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セルリアン領に帰ってしばらくの間、俺たちはイノシシ退治の話で盛り上がった。従者たちにとって印象深い出来事だったようだ。ひとつの村を救った救世主のような気分で自分たちを誇らしく思った。

「それにしてもあの少年は何者だったんでしょう?村人たちもあまり詳しくは知らないようでしたし」

城で定例会議をしている時にガストンが話を持ち出した。

「そうだな。彼が持っていた弓はかなり高価なものだった。矢もその辺の猟師の使うものではない戦いに用いられるタイプの良いものだったな」

村でイノシシを一緒に退治した少年の事をきいてみたが、村の民たちは狩人の少年に心当たりがないようだった。

「何処かの貴族のおぼっちゃんだったのかもしれませんね。ルミナ伯爵に息子はいないはずだから別の貴族の令息でしょうか。しかし貴族の息子が山で猟師の真似事なんてしないでしょう。やはり賞金目当ての狩人でしょうか」

「鍛えがいがありそうですよね。またルミナへ行くことがあれば捜してみてもいいかもしれないです」

「近々、視察も兼ねてルミナへ行きましょう。うちは貿易と海の恵みから発展してきましたが、穀物に関してはルミナに負けてしまうかもしれない。農作物の自給率は一目置かれる領地ですし学ぶことも多いでしょう」

そうだなと話していると、イアンが首を傾げた。

「話は戻りますが、あの少年……あれ、女じゃなかったですか?」

は?と皆がイアンの方を見る。

「いや、確かに男の服装でしたけど、肩を抱いた時に、どうも女のような気がしまして……」

華奢な肩といい首筋といい、男性らしくなかったという。突拍子もないイアンの意見に虚を突かれた。
しかし弓を射る女なんて見たことがない。


皆が記憶をたどり、あの時の少年の姿を思い出している。確かに美しい少年だと思った。声変わりもまだの少年だと思い込んでいたが、成人した女性である可能性も否定はできない。

「色白で美人だった」

「確かに肌もきれいだったな。腰も細かった」

「女の猟師か?貴族の弓の名手?金持ちの令嬢が狩りをするか?」

「クリスタ嬢だったりしないでしょうか?だって賞金はいらないって言ってました。賞金目当ての害獣退治じゃないとすれば、領地を荒らす厄介なイノシシを自ら狩りにきていたという事もあるかも」

「いや、いや、お前たち。そんなお上品な令嬢が弓を持って山に入っているわけないだろう。そんな令嬢、俺は見たことも聞いたこともない。流石にそれはないだろう」

イアンの妄想じゃないかと言ってはみたが、皆頭をひねるばかりだった。

しかし確かめてみる価値はあるかもしれない。『じゃじゃ馬な伯爵令嬢』ってのも面白いなと俺は頭の中で考えていた。
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