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43レイのマンション
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【アイラ視点】
久しぶりにレイのマンションに帰った。
留守にしていた1年近く、思い出さなかったことはなく、夜になるとレイのことを思い出して寂しくなった。今日帰ってくることが分かっていたのか、部屋はきれいに掃除されていた。自分で掃除したのかな?と想像すると、少し不思議な気分になった。
玄関を入った瞬間、彼のフェロモンの匂いが私の鼻腔をくすぐり、深く吸い込んで体中に取り込んだ。
『今マンションへ到着しました』
『お帰り!待ってたよ。今日は定時で必ず帰るから、一緒に夕食を食べよう』
『久しぶりに美味しいものを作りますね、待ってます』
『今すぐ飛んで帰りたいよ』
これ以上電話を続けると、レイは仕事を放棄して帰ってきそうだった。クスッと少し笑いながら、「ちゃんと仕事をして帰ってきてください」と言い、私は受話器を置いた。
ゼノスで過ごした1年で、学ぶことは多かった。あらゆるものを吸収し、私は成長して帰ってきた。
自分が生きていく方向性も決まり、将来の夢を叶え、やっと前へ進むことができると思うと嬉しかった。
そろそろレイとの関係もはっきりさせるべきだ。私をずっと支えてくれ、いつも見守っていてくれた彼がいなければ、今の自分はなかったかもしれない。
自分の部屋に荷物を片付け、しばらくしたらマシュー弁護士のところに挨拶に行こうと決めたとき、ドアのベルが鳴った。
私が王都へ帰ってきたことは、一部の人にしか知らせていないはずなのに、この平日の時間帯に誰が来たのだろうと不思議に思った。
ドアののぞき窓を覗くと、そこには見覚えのある青年が立っていた。
久しぶりだと思い、私は彼を家に招き入れた。
彼はケヴィンさんの息子、ジョン君だった。
葬儀の時に何度か会ったが、まだ学院生だったこともあり、少年の面影を残すひ弱な印象の子だった。
お父さんが亡くなってから1年半ほどしか経っていなかったが、彼は随分成長したように見えた。あの時よりもずっと大人になったジョン君は、スーツを着て手土産を持参し、私に挨拶に来てくれたようだった。
***
「その節は大変お世話になりました」
「いえ、こちらこそ……元気でしたか?私が帰ってきたことがよくわかったね」
「はい、おかげさまで。アイラさんのことはマシュー法律事務所のマシュー先生から聞いていました」
そうか、マシューさんに聞いたんだと納得した。
私はジョン君をリビングに案内した。私はケヴィンさんの代わりに、ジョン君の将来をちゃんと見届けたいと思っている。
「この先、ジョン君は就職するの?それとも大学院でまだ学ぶのかな?」
確か、法学部だと聞いていた。
「今は学院の4年生で、法学部の学生です。進路は父が望んでいたように弁護士を目指したいのですが、僕はそれほどできが良くなくて……オメガ専門法務士や弁護士は無理でも、何らかの法律に携わる仕事に就ければいいと考えて、大学院に進学しようと思っています」
よく見ると、彼のスーツはリクルートスーツだった。もう4年生なんだと思うと感慨深い。
弁護士になろうと思っても、簡単にはなれるわけではない。かなりの難関だ。自分も血の滲むような努力をした。
前回会った時にはそれほど気にしていなかったが、こういった明るい場所で彼を見ると一目瞭然だった。男性にしては線が細く、目がクリンとしていて可愛らしい顔立ちをしている。もしかしたら……彼は……
「僕はオメガです」
彼は自分からそう言った。私は頷く。
「やはりバース性は、就職に不利だなと感じるところがあります。偏見をなくそうという働きがある今でも、多少なりともそういう差別はあります」
「そうね。この世の中にバースが存在する限り、差別はなくならないのかもしれない」
けれど、オメガだから無理だと思ってほしくない。オメガでもできることはある。そのお手本は私だ。
私は彼の葛藤を感じながらも、心の中で負けるな!とエールを送った。
話し方もしっかりしているし、「自分はできが良くない」と自信なさげなことを言ってはいるが、お父さん(ケヴィンさん)と同じように正義を重んじる人物に見えた。何か心に秘めた決意を持っているのかもしれない。
彼が22歳だとすると、私より3つ下。あまり年齢は変わらない。
当時、ケヴィンさんはオメガである私の姿を自分の息子に重ねていたのかもしれない。しっかりと成長した息子さんを見ると、目頭が熱くなった。
「私と君とは、あまり年齢が変わらない。お父さんのことは、本当に申し訳ないと思っています」
深々と頭を下げる私。
「何度も言いましたが、アイラさんの責任ではありませんので、その辺はもう……」
