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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第119話  余興会議③

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「それでは!!」

 副騎士団長のその一言で、会場は一瞬にして静まりかえった。
 魔法を使用せずにあの声量か。魔法なり魔法具なり使いなさいよ……。

「【水晶使い】ライン・ルルクスと、【前鬼】ヨウファン・コラヤンの模擬戦を行う!! 両者用意…………始め!!!」

 オレは刀、コラヤン兄は大剣を握りしめる。
 コラヤン兄はオレと呼吸を合わせると、真っすぐに向かってきた。

 オレは刀を抜刀し、

「――『飛撃』」

 を放った。
 そして、返す刀でもう一度、二度、三度、『飛撃』を放つ。
 合計4つの『飛撃』が菱形を描きつつ、コラヤン兄に迫る。

「うおおおお…………お゛!!」

 コラヤン兄は速度を上げ、大剣を前に突き出す。
 コラヤン兄は一つの砲弾となり、オレの放った攻撃を真正面から突き破った。

 その速度は維持できないのか、すぐにまた減速――元の速さに戻った。
 そして、右切り上げの『飛撃』を放つ。

 何度も言うが、コラヤン兄の持つ大剣の重量は異常だ。一般の大剣の重量を優に超える。
 だからこそ、それから放たれる『飛撃』の威力も馬鹿らしいレベルにまで到達する。
 


 こんな大勢の観客に囲まれているこの状況。
 華麗に受け流すこともできるがここは敢えて、……な?



 今まで、まったく使ってこなかったオリハルコンの形態の一つ。
 ――盾。

 『晶盾しょうじゅん』があったから、これを使う機会チャンスがまったくなかった。
 耐久性はこちらのオリハルコンの盾の方が高いにも関わらずだ。

 そう、今こそその耐久性が役に立つとき!

 高さが地面から肩まである大盾を構え、衝撃に備える。
 そのコンマ数秒後、凄まじい衝撃が盾を伝い、肩口を伝い、体の内部へ染み渡る。
 
「ぐっ……!!」

 その衝撃は、オレを後ろへ軽く10メートルほど下がらせた。

 だが、止まった。
 受けたダメージは0。盾も傷一つついていない。

「「おぉおおおおおお!!!」」

 歓声が沸き起こる。

「――『秘剣・流水』」

 コラヤン兄の持つ大剣に水が纏わりついた。
 大剣の表面積も相まって、かなりの量の水だ。
 元の大剣の質量も馬鹿にならなかったが、あの大量の水の持つ質量も半端じゃないだろう。

 ……コラヤン兄の攻撃は圧倒的質量によるパワー攻撃が多いな。
 ターバみたいな手数重視型とは相性が悪い。が、それすらも度外視してしまうほどの質量だ。
 
 こればかりは盾で受けるわけにはいかないな。

「……もう終わらせようか。オレの力も見せないといけないからな」
「なら、それを阻止して俺を皆に魅せよう」

 水晶を解禁する。
 別に封印していたわけではないんだケド。

「――『晶弾・龍』」

 大量の『晶弾』がコラヤン兄にむかって飛ぶ。
 
「はぁ!!」

 コラヤン兄が剣を振るうと、水が剣の軌跡を描く。
 そして、ただただ剣を振るい続けることで、コラヤン兄を中心とした水の檻が構成される。
 水の軌跡も長い時間あるわけではないが、それをカバーするのが剣速。

 片っ端から『晶弾』が砕かれる。
 ――だが、問題はない!
 
 コラヤン兄の頭上で、直径20メートルにも及ぶ『隕晶』が生成されていることに、コラヤン兄は気づいていない。
 影は水の檻が遮り、魔力探知も水の檻が遮り、意識は『晶弾・龍』に向けられている。

 そして、生成が完了した『隕晶』を自由落下させる。
 殺すわけにはいかないから、形を考えないといけなかったため、生成に時間がかかってしまった。

「な――」

 コラヤン兄は水の檻ごと、水晶に押しつぶされた。
 辺りに轟音と砂煙が巻き上がる。
 ……防音されているかな? 
 
