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37 ワーナー弁護士
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私はしばらくして、レイと共に外国へ旅行に経った。
こんな状況で、旅行など行きたくないと言ったが、レイは予約をしてしまったからと言って譲らなかった。
法務士試験に受かったお祝いであり、これから戦っていかなければならないのだから今しか時間はないよと言われた。
レイにもたくさん迷惑をかけたし、マシュー先生にも行ってくるべきだと言ってもらえたので、1週間外国へ行くことを了承した。
***
【マシュー視点】
私は、その間、フロストの代理人であるワーナー弁護士と話し合っていた。
「まさかアイラさんが、このような事を考えてらっしゃたとは、思っていませんでした」
ワーナー弁護士は苦笑いしながら、私の様子を伺っていた。
「フロスト氏は今までに行ってきた悪質な行為に対して、償わなければなりませんから」
「マシュー先生、報復からは何も生まれないですよ。気は晴れるかもしれませんが、アイラさんは、自らの身の置き場を間違えているように思います」
「まぁ、その辺は人それぞれ、考え方は違いますから。フロスト氏と何らかの手段で対抗するのなら、彼女にはこれしかなかったでしょう。そのために、血の滲むような努力をし、オメガ専門法務士になったのでしょうから」
「ご自分だけ認知してもらい、フロスト氏の子として会社を継ぐ方が余程……」
私は話を聴くまでもないと首を振った。
「早速ですが、愛人の子供たち全てに対する認知について……」
私は、アイラがこの国を出ている間に、ある程度話を進めたいと考えている。
フロスト氏側はアイラに接触して、彼女を取り込もうとするだろうから。
アイラがちゃんと話し合える状態ならいいが、彼女は自分の生い立ちに対して、かなりのストレスを抱えている。
私は、彼女が精神的に耐えられるほど、強くないと感じていた。
アイラと共に働いて分かったことは、彼女は自分一人だけの幸せを願っている訳ではないということだった。
フロストによって苦しめられてきたオメガの愛人たち、そしてその子供たち。
全ての人たちに平等に慰謝料が支払われる権利がある。
アイラはこの認知請求が、オメガの未来を変えると思っている。
自分の境遇と同じような生き方を強いられてきた人たちが、過去の辛い経験から立ち直るきっかけになれば良いと考えている。
「フロスト氏が任意に認知しない場合は、子どもの側から強制的に認知させる強制認知に踏みきります」
私は書類を読みあげる。
強制認知するには、家庭裁判所で「認知調停」や「認知の訴え」を申し立てる訳だから事が公になるのは目に見えている。
認知調停では、調停委員を介して父親と認知について話し合う。
鑑定などを行って父子関係が確認され、相手が納得すれば審判によって認知が成立する。
***
「フロストは全てを、内々に済ませたい意向です」
表情を変えずにワーナー弁護士は淡々と語る。
「人数が多すぎて、全てを終えるのにはかなりの時間がかかります」
これには、運転手のケヴィンさんから預かった業務日誌がかなり役に立った。
愛人であるオメガの女性の数は現在までに28名。
子供の数は15名。
番になっていないその場だけ関係をもった女性たちを数に入れると、50人は下らないだろう。
ひとりひとりに連絡を取り、フロストとの関係を聞くには人手が必要だった。
かなり骨が折れる作業を、事務所に雇い入れたアルバイトたちと、ナンシーがやってくれた。彼らの功績も大きい。
「どうやってこの人物たちを特定したのか、そこをフロスト氏は疑問に思っていました」
ワーナー弁護士はそれとなく探りを入れてくる。
「この人数ですし、全員の口を閉ざす事は容易ではないでしょうね」
私は質問には答えず、何処からでも情報の漏洩はあり得ることを示唆した。
ワーナー弁護士は頷いて、準備してきた案を話しだした。
「そちらとしても、できるだけ早急に事を進めたいと考えていらっしゃるでしょう。フロスト側としては素早く終結させるため、慰謝料の金額を含む全般的な解決金でお願いしたいと考えています」
フロスト側から出された提案は『鑑定を行い血縁関係が認められれば、すべての子供に対して慰謝料として300万を支払う』というものだった。
そして、その代りに「認知はしない」というものだ。
認知すれば遺産相続権が発生する。
それを回避するための案だろう。
やはりとも言うべきか、彼の愛人の子供たちはそろって裕福ではなかった。
子どもが成人していれば、過去の養育費請求はできないから仕方がない。
愛人の子供たちの考えは、何十年か後に手にするかもしれない数千万よりも目先の数百万に目がくらむのはやむを得ない事だろう。
そこは私も考えている。
認知しないのなら金額を吊り上げる。500万をこちら側は提示する。
学院の資金などを考えると、子供一人にいくらかかるか世の中の相場という物をわかっているのかとワーナー弁護士に詰め寄った。
500万でも少ないくらいだ。
しかしフロストの子供で、学院まで出ている者はいなかった。
そのため学費という名目では強くは出られない。
お互いの話し合いの結果、450万で手を打つことになった。
すんなり金額が決まったところを見ると、想定内だったと言うことだな。
フロストがあと何年生きるか分からないし、その時に財産があるという確実な保証はない。
100歳まで生きたとすれば、財産分与を待つまでに、自分の寿命が尽きるかもしれない。
アイラは納得いかないだろうが、子供たちにすれば認知されるよりも良い選択だろう。
そうなれば、やはり450万で手を打つのが得策だ。
成人していない子供に対しては養育費+450万で手を打った。
