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最終章 ~最強の更に先へ~

第126話  【前鬼後鬼】コラヤンVS【六道】鎌鼬

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 時は少し遡り――

 鬼の国、アグカル国の平原。

「【前鬼】ヨウファン様、【後鬼】ヤマル様! こちらをお持ちください」

 コラヤン兄妹に渡された袋の中には、『全快フルポーション』のミスリルが入っていた。1人3個。

「お前たちは?」
「私たちは各々1個ずつ所持しています」
「そうか。無理だと思ったら迷わず撤退しろ、わかったな」
「「はい!」」

 ヨウファンの言葉に、お付きの精鋭たちは返事をした。
 そこは「最期までお供します」ではないか、とは誰も言わないし、思わない。

 命大事に。

 今回の最終決戦で最優先されるべき命令。
 最終決戦なのだから刺し違えてでも勝て、だと思っていたが、そうではなかった。

 命あっての物種……というわけではない。
 ラインの言う通り、魔物連合の本来の目的に『人』の殲滅は含まれていないと思われた。
 だからこそ、命大事に、で問題ないと思われた。

 それに、格下の戦士がいくらいようと、異次元級の格上には勝てはしない。
 だからこそ、命大事にだ。
 無駄に散る命を少しでも減らそうという考えだ。

「来たよ」

 そのとき、森の奥に巨大な火柱が上がった。
 その火柱から数十もの影が飛び出してきた。

『我らは魔物連合!』
『第二隊、近接戦闘部隊隊長。アーガーシャ』
『第三隊、魔術部隊隊長。ナーラージャ』

 遅れて登場してきたのは、六本の腕に蛇の下半身。そっくりな見た目の魔物が2体。

『そして!』
『我らが盟主様直轄精鋭部隊【六道】!!』
鎌鼬かまいたち様!!』

 最後に火柱の中から1つの影が飛び出し、魔物たちの後方へ着地した。それと同時に、火柱は鎮火した。

 飛び出してきたのは、狐のような姿に、異様に伸びた人差し指の爪。
 ラインからの報告書にあった鎌鼬の特徴と一致している。

「ヤマル……」
「わかってる」
『…………【水晶使い】じゃないのか……一応、名前は聞いといてやる。そこの2人。名乗れ』

 鎌鼬はヨウファンとコラヤンを指名した。

「【前鬼】ヨウファン・コラヤン」
「【後鬼】ヤマル・コラヤン」
『……ほう、私たちと同じく兄妹なのか……』
『兄妹対兄妹……どちらの愛が勝つかの?』

 婆さんのような話し方をするナーラージャが妹なのか…………などと突っ込める雰囲気ではないため、ヨウファンとヤマルは黙っていた。
 戦いの前、少しでも緊張を和らげようと思考が変な方向へ向かう。ヨウファンの悪い癖だ。

『さて、それじゃ、始めようか。互いの存亡を賭けた戦いを!!』

 アーガーシャと配下の魔物たちが武器を取り、向かってくる。
 ナーラージャは2体の配下と共に魔法を放つ準備をしている。

『『――『炎球ブレイズボール』』』

 そして、8発――ナーラージャが6発、配下の魔物2体がそれぞれ1発――の『炎球ブレイズボール』がヨウファンたちに迫る。

 ヨウファンとヤマルはそれらを避け、アーガーシャと刃を交えた。
 アーガーシャは6本の腕それぞれに武器を所持しているため、コラヤン兄妹は手数の面では圧倒的不利だった。
 しかし、2人は連携で不利をないものとした。