そう言うと、彼は苦笑した。そして、持ってきた鞄の中からケヴィンさんの業務日誌を取り出した。
久しぶりにレイのマンションに帰った。
留守にしていた1年近く、思い出さなかったことはなく、夜になるとレイのことを思い出して寂しくなった。今日帰ってくることが分かっていたのか、部屋はきれいに掃除されていた。自分で掃除したのかな?と想像すると、少し不思議な気分になった。
玄関を入った瞬間、彼のフェロモンの匂いが私の鼻腔をくすぐり、深く吸い込んで体中に取り込んだ。
『今マンションへ到着しました』
『お帰り!待ってたよ。今日は定時で必ず帰るから、一緒に夕食を食べよう』
『久しぶりに美味しいものを作りますね、待ってます』
『今すぐ飛んで帰りたいよ』
これ以上電話を続けると、レイは仕事を放棄して帰ってきそうだった。クスッと少し笑いながら、「ちゃんと仕事をして帰ってきてください」と言い、私は受話器を置いた。
ゼノスで過ごした1年で、学ぶことは多かった。あらゆるものを吸収し、私は成長して帰ってきた。
自分が生きていく方向性も決まり、将来の夢を叶え、やっと前へ進むことができると思うと嬉しかった。
そろそろレイとの関係もはっきりさせるべきだ。私をずっと支えてくれ、いつも見守っていてくれた彼がいなければ、今の自分はなかったかもしれない。
自分の部屋に荷物を片付け、しばらくしたらマシュー弁護士のところに挨拶に行こうと決めたとき、ドアのベルが鳴った。
私が王都へ帰ってきたことは、一部の人にしか知らせていないはずなのに、この平日の時間帯に誰が来たのだろうと不思議に思った。
ドアののぞき窓を覗くと、そこには見覚えのある青年が立っていた。
久しぶりだと思い、私は彼を家に招き入れた。
彼はケヴィンさんの息子、ジョン君だった。
葬儀の時に何度か会ったが、まだ学院生だったこともあり、少年の面影を残すひ弱な印象の子だった。
お父さんが亡くなってから1年半ほどしか経っていなかったが、彼は随分成長したように見えた。あの時よりもずっと大人になったジョン君は、スーツを着て手土産を持参し、私に挨拶に来てくれたようだった。
***
「その節は大変お世話になりました」
「いえ、こちらこそ……元気でしたか?私が帰ってきたことがよくわかったね」
「はい、おかげさまで。アイラさんのことはマシュー法律事務所のマシュー先生から聞いていました」
そうか、マシューさんに聞いたんだと納得した。
私はジョン君をリビングに案内した。私はケヴィンさんの代わりに、ジョン君の将来をちゃんと見届けたいと思っている。
「この先、ジョン君は就職するの?それとも大学院でまだ学ぶのかな?」
確か、法学部だと聞いていた。
「今は学院の4年生で、法学部の学生です。進路は父が望んでいたように弁護士を目指したいのですが、僕はそれほどできが良くなくて……オメガ専門法務士や弁護士は無理でも、何らかの法律に携わる仕事に就ければいいと考えて、大学院に進学しようと思っています」
よく見ると、彼のスーツはリクルートスーツだった。もう4年生なんだと思うと感慨深い。
弁護士になろうと思っても、簡単にはなれるわけではない。かなりの難関だ。自分も血の滲むような努力をした。
前回会った時にはそれほど気にしていなかったが、こういった明るい場所で彼を見ると一目瞭然だった。男性にしては線が細く、目がクリンとしていて可愛らしい顔立ちをしている。もしかしたら……彼は……
「僕はオメガです」
彼は自分からそう言った。私は頷く。
「やはりバース性は、就職に不利だなと感じるところがあります。偏見をなくそうという働きがある今でも、多少なりともそういう差別はあります」
「そうね。この世の中にバースが存在する限り、差別はなくならないのかもしれない」
けれど、オメガだから無理だと思ってほしくない。オメガでもできることはある。そのお手本は私だ。
私は彼の葛藤を感じながらも、心の中で負けるな!とエールを送った。
話し方もしっかりしているし、「自分はできが良くない」と自信なさげなことを言ってはいるが、お父さん(ケヴィンさん)と同じように正義を重んじる人物に見えた。何か心に秘めた決意を持っているのかもしれない。
彼が22歳だとすると、私より3つ下。あまり年齢は変わらない。
当時、ケヴィンさんはオメガである私の姿を自分の息子に重ねていたのかもしれない。しっかりと成長した息子さんを見ると、目頭が熱くなった。
「私と君とは、あまり年齢が変わらない。お父さんのことは、本当に申し訳ないと思っています」
深々と頭を下げる私。
「何度も言いましたが、アイラさんの責任ではありませんので、その辺はもう……」
そう言うと、彼は苦笑した。そして、持ってきた鞄の中からケヴィンさんの業務日誌を取り出した。
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