その総額は約8000万に及んだ
そして450万を支払う代わりに、決して他言はしないという条件が入った。
こんな状況で、旅行など行きたくないと言ったが、レイは予約をしてしまったからと言って譲らなかった。
法務士試験に受かったお祝いであり、これから戦っていかなければならないのだから今しか時間はないよと言われた。
レイにもたくさん迷惑をかけたし、マシュー先生にも行ってくるべきだと言ってもらえたので、1週間外国へ行くことを了承した。
***
【マシュー視点】
私は、その間、フロストの代理人であるワーナー弁護士と話し合っていた。
「まさかアイラさんが、このような事を考えてらっしゃたとは、思っていませんでした」
ワーナー弁護士は苦笑いしながら、私の様子を伺っていた。
「フロスト氏は今までに行ってきた悪質な行為に対して、償わなければなりませんから」
「マシュー先生、報復からは何も生まれないですよ。気は晴れるかもしれませんが、アイラさんは、自らの身の置き場を間違えているように思います」
「まぁ、その辺は人それぞれ、考え方は違いますから。フロスト氏と何らかの手段で対抗するのなら、彼女にはこれしかなかったでしょう。そのために、血の滲むような努力をし、オメガ専門法務士になったのでしょうから」
「ご自分だけ認知してもらい、フロスト氏の子として会社を継ぐ方が余程……」
私は話を聴くまでもないと首を振った。
「早速ですが、愛人の子供たち全てに対する認知について……」
私は、アイラがこの国を出ている間に、ある程度話を進めたいと考えている。
フロスト氏側はアイラに接触して、彼女を取り込もうとするだろうから。
アイラがちゃんと話し合える状態ならいいが、彼女は自分の生い立ちに対して、かなりのストレスを抱えている。
私は、彼女が精神的に耐えられるほど、強くないと感じていた。
アイラと共に働いて分かったことは、彼女は自分一人だけの幸せを願っている訳ではないということだった。
フロストによって苦しめられてきたオメガの愛人たち、そしてその子供たち。
全ての人たちに平等に慰謝料が支払われる権利がある。
アイラはこの認知請求が、オメガの未来を変えると思っている。
自分の境遇と同じような生き方を強いられてきた人たちが、過去の辛い経験から立ち直るきっかけになれば良いと考えている。
「フロスト氏が任意に認知しない場合は、子どもの側から強制的に認知させる強制認知に踏みきります」
私は書類を読みあげる。
強制認知するには、家庭裁判所で「認知調停」や「認知の訴え」を申し立てる訳だから事が公になるのは目に見えている。
認知調停では、調停委員を介して父親と認知について話し合う。
鑑定などを行って父子関係が確認され、相手が納得すれば審判によって認知が成立する。
***
「フロストは全てを、内々に済ませたい意向です」
表情を変えずにワーナー弁護士は淡々と語る。
「人数が多すぎて、全てを終えるのにはかなりの時間がかかります」
これには、運転手のケヴィンさんから預かった業務日誌がかなり役に立った。
愛人であるオメガの女性の数は現在までに28名。
子供の数は15名。
番になっていないその場だけ関係をもった女性たちを数に入れると、50人は下らないだろう。
ひとりひとりに連絡を取り、フロストとの関係を聞くには人手が必要だった。
かなり骨が折れる作業を、事務所に雇い入れたアルバイトたちと、ナンシーがやってくれた。彼らの功績も大きい。
「どうやってこの人物たちを特定したのか、そこをフロスト氏は疑問に思っていました」
ワーナー弁護士はそれとなく探りを入れてくる。
「この人数ですし、全員の口を閉ざす事は容易ではないでしょうね」
私は質問には答えず、何処からでも情報の漏洩はあり得ることを示唆した。
ワーナー弁護士は頷いて、準備してきた案を話しだした。
「そちらとしても、できるだけ早急に事を進めたいと考えていらっしゃるでしょう。フロスト側としては素早く終結させるため、慰謝料の金額を含む全般的な解決金でお願いしたいと考えています」
フロスト側から出された提案は『鑑定を行い血縁関係が認められれば、すべての子供に対して慰謝料として300万を支払う』というものだった。
そして、その代りに「認知はしない」というものだ。
認知すれば遺産相続権が発生する。
それを回避するための案だろう。
やはりとも言うべきか、彼の愛人の子供たちはそろって裕福ではなかった。
子どもが成人していれば、過去の養育費請求はできないから仕方がない。
愛人の子供たちの考えは、何十年か後に手にするかもしれない数千万よりも目先の数百万に目がくらむのはやむを得ない事だろう。
そこは私も考えている。
認知しないのなら金額を吊り上げる。500万をこちら側は提示する。
学院の資金などを考えると、子供一人にいくらかかるか世の中の相場という物をわかっているのかとワーナー弁護士に詰め寄った。
500万でも少ないくらいだ。
しかしフロストの子供で、学院まで出ている者はいなかった。
そのため学費という名目では強くは出られない。
お互いの話し合いの結果、450万で手を打つことになった。
すんなり金額が決まったところを見ると、想定内だったと言うことだな。
フロストがあと何年生きるか分からないし、その時に財産があるという確実な保証はない。
100歳まで生きたとすれば、財産分与を待つまでに、自分の寿命が尽きるかもしれない。
アイラは納得いかないだろうが、子供たちにすれば認知されるよりも良い選択だろう。
そうなれば、やはり450万で手を打つのが得策だ。
成人していない子供に対しては養育費+450万で手を打った。
その総額は約8000万に及んだ
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