「どうしたどうした! この程度か!?」
『く……』

 ヨウファンとヤマルが次々と繰り出す攻撃に、いつの間にかアーガーシャは防戦一方となっていた。
 そのとき。

『――『縦風デミグラビティ』』

 鎌鼬が突如として魔法を放つと、ヨウファンは体を押し付ける圧を感じた。

「これは……動けん!」
『な……なぜ……!』

 ――しかし、それは敵も同じだった。
 
 この場にいる鎌鼬以外の生物は、体の自由を奪われていた。そして、

『魔物連合は実質解散だな。お前たちは用済みだそうだ。さらばだ――『鎌鼬』』
『ふ、ふざ――』
『に――』

 鎌鼬を中心に、辺りに断層が走る。
 魔物連合の魔物たちは、体を両断され、絶命していた。

「「はぁ!!」」

 ヨウファンとヤマルはなんとか動けるようで、なんとか攻撃を避けることができた。
 しかし、他の近衛騎士や冒険者は……。

『動くか……だが、これは受け止めるわけにはいくまい?』

 そう言うと鎌鼬は『鎌鼬』をヨウファンとヤマルに向け、連射した。
 ヨウファンとヤマルはただひたすらに避け続けた。

 2人はラインの報告書で、この魔法に防御は無意味だということを知っていた。
 ラインの水晶を容易く突破する魔法など、防げるはずがない。

 ラインの水晶はオリハルコンに次ぐ硬さを持つ。
 本音で言えば、オリハルコン級だ。オリハルコン級の硬さを何でもない顔で生成されるのは少しばかり腹立たしいから言わないが。





 もう何発避けたかわからなくなった頃、ようやく攻撃の雨と体の若干の不自由さが消えた。

『くっ……』

 鎌鼬の顔から汗が球となって毛皮を濡らしながら垂れていた。

『まさか……ここまで動けたとは……大きな誤算だった』
「あまりなめ過ぎないことだ、わかったか!」
『ああ、よ~~く理解した』

 鎌鼬は両腕を大きく広げ、ヨウファンに向かって距離を詰めた。
 そして、無造作にその右手を振り上げた。

 ヨウファンは軽く1歩下がってそれを避けた。
 そして、追撃を仕掛けようとする鎌鼬にヨウファンの股下から1本の槍が迫った。
 鎌鼬は反応しきれず、左足に攻撃を食らった。

『くっ……――『台風目ストームズアイ』』
「な!」
「う!」

 ヨウファンとヤマルは吹き飛ばされた。
 ヤマルが下敷きとなり、ヨウファンは無事だった。

「すまん、ヤマル!」
「大丈夫!」
「回復するぞ。このままじゃまずい!」
「もち……え!?」

 2人は即座に起き上がり、回復を試みた。
 ヤマルは懐からミスリルを取り出そうと手を伸ばすが、何度も空を切った。
 目で確認すると、そこにあったはずの袋がなくなっていた。

「俺もだ」

 ヨウファンも同じ状況だった。

『お探しはこれかな?』

 鎌鼬の手の中には、2つの袋があった。
 間違いなく、ヨウファンとヤマルのものだ。

『――『風掏ピクシーズトリック』。お前たちが攻撃を避けている間に盗ませてもらった。さて、これは邪魔だな』

 そう言うと、鎌鼬は2つの袋を上空へ放り投げ、『鎌鼬』を放ち、ミスリルを破壊した。
 これで、誰も回復することなくミスリルは効果を失った。

 ヨウファンとヤマルは、回復手段を完全に失った。

 そして次の瞬間

『――『竜巻檻トルネードフィールド』』

 2人は周囲を無数の竜巻に囲まれた。
 逃げ道は残っていない。
 竜巻は地面を抉りながらも、ただただ、そこに佇んでいる。

『これで終わりか』

 鎌鼬は最初からこれのために魔力を温存していた。
 これですべてを決するために。

 だが、鎌鼬は背を向けることはしない。
 なぜなら、これからが始まりなのだから。

 こんな檻、展開するだけで敵を倒せるか? ……否。
 こんな檻、長時間の展開は可能か? ……否。

 と、いうわけだ。
 これから鎌鼬は、攻撃に移る。





 
 
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