うためにやった事だったから、彼女たちを貶めるのは違うだろう」
今までやってきた私とマシュー弁護士、そして事務所の皆の苦労が水の泡になった瞬間だった。
***
その日の帰り道、ビルから出てきた私とジョン君に石を投げつける人がいた。
ガシャンと石は後ろのビルの壁に当たった。
「オメガのくせに生意気だ!オメガのくせに大きな顔しやがって」
その人達は走って逃げていった。
「私さん!大丈夫ですか!」
「ええ、大丈夫よ。当たらなかった」
ジョン君は心配して私を覗き込んだ。
フロストの件がオメガに対する差別の助長に繋がっては本末転倒だ。
「そろそろ、僕が表に出る時期だと思います」
ジョン君は決意に満ちた顔でしっかりとそう言った。
「機は熟したわね」
私はゆっくり頷いた。
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