 そして、『隕晶』が魔力操作範囲内に入るように近づき、『隕晶』を無数の『晶装・槍』に変化させる。
 大量の、水晶でできた槍が矛先をコラヤン兄のいた方向を向いている。
 仮面がないせいで、砂煙の中を見渡せない。

 そして、砂煙が晴れる。
 そこには、大剣を地面に突き刺し、かろうじて立っているコラヤン兄がいた。

「はぁ……はぁ……」

 『晶装・槍』を接近させ、喉、額、眉間、心臓、背中、両太腿、両足甲へ矛先を向ける。
 足甲は防具を纏っているが、ダメージは入る。
 心臓――胸部も防具で守られてはいるが、それでも牽制にはなる。

「――【水晶使い】ライン・ルルクスの勝利!!」
「「おぉぉおおおおおおお!!!」」

 大歓声が沸き起こった。
 おい。ウェーブをするな、ウェーブを。
 
 水晶を解除する。
 
「「――『回復ヒール』」」

 どこからか回復魔術が、オレとコラヤン兄にそれぞれかけられる。
 辺りをぐるりと見渡すと、いつの間にか騎士団長と【魔導士】は消えていた。
 野暮用だったらいいんだが、あの2人が揃いも揃っていないとなると、一抹の不安がよぎるってもんだ。

「んじゃ、オレは帰って寝る」
「……まだ8時だが…………まあいい。ありがとな」

 お? コラヤン兄に似つかわしくない言葉が飛び出てきたぞ。明日は雪か?

「認めなければならないな。お前はヤマルの師匠に相応しい」
「ふふん!」
「なぜお前が鼻を高くする。そこはオレだろが」

 なぜヤマルが得意そうな表情をしているのか……まったく。

 そして、帰ろうと訓練場を後にしようとすると、今度はへラリア第三隊隊長――ペテル・ヴァシクスがやってきて、耳元でこう囁いた。

「騎士団長が呼んでいる。ゆっくりでいいから、騎士団長の部屋へ来い」
「……了解」

 ペテル・ヴァシクス。
 騎士団長と互角の実力を有する強者。
 公の場では寡黙になるが、実はおおらかな人で、部下からの信頼も厚い。
 戦闘は近接型で、遊撃部隊である第三隊の隊長なだけあり、個人戦闘を得意とする。

 ……だったか。
 騎士団長が聖物を所持していなければ、騎士団長の座はペテル・ヴァシクスのものだっただろうと噂されてはいるが……。
 
「そんなの、蹴りそうだな」

 今、初めて近づいて話をしてわかった。
 あれだ。自由奔放な人だ、この人は。

 今の隊長の座だって、騎士や冒険者たちからのあまりの希望により、嫌々――上からの命令――着いたようなものだ。
 ただ、与えられた役割はちゃんとこなすようで、第三隊は精鋭部隊にも匹敵すると言われている。

「さて、オレも騎士団長の部屋に向かうとするかね……」

 ターバは呼ばれていないのか……?
 ……あれ、いつの間にかいない。さっきまでいたと思ったんだが……人混みに隠れているのか? 





 王城の隣に建てられた尖塔に向かう。
 扉からは微かに光が漏れ出ていた。扉が開いているな。不用心な……。
 
 扉をノックし、

「……ラインです」

 【水晶使い】か、ラインかで迷ったが、どちらでもよかっただろう。

 ぎぃ……と扉が開かれ、顔を覗かした。
 
「おお、来たか」

 扉から顔を覗かしたのは、ターバだった。

「は!? おま……いつの間に」
「ああ、【魔導士】に一緒に運んでもらった」

 そうか……その手があったのか。

「何はともあれ、入った入った」

 自分の家であるかのように招き入れるターバに対し、オレは

「失礼します」
 
 騎士団長の家であることを忘れず、礼儀を正した。

 中には、各国騎士団長、副騎士団長。
 ペテル、ターバ、【魔導士】が机を囲んで立っていた。

「来たか、ライン。では、始めよう」

 騎士団長の言葉で、何かが始まった。
 何も知らされていないんだけど。

「今回、至急の呼び出しに応じてくれたこと、感謝する。本題だ」

 オレたちは静かに首を縦に振る。
 ……この部屋、意外と広いんだな。

 そう思っていると、執事が水の入ったコップを机に置きだした。
 机の上にはすでに、世界地図が置かれていた。

 世界地図には何も文字は書かれていない。
 都市の名前も、国の名前も。
 国境線は引かれているが。

 そして、騎士団長は口を開き、衝撃の出来事を吐き出した。

「――私は先日、矢の放たれたであろう地点周辺の探索のため、ミスリル級冒険者20人を派遣した」







 
 
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